43 レッドベリー事件
俺が目を覚ますとちゃんと朝だった。夜に何もなかったようで何よりである。
「ふう、良く寝た」
「……わふ」
俺の真横、添い寝する形でシロが寝ていた。
「あふ……」
そして、フィオはシロの尻尾にしがみつくようにして眠っていた。
「きゅお~~おぉ、きゅぉ」
ヒッポリアスは口を開けて仰向けになって気持ちよさそうに眠っている。
フィオとシロにあげた毛布はヒッポリアスにかかっていた。
「これは……」
俺は状況から何が起こったのか推測する。
恐らく夜中にフィオとシロは俺とヒッポリアスの間に寝に来たのだ。
そしてヒッポリアスがお腹を出して眠っているのを見てかわいそうに思ったのだろう。
それで毛布を掛けたのだ。
「ヒッポリアスに踏みつぶされる事故が起きるのが怖いな……」
後で対策を考えなければなるまい。
そして俺は皆を順番に起こす。
まずは俺のお腹の上にあごを乗せて眠っているシロからだ。
「シロ、朝だよ」
「……わふ」
起きるまで、俺はモフモフしまくった。
昨日お風呂に入ったばかりだからか、とてもいい匂いがする。
白銀色の毛並みも素晴らしい。ふわっふわである。
「ふむ……なるほど……」
まだ眠っているシロの背中を撫でながら、よく観察する。
毛は根元から毛先まで白銀色だ。下毛まで白銀色である。
手足は身体に比べて、太くてずんぐりしている。
やはりシロは子狼なのだ。
「子狼なのに苦労して……」
仲間になって一日ちょっと。
シロはご飯をたくさん食べゆっくり眠って風呂に入った。
それだけで最初に会った時より見違えるほど元気になった。
「……魔力もはね上がっているな」
やはりただの魔狼ではない。魔力が高すぎる。
これで子狼というのだから、将来が恐ろしい。
魔白狼の亜種じゃないかもしれないという、ケリーの見立ては間違っていないだろう。
俺の知っている魔狼とは根本的に違う気がする。
「わふぅ? わーーーふぅうう」
撫でまくっていると、シロが起きた。
起きるとシロはあくびをしながら、前足をぐいっとして伸びをする。
「やっと起きたか。フィオとヒッポリアスも起こそう」
「わふ」
シロは俺の顔をベロベロ舐めてきた。その後シロはフィオを舐める。
その間に俺はヒッポリアスを撫でて起こす。
「朝だよ、ヒッポリアス」
「きゅお?」
「ヒッポリアス。眠たいならもう少し眠ってもいいよ?」
『おきる。きゅお?』
ヒッポリアスは起きようとして毛布に気づいたようだ。
「フィオたちがかけてくれたみたいだぞ」
「きゅおー」
「おなか、つめたい」
起きてきたフィオがそんなことを言う。
フィオはヒッポリアスがお腹を冷やしそうだと思ったのだ。
『あったかい。ありがとう』
「わふ」「あぅ」
ヒッポリアスはフィオとシロにお礼を言って、ぺろぺろ舐めていた。
近いうちに、ヒッポリアス用の毛布も用意してあげたいものだ。
みんなが起きたので、朝ご飯を食べるために外へと出る。
すると、昨日の朝とは様子が違った。
ケリーが指示を出して、何やらスープを作っているようだ。
「スープか。おいしいが……。もう焼いた肉に飽きたのか?」「きゅお?」
「ああ、テオ、起きたか」
「どうした? 何かあったのか?」
「うむ。病人がでた」
「なんだと?」
ヴィクトル、地質学者。それに五名の冒険者。
つまり昨日農地の調査をしていた者たちが、発熱に嘔吐、下痢の症状で動けないらしい。
「食中毒か? ヴィクトルたちは何を食ったんだ?」
「それがだな……」
朝昼晩の食事は全て俺たちと同じものだ。
違うものと言えば、調査の休憩時間に木の実などを採取して食べたらしい。
それは人族大陸にもある一般的な食用の木の実とのことだ。
味も形もそのものだったらしい。
「……ふむ。その木の実の現物はあるか?」
「ああ。一応サンプルとして、一つとっておいたらしいからな」
そう言ってケリーは布に包まれた赤い色の木の実を取り出した。
ごく普通の赤苺に見える。甘く、少し酸味があっておいしいベリーだ。
「私の知識でも、これはただの赤苺だな」
ケリーは魔獣や生物の学者だが、普通の冒険者より植物に詳しい。
植物は魔獣や生物の餌になるからだ。
ケリーは魔獣、生物学の周辺知識として植物の知識も蓄えているのだ。
そんなケリーと、熟練冒険者のヴィクトルが赤苺と判断したのだ。
ならば、見た目は完全に赤苺ということだろう。
「少し貸してくれ」
俺は鑑定スキルを赤苺にかける。
食中毒の原因を調べなければならない。
食中毒の原因は主に三つに分類できる。
第一は、汚染されている食物によるもの。腐った食物や汚れた環境で調理されたものなどだ。
第二は自然毒。フグや貝毒、毒キノコが有名だ。
第三は寄生虫である。肉や海鮮物を生で食べたりしたときに発生しやすい。
その原因の探るために、俺は鑑定スキルで赤苺を調べた。
「これは……毒があるな。自然毒だ」
「毒だと?」
「ヴィクトルたちはどのくらい食べたんだ?」
「一人三個から十個だ」
「それなら、余程のことがなければ死ぬことは無いだろう」
そういうと、ケリーはホッとした表情を見せた。
「だが、長ければ症状がおさまるまで十日ぐらいかかるかもしれない」
その間は水分補給が大切だと伝えておく。
「昨日、上水を整備しておいてよかったよ」
「本当にそうだな」
「ケリーに俺が教えることでもないが、熱が上がりすぎても危険だからな」
「うむ。わかっている。司祭にも病気治療の心得があるようだし」
司祭とは冒険者の治癒術師だ。怪我や病気のエキスパートである。
司祭がいて本当に良かった。
そのとき、ヴィクトルが自分の宿舎から歩いて出てきたのだった。
先週、お腹を壊して熱を出したので、思いつきました。





