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269 汚れたジゼラ

 ジゼラはほっとした様子で息を吐いた。

「よかったー、少し口に入ったんだ」

「……飲んだらお腹壊すぞ。飲食すべきではない」

「え」

「毒じゃ無くても消化できるかどうかは別だ。とはいえ、少し入った程度なら大丈夫だろ」

「よかったー」

「ケリー。サンプル採取は終わったか?」

「ああ、終わった」

「ピイ。頼む。ジゼラが臭いんだ」

『まかせて』


 ピイが俺の肩から、ジゼラにぴょんと跳んで、ジゼラの服をきれいにし始める。


「ありがとうね、ピイ」

『ぴっぴい。うまい』


 悪魔の血すらピイにとっては美味しいらしい。

 本当にすごいスライムだ。


 俺は周囲を見回した。外には誰もいない。

「みんな、家の中か?」

「そう、臭いって」

「そっか」


 家の中を汚さないように、ジゼラは外で待っていたのだろう。


「テオ。鑑定結果を教えてくれ」

「ほとんど血液だな。だが鉄じゃ無くて銅が多量に含まれている。それ以外はわからんな」


 直接悪魔を鑑定できればもっとわかるのだが。


「銅。そういえば、そういう生き物が旧大陸にもいたな」

「いるのか?」

「いた。海にいる甲殻類なんだが、血が青いんだよ」


 悪魔は生物ではない。

 だが、血に似たものが体内を流れているならば、体の仕組みは生物に似ているのかもしれない。


「いや、悪魔によるか」


 陸ザメを襲った悪魔は植物に寄生していた。

 そんな生物は旧大陸にはいない。


「それで、ジゼラその悪魔はどんな形状だったんだ?」

「三匹ともザリガニっぽかった」

「遭遇の状況は?」

「メエメエと子ヤギのミミちゃんと遊んでたら、変な気配を感じて……メエメエとミミちゃんと離れて向かったんだけど」


 どうやら、ジゼラは子ヤギのことをミミと名付けたらしい。


「変なほこらがあって、遺跡かなとか思っていたら、急に悪魔に襲われた」

「ほう? ほこらの中から悪魔が出てきたのか?」

「いや、外から」

「ならば、ほこらが巣というわけではないいのか?」


 ケリーの言葉にジゼラは首を振る。


「ほこらの中に怪しい気配があったから、多分あれは悪魔の巣だよ」


 巣でなければ、拠点だろう。

 ジゼラがそう思ったのならば、たぶんそうだ。


「縄張りに怪しい奴がいたら襲いかかるか。魔熊もそうだし、悪魔もそうなのかもしれないな」

 ケリーは魔獣学者らしく分析する。


「ほこらの中は調べてないのか?」

「メエメエとミミが心配だったし、それに……」

「それに? なんだ?」

「ほこらの中の気配が、ちょっとやばそうだった」

「っ!」


 俺は思わず息をのんだ。

 ジゼラは笑顔だが「やばそうだった」とジゼラに言わせる存在は本当にやばい。


「メエメエたちの元に急いで戻って、遊ぶのを中断して送り届けたんだ」

「俺たちのところに報告に来なかったのは?」

「護衛だよ」


 ジゼラがボアボアの家を離れたあと襲撃があったら大変だと考えたようだ。

 ボアボアも飛竜もいるのだ。ボアボアの家の戦力もかなり高い。

 だが、ジゼラは護衛が必要だと判断した。

 つまり、それほどの相手だ。


「子ヤギたちと遊んでいた場所からほこらはどのくらい離れていた?」

「うーん。走って五分ぐらい」

「この拠点からは?」

「走って六分ぐらいかな」


 ジゼラが全力で走れば馬よりも速い。

 そのジゼラが走って六分かかる距離ならば、普通の人族が普通に歩けば二時間弱だろうか。


「近いな」

「そうだね。テオさん、どうする?」

「拠点は潰さないとまずい」


 徒歩二時間の距離、つまりジゼラなら五、六分の距離だ。

 悪魔もそのぐらい速い可能性がある。

 いつ襲われるかわからない。


「やっぱり潰さないとまずいよね、それなら手伝いが欲しいかな」

「そうだな、あとでヴィクトル達に相談しよう」


 少なくともヴィクトルとアーリャには手伝って貰いたい。

 武器と防具も点検し直すべきだろう。


「ジゼラはどう思う? すぐに攻め込むべきだとおもうか?」

「今からだと夜になるよ? 明日の朝がいいよ」

「そう考えるか」


 そう答えることは予想できたことだ。

 もし、すぐに攻め込むべきだと考えていたのならば、ジゼラはこんなところで俺たちを待ったりしていない。

 ヤギの家の防衛を重視するとしても、拠点にメエメエかストラスを派遣して、俺たちを呼び寄せただろう。


「うん。あいつらは多分夜行性だし」

「勘か?」

「そうだよ?」


 ならば、当たる可能性が高い。

 敵が昼行性でも、夜は俺たちのパフォーマンスが落ちる。

 攻め込むならば、昼間がいい。


「ただ、夜襲には気をつけないとな」

「今晩、ぼくはこっちに泊まるよ。そっちは任せた」

「わかった」

「きゅおー」

「ヒッポリアスも頼りにしてるよ」

「きゅうお!」


 ヒッポリアスは俺に抱っこされたまま、ぶんぶんと尻尾を振った。


 そのとき、ジゼラの服をあっという間にきれいにしたピイが俺の肩の上に戻ってくる。

「ありがとう、ピイ、キレイになったよ」

「ぴっぴい~」

「臣下スライムたちも、きれいにするって言ってくれたんだけど。ケリーがサンプルを欲しがると思ってさ」


 そういってジゼラは笑う。

 皮膚についた分以外は、汚れたままにして待機してくれていたらしい。


「ありがとう、配慮してくれて」

「なんのなんの」

「でも、次からは、上着一枚でいいよ。もし毒だったら大変だし」

「そっかー。毒では無いと思ったけど、毒の可能性もあったのかー」


 毒では無いと判断したのは恐らく勇者の勘だ。


「ジゼラの勘はよくあたるが、絶対では無いからな」

「うん、気をつけるよ」


 その時、ヤギたちの家の扉が開いた。

 下のメイン入り口からはメエメエたちヤギたちが、カヤネズミたちを乗せて駆けてくる。

 そして上のベランダからストラスたちフクロウが飛び出してきた。

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