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一話目

 俺はとある部屋の前にいた。ここはグラフト王立第二学園。その中にある特別会議室の前だ。第二学園に入学し、四天王の一員となっている俺は、本日特別な会議があると呼び出されてここに来た、というワケだ。


「さてと、何を話し合うやら……」


 俺はそう呟きながら、扉の取っ手に手をかけて、押し開ける。部屋の中心には大きな机が鎮座し、四脚の椅子がその机を囲んでいる。俺が中に一歩踏み込むと、一番奥に座っている男が机越しに俺を怒鳴りつけてきた。


「おい、サシュタイン・ベルウノさんよぉ。お前四天王最弱のくせして来んのがおせぇんだよ! ベルウノ家だからって何か勘違いしてんじゃねぇのか?」


 真っ赤でツンツンと尖った髪型の偉そうな奴はドヴォルザーク・ニオルグ。現在第二学園最強の男、つまり四天王のトップだ。ニオルグ家は貴族としてもグラフト王国の中心に近いポジションにいる。ま、それ以上に要職にいるのが、俺のベルウノ家だから、それをドヴォルザークに言うと、ただの皮肉にしかならないのだが……


「あははははは! ドヴォルザーク! 冗談キツイぜよ! コイツはメイドとの子ぜよ? ベルウノ家を名乗れてるだけでもおかしいぞよ! 俺がコイツの親なら恥ずかしくて生まれる前に殺してるわいな」


 今度は俺から見て左側に座っている緑色の長髪を持つ男が何かほざいている。ぜよぜよ言ってるコイツは四天王二番目の男、ノワール・ヴァイス。母さんの話だと、とある国ではノワールは黒、ヴァイスは白という意味らしい。つまりコイツは黒・白って名前ってことになる。俺がコイツの親なら恥ずかしくてそんな名前をつけないが、ま、異国の言葉なんか知らないだろうコイツに、そんな皮肉を返しても意味の無いことだ。髪は緑だし、緑なのか、黒なのか、白なのか、疑問が多い男だ。

 ……って知らないよな? まさか知ってて名前つけてないよな……


 俺がそんなことを思っていると、ノワールの言葉が大層気に入ったのか、ドヴォルザークは机をバンバンと叩き、猿のように喜びだした。


「ギャハハはは! そいつはちげぇね! ノワール! そりゃお前の言う通りだ」


 正直付き合ってられん。とは思ったが、一応ここでは最年少で立場も下だ。話を進めさせることにした。


「遅れたというのなら謝罪しよう。だが、今日の会議は午後からだと聞いていた。何かの間違いじゃないのか?」


 どうせ俺を騙したのは分かりきっている。俺抜きで話をしたかったのだろう。だから俺に嘘の時間を教えて、自分たちだけ少し早い時間に集まった。

 とはいえ俺もここは主張しておくべきだろう。


「馬鹿っじゃね? 昼前からだって言っただろ? 間違いはお前の頭の中じゃねぇか? あ、いや、お前が存在すること自体が間違いだったな? いやーめんごめんご」


 ドヴォルザークが謝ると同時に笑いの渦が巻き起こる。当然、俺以外だが……

 とりあえずこれで話を進められそうなので、俺は一つの疑問を口にした。


「ふぅ……まぁいい……で、会議の内容は? それに……何故四天王の会議のはずなのに、ここに俺を合わせて五人もいるんだ? 俺は何処に座ればいい?」


 今日は四天王の会議と呼ばれて俺はここに来た。ドヴォルザークの正面にあたる席が俺の席のはずだった。目の前にある席だ。ただ、ここには既に一人座っている。席は四つしかない。俺は単純に何処に座ればいいかが疑問だった。


 するとピンクの服を着た俺から見て右側に座っている茶髪の女が身を乗り出して俺に叫んできた。


「あはは! おめぇの席ねぇから!」


「ん?」


「だからー! お゛め゛ぇ゛の゛席゛ね゛ぇ゛がら゛あ゛!」


 コイツはヴェルデ・ウランバートル。四天王で序列三番目の実力を持っている。


「ギャハハはは! ウケるぞよ! ヴェルデ! サイコーぞよ! それ!」


 今度はノワールが机をバンバンと叩き猿のように喜んでいる。ドヴォルザークは腹を抱えながら爆笑をしていた。ここは動物園か? と思うような状況だが、俺はもう慣れっこだ。

