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147 砂糖の存在

 フィオとシロの頭を撫でていたアーリャは急に真面目な表情になった。 


「フィオ。これからは先生と呼びなさい」

「わかた、ありゃせんせ!」「わふわふ」

「うん、いいこ」


 その時、食堂の方からイジェとジゼラと数名の冒険者が出て来る。


「オヤツタベヨ」


 冒険者たちも石の床の上に座る。

 いつもならば、食堂の中でおやつを食べるところである。

 だが、今、みんなは完成したばかりの床と囲まれた中庭を見ながらおやつを食べる気分だったのだ。


「うん、おいしいな」

「うまいうまい。さすがはイジェさん」


 冒険者たちに褒められてイジェは照れている。


 おやつといっても、ここは開拓地。

 甘いお菓子などはない。

 いつも食べている食事と同じものだ。食べる時間が違うと言うだけである。


「外で食べると、また違った美味しさを感じるな」

「ホントはサトウがアレバ、イロイロデキルのダケド」

「砂糖か。砂糖は……難しいよな。イジェの村ではどうやって砂糖を手に入れていたんだ?」

「テンサイからトル」

甜菜(てんさい)か。それは旧大陸と同じだな」


 砂糖は甜菜(てんさい)という大根に似た作物から作るのが、旧大陸でも一般的だった。

 サトウキビからでも砂糖は作れるが、暖かい地域で栽培されることが多い。

 比較的寒い地域ならば、甜菜が普通である。


「イジェの村に甜菜の種とかあるのか?」

「ナイ。テンサイはツクラナイ」

「ん? じゃあ、どうやって?」

「ヤセイのテンサイをトッテくる。サンサイミタイナカンジ」

「へー。野生の甜菜というのがあるのか」


 それは旧大陸ではあまり聞かない。

 だが、新大陸では旧大陸の常識は通用しないのだ。


「野生の甜菜を取ってくれば砂糖の精製ができるのか?」

「デキル。ケド……」

「なにか問題があるのか?」

「イジェ……テンサイをミツケルのヘタ。ミツケラレナイとオモウ」

「そんなに難しいのか?」

「トウチャンはミツケルのスゴクウマカッタ。デモ、イジェはヘタ」


 亡くなったイジェの父は、甜菜を見つける名人だったらしい。


「トウチャン、ニオイでミツケテタ」

「匂いか……」

「デモ、イジェ、ニガテ」

「わふ!」


 匂いなら任せろとばかりに、シロが鳴く。


「そうだな。シロは嗅覚が鋭いもんな」

「わふぅ」

「わふわふ」

 なぜかフィオまで張り切っている。


「イジェ。甜菜を入れていた樽とかないか?」

「ムラにモドレバアル」

「それなら、その残り香をシロに……」

「わふう! ふぃおも!」

「そうだな、シロとフィオに覚えてもらって、探すと言う方法があるぞ」

「うわふわふ」「がんばる」


 シロも任せろと言っている。

 子魔狼ほどではないが、シロもまだ子供。

 だというのに、シロはしっかりしているし、凄く頼りになるのだ。


 フィオも鼻には自信があるらしい。

 だが、実際の嗅覚はシロの方がずっと上だ。


「ジャア、アシタにデモおネガイね。シロ、フィオ」

「わふう!」「うん!」


 イジェには今日終わらせておきたい畑仕事があるのだろう。


「そのときは俺も一緒に甜菜さがしに行くよ」


 子供たちだけで移動させるのはとても不安だ。


「きゅお? きゅお!!」

『いく! いく!』「ぁぅ」『いっしょ』


 泥だらけになって、団子のようになって遊んでいたヒッポリアスと子魔狼たちがやってくる。

 ヒッポリアスと子魔狼たちも甜菜さがしに参加したいらしい。

 子魔狼たちはともかく、ヒッポリアスは強いし嗅覚も鋭いので、心強い。


「じゃあ、みんなで一緒に行こうな」

「きゅお」「「「わふわふ」」」


 ヒッポリアスと子魔狼たちは喜んでいるようだ。

 そして、またわちゃわちゃ遊び始める。


「ヒッポリアスとクロ、ロロ、ルルはおやつはいいのか?」 

「きゅお」「わふぅ?」


 今はおやつより遊びたいらしい。

 どうやら、先ほどおやつを食べたばかりだから、遊びたい欲が食欲を上回っているようだ。


「お腹が空いたら言うんだよ」

「きゅおきゅお!」「わっふぅ!」


 嬉しそうにヒッポリアスと子魔狼たちが座っている俺のひざに乗ろうとしてくる。

 わちゃわちゃしながら、ヒッポリアスとクロがよじ登る。


「ぁぅ」「ぴぃー」


 ロロとルルは俺のひざに前足を乗せて、撫でろとアピールしていた。

 俺はヒッポリアスと子魔狼たちを順番に撫でていく。


 当然、俺の服は泥で汚れる。

 まあ、それも仕方のないことだ。

 子供は泥遊びをするものなのだから。


「ぴい」

「後で頼むな」


 肩の上に乗っていたピイが洗濯なら任せろと言ってくれる。

 ピイも凄く頼りになるのだ。


「……すぐに風呂に入るか。あとで風呂に入るか。それが問題だ」

「きゅお?」


 風呂に入った後、ヒッポリアスたちが泥遊びをしたくなったら無駄になる。

 まだ、中庭には魅力的な水たまりが、いくつもあるのだ。


「まあ、後回しでいいか」


 今はかわいらしいヒッポリアスと子魔狼たちをかわいがることが大事だ。

 俺はヒッポリアスと子魔狼たちを撫でまくったのだった。

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