06 製作スキルと鑑定スキル
ヒッポリアスが眷属になった途端に俺の魔力の半分ぐらい持っていかれた。
立ち眩みがして、倒れかけたが踏みとどまる。
強い魔物を眷属化するほど、持っていかれる魔力は多くなる。
攻撃魔法も治癒魔法も使えないが、実は俺の魔力量はかなり多い。
魔力量だけなら、賢者と呼ばれている勇者パーティーの魔導師よりもあるぐらいだ。
その大量の魔力のうち半分持っていくとは、高位ドラゴン並みである。
ちなみに眷属である従魔への魔力供給は、何か依頼するときに支払えばいい。
しかも一回魔力を供給すれば、一週間ぐらいは働いてくれるのだ。
効率はかなりいいと言えるだろう。
『きゅうきゅう! テオドールのまりょくおいしい』
眷属化したことで、ヒッポリアスの言葉が流暢になった。
「それならよかった」
『ふねをうごかせばいいの?』
「頼む。向こうの方角にある大陸はわかるか?」
『わかる』
「なら、話は早い。俺たちはその大陸に行きたいんだ」
『わかった~。おしたげるね』
ヒッポリアスが船尾の方へと回りこむ。
俺も船尾へと移動すると、ヒッポリアスは船を押し始めた。かなり速い。
風が順調だったこれまでより速いぐらいだ。
ヴィクトルや冒険者たちが大喜びしている。
そして、魔獣学者ケリーは船尾から身を乗り出してヒッポリアスを観察する。
「凄いな、ヒッポリアス。ものすごく速いじゃないか」
ケリーが話しかけても、ヒッポリアスは無反応だ。
だが、ケリーは気にする様子もない。一方的に話しかけスケッチを続けている。
「……ケリー。海に落ちるなよ」
「ああ、わかってるさ」
ケリーは上の空で返事をする。
落ちたら困るので、腰縄を付けるように言っておく。
「テオさん、少しよろしいですか?」
「どうしたんだ?」
俺はヴィクトルに呼ばれて、船尾から移動する。
すると、船足が止まった。
何があったのだろうか。俺は船尾に戻ってみる。
「ヒッポリアス、どうした、なにかあったのか?」
『ておどーる。ひっぽりあすがおすとこみてて』
「……わかったよ」
するとヒッポリアスは、再び機嫌よく船を押し始めた。
押しながら俺の方をチラチラ見てくる。
小さい子供みたいで可愛らしい。
「ヒッポリアス凄いぞ! 偉いぞ!」
「きゅっきゅ!」
それからは夕方ぐらいまでヒッポリアスが押してくれた。
その間、ずっと俺は船尾でヒッポリアスを見る仕事に従事した。
ヴィクトルが俺に話にあるときは、ヴィクトルから船尾にきてもらうことにした。
俺が見ていないと、ヒッポリアスが押すのをやめるので仕方がない。
夜になると、ヒッポリアスの食事の時間だ。
『ておどーる、ごはんたべてくるからまってて』
「ああ、自由にしていいよ」
ヒッポリアスは海中に深く沈んでいった。
「潜水能力も高い。エラ呼吸なのか? いや、エラは見当たらなかったが……」
真剣に考察するケリーは放っておいて、俺は船尾で横になる。
するとヴィクトルがやってくる。
「テオさん、お疲れ様です。こっちでお休みになりませんか?」
「いや、俺はここでいい。ヒッポリアスが戻ってきたときにいないと寂しがるからな」
「そうですか……」
ヴィクトルは少し考えると指示を出し始めた。
船尾でも、俺が快適に過ごせるよう整えてくれるようだ。
「ありがとう」
「いえいえ、テオさんとヒッポリアスには窮地を救ってもらいましたから当然です」
船尾に簡易の小屋みたいな、雨と風避けを建ててくれるつもりのようだ。
「あ、製作スキルがあるから俺がやろう」
「先ほどテイムスキルを使っていただきましたし、お疲れなのでは?」
「大丈夫。魔力にはまだ余裕がだいぶある」
ヒッポリアスのテイムに使ったのは、俺の魔力の半分だけ。
そして、俺は魔力の回復も人並み以上に速い。テイムから今までの数時間でだいぶ回復した。
それに製作スキルは小さい物、単純なものを作るならさほど魔力は使わない。
今ある魔力でも充分だ。
「じゃあ、さっそく」
俺はヴィクトルの持ってきてくれた木材を床に並べる。
製作スキルの前に、まずは鑑定スキルだ。
スキルを使わずとも、木材の種類などはわかっている。
それでも鑑定スキルを使うのは固有の特性を把握するためである。
育った環境や地域、木目の方向などなどにより、木材それぞれに個性がある。
それを把握することで製作スキルの効果が上がるのだ。
鑑定が終わると、次は製作スキルの番だ。
まず作り出す風よけを脳内でイメージする。
長さ高さ厚さなどの外見だけでなく手触りなどの質感まで明確にだ。
これが意外と難しい。
だが、イメージがどれだけ精確で鮮明かが製作物の出来を決める。
イメージが固まると、手に魔力を集めて木材にかざす。
そうしてから、一気に製作スキルを発動させた。
大きめの木材が俺のイメージしたとおりに変形し、ゆっくりと組みあがっていく。
製作スキルは、けして万能ではないが、物理法則を無視したことができるのだ。
俺が立ったままでもすっぽり入ることのできる、雨風よけを作るのに三分ほどかかった。
「製作スキル持ちはたくさん知っていますが、これほどの使い手を見るのは初めてです」
ヴィクトルが褒めてくれた。
「すごい。ぱあって光ってあっという間にできてた」
「これだけのものを作るなら、知り合いの製作スキル持ちなら、数時間かかるぞ」
「これが何でも屋テオの実力……」
「勇者パーティーの屋台骨ってのは伊達じゃないんだな」
冒険者たちが感心してくれる。
俺が照れていると、ヒッポリアスが戻って来た。