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18 謎の子供

「おぉっ?」


 タックルを食らって、俺はよろめく。詠唱も中断されてしまった。


「いうがああ!」


 雄たけびを上げながら、俺に体当たりしてきたのは謎の生物だった。

 身体が小さいわりに、速さは素晴らしい。

 だが、体重が軽く、力も弱い。

 食らった俺にもまったくダメージも入っていない。


「うがうがっ!」


 一生懸命、俺に噛みつきながら拳で力いっぱい殴ってくる。

 魔狼の鼻先に俺が魔法陣を近づけたのを見て、魔狼がやられると思ったのだ。

 だから、必死になって突っ込んできたのだろう。


「まあ、落ち着け」

「ぐうう」


 謎の生物は尻尾を股に挟み、ぶるぶる震えている。

 命がけの決死の突撃だったのだろう。


「どうどう、落ち着け」

「がるるる」


 俺が優しい声を出しても、聞く耳を持たない。


「がぅ」

「がる…………」


 だが、魔狼がひと声小さく吠えると、大人しくなった。

 魔狼が落ち着けと言ったのだろう。


 謎の生物は二足歩行で俺から離れると魔狼の方に寄って抱きしめる。

 魔狼は謎の生物の顔をぺろぺろ舐めた。


 俺は謎の生物を改めてじっくり観察する。

 いままで、見たことのない生物である。


 耳と尻尾は狼そっくりだ。

 だが、それ以外は人族にそっくりなのだ。


 人族にも魔族にも、狼の耳と尻尾を持つものはいない。

 少なくとも、人族と魔族の大陸にはいなかった。


 果たしてこの生物は狼なのか、人族なのか。

 俺には判別がつかなかった。


『お前も落ち着け』


 テイムスキルで謎の生物に呼びかけてみる。


「ふしゅー、ふしゅー」


 だが、謎の生物からは意思が流れ込んでこない。

 テイムスキルが全く効いていない。


(だから最初に呼びかけたときにも逃げられたのか。それにしても……)


 テイムスキルが効かないということは重要だ。

 テイムスキルが失敗したのではなく、根本的に無効なのだ。


(人族、もしくは魔族ということか)


 人族と魔族、つまり人にはテイムスキルは効果がない。

 竜ですらテイムした俺にとっても人をテイムすることは無理である。


 つまり、俺のテイムが無効ということは、狼の耳と狼の尻尾をもった人ということになる。


(新大陸ではじめての人との出会いがこういう形とはな)


 特殊すぎる出会いだ。

 きっとこの子供も特殊な環境で育っている最中に違いない。


(それはともかく、対話だよな)


 テイムスキルが効かないのなら、声で呼びかけるしかない。


「俺は、お前たちを、いじめるつもりはないんだ」


 優しく笑顔で、ゆっくりと一人と一頭に呼びかける。


「……がるるる」

「……がぅ」


 狼耳の子供は俺を警戒している。

 だが、魔狼の方は俺のことをだいぶ信用してくれているようだ。

 狼耳の子供に殴られても反撃しなかったから、魔狼は信用してくれたのかもしれない。


「俺は、お前たちを、いじめるつもりはない」

「……ぐるぅ」


 狼耳の子供にはテイムスキルが通じていない。

 だから俺の言葉が理解できているかもわからない。

 そういう場合大切なのは表情と口調である。


 何度もゆっくり、優しい口調で俺は敵ではないと言い聞かせる。

 だが、獣耳子供の警戒は中々解けない。

 よほど苦労してきたのだろう。

 魔狼の方が落ち着かせようとするかのように、獣耳の子供の顔を舐めたりしている。


「……ちょっと待っていてくれ」


 説得は難しいと思った俺は一言告げて、その場を離れる。

 テイムスキルも使っているので、魔狼には意味は伝わっているはずだ。

 獣耳の子供が逃げようとしても止めてくれるだろう。


 俺は急いでヒッポリアスの家に戻って、魔法の鞄を手に取る。

「ぷしゅー……ぴゅしゅ」

 ヒッポリアスはまだ寝息を立てていた。


(獣耳の子供が結構騒いでいたんだがな……)


 ヒッポリアスは大物なので仕方がない。

 俺は魔法の鞄を手にすると、急いで魔狼と獣耳の子供の元に戻った。


「…………」

「……がるる」


 魔狼が逃げようとする獣耳の子供の背中辺りの服を噛んで止めていた。

 そう、実は獣耳の子供は全裸ではないのだ。

 服と言っていいのかわからないほどボロボロな木の皮かなにかを身体に巻いている。

 体毛が生えていない獣耳の子供をかわいそうに思った魔狼たちが用意したのかもしれない。


 魔狼は魔物の中でも知能が高い部類に入る。

 肉球と爪と牙では加工は難しいが、木の皮をはがしたりはできるだろう。

 木のつるでくくるのは、子供自身がやったに違いない。


「お腹減っているだろう? とりあえずご飯をあげよう」

「がる…………る?」


 子供がびくりとした。

 まさかご飯という言葉がわかるのだろうか。


 俺は魔法の鞄から、夕食の残りの焼いた肉を取り出すことにする。

 朝ご飯にみんなで食べようとしていたものだ。


 俺は全ての動作を大きく、そしてゆっくりにする。

 警戒中の子供と魔狼に、俺が何をしているのか、わかりやすくするためだ。


 まず魔法の鞄から木の皿もとりだして、下に置く。

 それから、ゆっくりと焼いた肉を取り出して皿の上に乗せた。

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