202 アーリャの授業とヒッポリアス
ケリーにならば、子魔狼たちを任せても安心だ。
「じゃあ、頼む。一応これを渡しておこう」
子魔狼たちを入れる籠をケリーに手渡した。
子魔狼たちを入れて、身体の前に吊るせる籠だ。
「おお、ありがとう。助かるよ」
ケリーは籠を身体の前に吊るして、その中に子魔狼たちを入れていく。
「わふわふ!」
子魔狼たちは籠の中で嬉しそうにはしゃいでいた。
「クロ、ロロ、ルル。ケリーの言うことを聞いていい子にしているんだよ」
「「「わう!」」」
「うん。いい返事だ。しっかり勉強するように」
「「「わふ!」」」
そして、アーリャ、ジゼラ、フィオとシロとケリーと子魔狼たちは食堂を出て中庭へと向かった。
どうやら、中庭で訓練をするようだった。
「アーリャが、何をどう教えるのか気になる」
「ああ。アーリャもまた天才だからな」
そんなことを言いながら、今日休みの冒険者たちが中庭へと走っていった。
食堂に残ったのは、イジェとヴィクトル、そして休みじゃない冒険者十名と学者たちだ。
それに俺とヒッポリアスとピイである。
「イジェさん、燕麦のある場所に案内していただけますか?」
「ウン。スグにシュッパツする?」
「はい。善は急げと言いますからね」
「ワカッタ! サンジュップンゴに、ボアボアのイエのマエにシュウゴウで」
「了解しました」
イジェの指示で冒険者たちは動き出す。
三十分の猶予を与えたのは、各自トイレに行ったり、装備を確認したりするためだ。
俺は特に準備することもないので、ピイとヒッポリアスと一緒にボアボアの家へとすぐに向かう。
食堂を出ると、中庭で、杖を構えたアーリャがシロに魔力とは何かを説明していた。
アーリャの説明をシロやフィオ、ケリーと子魔狼たちだけでなく、ジゼラや冒険者たちが真剣な表情で聞いている。
冒険者たちは身体強化を使えてはいるが、魔力というものの性質を正確に理解しているわけではない。
俺も含めて、冒険者は学のないものが多い。
理論抜きで、死にかけながら、先輩を見て。感覚で覚えた者がほとんどなのだ。
覚えることができた者が冒険者として生き延びられたと言い換えることもできる。
そういう意味では、冒険者、それも特に戦士は魔獣に近いのかもしれない。
魔獣も、親を見て魔力の使い方を覚えるのだから。
「テオさん」
俺が通りかかったことに気付いたアーリャが講義を止めて駆け寄って来た。
「どうした?」
「お手すきなら、飛竜さんにこちらに来てくれないかと伝えてほしい」
「わかった」
「お願いします」
アーリャは頭を下げると、走って戻っていき、講義を再開する。
きっと、飛竜にシロの指導を手伝ってほしいのだろう。
魔獣ならではのコツがあるかもしれないという判断に違いない。
「アーリャは理論派だな」
「きゅお?」
理論派であるアーリャを補うために、身体強化を実践している魔獣である飛竜にも協力してほしいのかもしれない。
「ヒッポリアスも、アーリャの講義が聞きたかったら聞きに行っていいよ」
『ひっぽりあすは、ておといっしょにいく』
「ありがとう」
『ひっぽりあすはておどーるにおしえてもらう』
ヒッポリアスは目をキラキラさせながら、尻尾を振っていた。
「それはいいけど……、ヒッポリアスは身体強化が上手にできているよ」
ヒッポリアスは、身体強化も攻撃的な魔法の行使も含めて、戦闘に関する様々な能力が卓越している。
どちらかといわなくとも、明らかにヒッポリアスは生徒ではなく、教師側だ。
『ひっぽりあす、じょうず?』
「ああ、ものすごく上手だよ」
「きゅお~~」
とはいえ、ヒッポリアスではなく、飛竜に頼もうと考えたアーリャの気持ちもわかる。
ヒッポリアスは教えるのが上手なようには見えない。
アーリャよりもジゼラに近い雰囲気がある。
その点、飛竜ならば安心だ。
「飛竜は育児のベテランだからな」
子供に身体強化や魔力の扱いを教えた経験があるのだ。
シロにも上手に教えてくれるだろう。
「ヒッポリアスは狩りの仕方とか教えたことはある?」
『きゅお~? ない!』
「そっか、ないか」
「きゅおお」
だが、放っておいたら、ヒッポリアスがシロの師匠になったのかもしれない。
ヒッポリアスに教えるつもりがなくとも、シロは見て覚えるだろう。
「ところで、ヒッポリアスは狩りの仕方とか、魔力の使い方とか、誰に教えてもらったんだ?」
「きゅぅお~?」
ヒッポリアスは歩きながら首をかしげる。
『わかんない。おしえてもらってない』
「生まれつきの能力か」
『そうかも~』
他の魔獣を見て学んだのかもしれない。
「ヒッポリアスは親はいるのか?」
『うーん、わかんない』
「そうなのか。覚えてないの?」
『おぼえてない! きゅお!』
ヒッポリアスは竜種だ。
そして、竜種は卵から生まれることが多い。
卵を残して親がいなくなった可能性がある。
もしかしたら、親が子を育てない種族なのかもしれなかった。
親が子を育てない種族ならば、ある程度戦える能力を持って卵から出てきた可能性もある。
あとで、ケリーに聞いてみようと思った。
【読者の皆様へ 作者からのお願い!】
この作品を読んで、少しでも
「面白そう」
「続きが気になる」
など思っていただけましたら、
ブックマーク、並びに、
ページ下部↓の【☆☆☆☆☆】から評価して頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします!