十三話目
「おや? 学園長じゃないですか? どうしたのです?」
学園長が中に入ると一人の男性の声が聞けてくる。低く、相手に威圧感を与える声色だった。
「アルファポ、お主に頼みがある」
「頼みですか? 私はあなたとと違って忙しいのですが……アナタがE組などに構っている間、学園の仕事を一手に引き受けなければならないのですから……」
「サシュタイン君に迷宮を使わせてやってはくれないか?」
「サシュタイン? 誰です?」
「うむ。新しく入った生徒じゃよ。ほれ、こやつじゃ」
俺は学園長に呼ばれ、中にはいっていった。部屋の真ん中には書類が山積みの机があった。その山積みの書類の向こうに、背が高く、まるで女性のような長い髪の男性が座っていた。彼がアルファポなのだろう。
「俺です。サシュタイン・ベルウノです」
俺が名を名乗ると、アルファポは学園長にこういう尋ねた。
「学園長? 誰に迷宮を使わせろと言ってるんですか? 誰もいないじゃないですか?」
「俺ですよ? ここにいますけど?」
「学園長? ここには私と学園長。それにスノウさんしかいないじゃないですか? バカなことを言わないで下さい」
そうか、アルファポは俺のことを少しは聞いていたのだろう。そしてE組に入ると言うことも。確かアルファポはE組の生徒たちはいないものとして扱うとか言ってたな。なるほど、こういう事か。
「チッ! ここにゴミを入れるとは。あの二人、後でお仕置だな……」
だが、そうtアルファポが呟いたことを俺は見逃さなかった。ま、見えたり聞こえたりはしてるみたいだな。
「教頭……お願いします!」
スノウも俺の横で頭を下げていた。だが、それを嘲笑うかのようにアルファポはこう返してきた。
「私は何をお願いされているのでしょう……存在しない人間に迷宮を使わせろと? そんなこと出来るワケないではありませんか? 常識的に考えて下さい」
「クッ!」
スノウは下げていた顔をあげ、怒りを込めた視線でアルファポを睨んだ。だが、アルファポは涼しい顔をしている……
「ああ、スノウさん。アナタはとても優秀な生徒だ。魔法力も素晴らしいモノがある。ただ、その魔法、上位の者には効かないのですよ。無駄なことはお止めなさい」
「そ、そんな……ダブルシャインには効いたのに……」
スノウは洗脳の魔法が効かなかったことに愕然としていた。
「スノウ君。儂やアルファポにそれは効かんよ。チミは確かに歴代生徒でも素火武多有の数値はトップじゃ。だが、それはあくまで生徒の中での話。儂やアルファポには及ばん」
「でも……学園長……」
スノウは困ったような表情を学園長に見せていた。
「そもそも学園長? 迷宮を使わせないのは危険だからじゃないですか? 別に使いたければ使えばいいんですよ。ちゃーんと力を示せばね」
するとアルファポは一つの冊子を手に取り、それで机の上をパンパンと叩いた。
「これの表紙に載ること。単純じゃぁないですか? これの表紙に載れば、力があると認めて使わせましょう。そう決まってるだけじゃないですか?」
「あれは何だ?」
俺は囁くようにスノウに尋ねると、スノウも囁くように答えを返してくれた。
「あれはランキング表です。この学園の成績を決めるランキング。年間で一位に輝くと学園長から、本当にお主は強いのぉ、とお褒めの言葉を頂けるんです。表紙には十位までの人の名が記されております」
なるほど……あれには生徒の名前が記されているみたいだな。
「だからあれは、本当にお主は強いのぉランキングと呼ばれてます。もしくはHOTランキングとも……大体が後者で呼びますが……」
「HOTランキングか……もしかして、E組の生徒が土台に乗らないと言っていたあれか?」
「ええ、アルファポはHOTランキングのみで価値を判断してます。そして、そもそもアルファポにとって無価値な人間はHOTランキングに載せる必要もない。という訳です」
俺はスノウからそこまで聞くと、一歩前に出て哀れむような表情でアルファポに視線を送った。
「なるほど……臆病なんだな、アルファポは」
「なんだと……」
「ははは! 耳まで悪いのか! チキン野郎だって言ったんだよ!」
そして俺はもう一歩進み、アルファポに指を突きつけてこう続ける。
「てめぇが認めない人間が、てめぇが認めた人間よりも上に立つのが怖ぇんだろ? 臆病者じゃねぇか?」
「フンッ! これだからゴミは……ゴミが我らが教える優秀な生徒に勝てる訳が無かろう?」
「やってみなきゃわかんねだろ!」
「じゃあ……そうだな……HOTランキング十位、そう丁度十位の生徒と戦ってみろ! 勝ったら迷宮の話、考えてやるよ」
「言ったな! 受けて……」
言いかけた言葉をスノウが背後から遮ってくる。
「お、おにぃ……」
「なんだ! スノウ! お前は止めるというのか!」
「え、えっと……私は嫌です! おにぃと戦うのなんて!」
スノウと戦う? もしかして……
そう思った俺はゆっくりと視線を学園長に送る。すると学園長もゆっくりと頷いてきた。
「うむ。スノウ君は今ちょうど十番目じゃ」
よし! やっぱ受けて立つのはヤメヤメ!
「アルファポ、さっきの話は忘れてやるよ。十位の生徒と戦うって話をな」
「なに……」
「臆病者の考えそうなことだよ。自分は戦いたくないって考えたんだろ?」
「馬鹿なことを……」
アルファポが怒りで小刻みに震えているのがハッキリとわかる。ここはもう一押しだな!
「てめぇが直接俺と戦えよ! アルファポ!」
「だが断る」
「は?」
「私にメリットが何も無い」
ってかさ、それ言っちゃったらお終いじゃない? そもそも迷宮使わせるのもアルファポにメリット無くない?
言葉に詰まってしまった俺の代わりと言わんばかりに、今度は学園長がアルファポに話しかけた。
「では、こういうのはどうじゃ? サシュタイン君の力が分かればいいんじゃろ? 丁度来週対抗戦がある。それにサシュタイン君を出してみては?」
「あれはHOTランキングで三番目までの生徒しか出られないですよ? 学園長……」
「三番目はちょうど空いておるじゃろう。そこにサシュタイン君を入れて出して力を見てみればいい。なに、一位と二位の生徒だけでも、第二学園の生徒に負けはしないじゃろ?」
アルファポは腕を組み、目を閉じながら暫く考えていた。そして、その姿勢のまま、一つだけ頷いた。
「ふむ……それならいいでしょう」
「よし……決まったぞ、サシュタイン君。チミには来週の対抗戦に出てもらうことになった」
「話がよくわからないですが、俺で良いのなら……」
「儂はもう少しアルファポと話さなければならん。お主たちはもう帰ってよかろう」
「わかりました。今日はありがとうございます」
俺たちは学園長にお礼を述べて教頭室を出て帰宅の途についた。




