十一話目
俺たちが雑談をしていると、教室の扉が開かれた。するとそこには学園長が立っていた。
「学園長! もう大丈夫なんですか?」
俺は驚いて学園長の元へ駆け寄った。スノウとツフも俺に続く。
「インサイド君の治癒魔法のおかげじゃ、もう大丈夫じゃよ」
心配するなと言った様子で学園長が俺に手をかざした。と、同時にスノウが頭を下げる。
「学園長、兄がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ないです」
「事情は聞いたみたいじゃな? だが、サシュタイン君のせいではない。スノウ君が謝る必要などない」
学園長はゆっくりと首を横に振りながらスノウにそう優しく返し、こう続けた。
「逆に誰にも話さないでおいてくれるか?」
「どうしてです?」
「儂の結界が破られたんじゃ。それ以上は察してくれんかのう」
少し恥ずかしそうな顔で学園長は頬をポリポリとかいていた。自身の得意な魔を破られたことを公言されて嬉しい者などいないだろう。スノウもそれに気がついたようで、ハッとした表情になった。
「あ! かしこまりました」
「しかし、どうしたものかのう……」
「何かお困りですか?」
困った様子の学園長に俺はそう尋ねた。
「困ったもなにも、チミにだよ。サシュタイン君」
「俺ですか?」
「そう、これから何をさせようか……と思ってな」
「何を……って……あ!」
「さすがにまたサシュタイン君を螺美輪好に入れる訳にはいかないからのう」
そう、一度破ってしまった魔法。しかもその反動で学園長倒れてしまっている。俺を再度入れる訳にはいかないことは想像出来た。
「違いないねぇ! また学園長を倒されちゃ、あたいたちもやること無くなっちまう!」
「かと言って、何か教えるということも出来ぬし……」
「ほらな、俺は機織りでもしてた方がよかったんだよ」
俺は少し自虐的に肩を竦めてスノウにそう言った。学園に来ても出来ることがないのでは来る意味も無いに等しい。が、俺のその言葉にスノウは怒りをあらわにした。
「そんなことはありませんわ! おにぃは何も悪くありません! おにぃの役に立たないこの学園が悪いのです!」
「スノウ? 仮にもその学園の長の前だぞ?」
「構うものですか!」
「まぁよい。スノウ君の言う事も事実だしのう。だが、役に立たないとはまだ決まってないわい」
「他に何かあるのですか?」
「螺美輪好ではない迷宮を使えば良かろう……」
「確かに第一学園にも迷宮はあると聞きましたが、使わせて貰えないのでは?」
確か、学園の施設はE組使わせて貰えないという話だったはず。保健室も実際そうだったし……
「ま、そこが一番の問題なのじゃが……使わせない表向きな理由自体は不当という訳では無いからのう」
「表向き?」
「そうじゃ。簡単にいえば危険だからじゃ」
俺はなるほど……と思い一つ頷いた。
「だから上位の生徒にしか使わせておらん。引率の教師にも限りはあるからのう」
「まあ、それは正当な理由といえばそうですね」
確かに正当な理由ではある。が、ツフがその言葉に少しだけ怒りを込めた様子で声を荒らげる。
「でも、その上位の決め方が問題なんだろ!」
「まあ、そこは否定はせん」
「アルファポが決めた順位! それによってだけ決めるなんて、明らかにE組に不利じゃないか! そもそもその土台に乗ることすら出来ないんだから!」
「すまぬな」
ツフの怒りに学園長は謝ることしかできない。
「評価の土台に乗らなければ、どんな力を持っていても、どんなに羨望を集めようとも、ゴミはゴミ。確かそんな感じの話でしたもんね?」
「おにぃを評価しないとは……なんて無能な……」
嘆くスノウを学園長はじっとみていた。そしてゆっくりと頷き、少し驚きを込めた声色で呟いた。
「しかし、なるほどな……サシュタイン君の言った通りじゃ」
「何がです?」
「スノウ君、君の数値が跳ね上がってるという話じゃよ」
「え?」
「サシュタイン君がのう、スノウ君を再度見てみたら面白いことになると教えてくれたんじゃ」
そういえばそんな話をしたな、と思った俺はスノウにこう説明をした。
「ああ、スノウは俺にずっと魔法を使っていただろ? それはスノウにとっても誓約っちゃ誓約だ。それを解いたんだ。使える容量が増えたんだから数値も跳ね上がるだろうなって」
「サシュタイン君にずっと魔法を使っていた? 何か強化でもされていたのか? そうか……だからあの時……」
学園長が言いかけた言葉をスノウが遮りながら訴えかける。
「違います! 学園長! 私が使っていたのは兄に誓約をかける魔法です! 自身にしか魔法をかけられない誓約を! それを解いただけです!」
「なるほど、それはまた異質な魔法じゃな」
「兄に他人には放つつもりはないからと頼まれて小さい頃にかけて、それ以来です。消費する魔力量としては微々たる物です」
「とはいえ、ずっと効果を放っていた魔法じゃ。魔法力は使った時間にも比例して成長する。サシュタイン君が言ったのはそういうことか」
「ええ、そうです」
「確かにこの学園始まって以来の数値じゃのぉ」
どうやらスノウは学園始まって以来の強さになってしまったらしい。
「え、兄よりも私の方が?」
おいおい、俺とスノウを比べないでくれ。俺はただ重力を操ることしかできない。何でも出来るスノウに適うはずがないだろう。と、俺は思ったが、口にしたところでスノウから猛口撃を浴びることは免れない。だから黙ることにした。
「そうじゃ……と話が逸れてしまったの。サシュタイン君じゃが、ここの迷宮を使えるようにアルファポに頼むしかないじゃろう。早速じゃ、付いてきなさい」
と、学園長は教室を後にした。
「じゃ、あたいは帰るね!」
「ああ、今日はありがとな」
「兄がお世話になりました。また宜しくお願い致します」
俺たちはツフと別れ学園長の後を追って、アルファポの元へと向かったのだった。