 しかし、気になったのは俺の席がないと言われたことだ。確かに俺の座る場所は無いのだが……


「どういうことだ?」


「言っただろ? お前の席はもう無いって」


「それがどういうことか聞きたいんだが……」


 すると俺の目の前に座っていた黒いローブの男がすっと立ち上がり、俺の前へと歩みを進めてくる。そして、目の前でピタリと止まり、大袈裟にバサァリとフードを跳ね除け、俺にこう尋ねてきた。


「貴殿が四天王最弱と名高かったサシュタイン君だね?」


 偉そうに胸を張り、俺を見下そうとしている……が頭一つ分は俺の方が背が高く、胸を反り無理矢理にでも見下ろした格好にしようとしているのが滑稽に見える。


「ああ、そうだが……」


 俺はそう答えるとフランネルは、今度は前髪をバサァリと跳ね除けた。


「僕はフランネル。先程四天王の末席に加わらせて頂くことになったよ。以後お見知りおきを……」


「ああ、フランネル。俺はサシュタインだ。サスでいい」


 と、俺は握手をしようと手を差し伸べた。するとフランネルは心底嫌そうな表情で俺を睨んできた。


「この手はなんだ? 穢らわしい……貴殿は糞尿の匂いを僕に擦りつけようとお考えなのか? はァァァ、これだから愚民は……」


 そう言ってツカツカと先程まで座っていた席に戻って、どかっと腰掛けた。

 しかし、このフランネルってのが四天王の末席に加わるって? そもそも四天王はそんな物じゃなかったはずなんだが……


「しかし、なんだ? それじゃあ五天王になるのか?」


 俺は肩を竦めてそう言った。するとドヴォルザークが机に身を乗り出し、右手を俺に突きつけてきた。


「五天王ってぶぁかか? んなわけねぇだろ? 四天王は四天王のママに決まってんだろぉが! お前が四天王をクビになるんだよ!」


「ふむ。そうか」


「やけにアッサリしてんなぁ! あー、あとそれだけじゃねよ」


 そしてドヴォルザークがクイッと顎をあげる。と同時にノワールが丸まった紙を俺に放り投げてきた。


「ほら、おめぇにプレゼントだよ」


 足元に転がる紙を拾い上げ、俺は広げて中を確かめる。


「なんだこれは……退学通知書?」


 そのクシャクシャの紙にはそう書いてあった。どうやら俺にこの学園からの退学を通知する書類らしい。

 俺がそう呟くとほぼ同時に、一番近くに座っているフランネルがまたもバサァリと前髪を跳ね除け立ち上がる。


「そうか、僕が編入することになって枠が足りなくなってしまったのか! これは申し訳ないことをしてしまったなぁ」


 態とらしくそう言うと、またもツカツカと俺の方に歩み寄り、偉そうに胸を張り見下ろ……してはいないが、そうしたいであろう格好になった。


「以後お見知りおきを、なんて言ってしまって申し訳ない! 貴殿と僕とは今後見知ることは無い訳だ! いやーすまないすまない。期待させるようなことを言ってしまって!」


「期待も何もしていないのだが……」


 そもそも俺はコイツがどんなやつか知らん。期待もクソも無いだろう。が、俺のその様子がフランネルの逆鱗に触れたようだった。


「なんと! この僕と! 知り合いになることに期待してないとは! なんて罪な奴だ! この罪万死に価する! 死刑だ! 外に出ろ! この僕が直々に刑を執行してやろう」


 フランネルはそう言って扉に向かって行こうとする……が、それをドヴォルザークが止めた。


「まぁ待てフランネル。入学早々、また退学することもあるまい」


「ふむ……それは確かにそうだな……ここはドヴォルザーク殿に免じて許してやろう」


 そしてフランネルは、また乱暴に席に着いた。四人は俺の退学がどうのだの目障りが消えただのワイワイと話している。一通り話したあと、気が済んだのか少しざわめきが途切れた。

 そこで俺はこう切り出した。


「あー、もういいか?」


「もういいとは?」


「退学にもなったことだし、帰っていいか?」


「てめぇ! なんだ! その態度は! いけすかねぇんだよ! いつもいつも不愉快なんだよ!」


 ドヴォルザークの言葉を皮切りにノワールもヴェルデも俺を罵ってきた。なんなら初対面のフランネルもだ。だが俺はあいにく罵倒されることには慣れている。そんなものは何処吹く風だ。

 またも罵倒が途切れるまで待ち、途切れた瞬間に間髪入れずにこう尋ねる。


「そうか、それはすまなかったな。で、いい加減に俺は帰っていいのか?」


「勝手にしろ!」


「じゃあな」


 そして俺は動物園……じゃなかった、四天王から解放されて家路についた。

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