01 何でも屋テオは早隠居したい
俺tueeeものの一種ではありますが、主人公自身の戦闘力はそうでもないです。
とはいえ仮にも勇者パーティ―の一員でしたから、けして弱くはありません。
二十年前。古より人族の大陸と魔族の大陸を隔てていた「神の障壁」が消え去った。
障壁消失の理由は諸説あるが、未だ不明。
障壁が消えたあと、人族と魔族との間で戦争が起こった。
その戦いは十年続き、最終的に勇者が魔王を死闘の末に撃破し終結した。
戦後、人族と魔族は和解し、勇者パーティーも解散し平和な世界になったのだった。
……めでたしめでたし。
◇◇◇
その十年後。
勇者パーティーの雑用係だった俺、テオドールは冒険者を続けていた。
だが、もう冒険と呼べるような冒険はできていない。
世界は実に平穏だった。
ギルドに持ち込まれる依頼もどんどん少なくなっている。
俺は働かなくても魔王討伐の功績で年金がもらえるのだ。
ならば金に困っている若者と依頼を取り合うわけにもいかない。
若者に依頼を譲るのが大人というものだ。
そうなると俺はギルドに預けている金がどんどん増えていくのを眺めて過ごすだけ。
魔王討伐の年金はそのぐらい高額なのだ。
生活には困らないが、そんな暮らしは生産的ではない。
だから、夏の日の昼下がり。
「そろそろ、隠居しようと思う」
俺は、いつもお世話になっている王都の冒険者ギルドのマスターに切り出した。
「えぇ? 御冗談でしょう? 何でも屋のテオとまで言われたあなたが引退ですか?」
ギルドマスターが驚いて、身を乗り出す。
「冗談なんかじゃないさ。冒険者の仕事自体が少なくなっているだろう?」
「それは否定できませんが……」
平和になり街道が整備された。
皆が豊かになり、街の防備もかたくなっている。
おかげで、魔獣の被害もどんどん減った。
そして豊かになったことで、野盗の類も減った。
仕事が少なくなった冒険者は迷宮探索に精を出している。
その結果、この世界の未探索領域は急速に減っているのだ。
「おかげさまでお金に困っていない。若手と仕事を取り合うのもな」
「うーん。でも、テオさんもまだ若いですよ?」
「十歳からずっと命のやり取りをしてきたんだ。疲れてしまったんだよ」
「そう言われると、引き留めにくいじゃないですか……」
ギルドマスターは困ったような表情を浮かべる。
俺が冒険者になったのは、流行り病で両親が死んだ十歳の時。
冒険者といっても、十歳の子供にできることなどあまりない。荷物運びが精々だった。
だが、鑑定スキル、製作スキル、テイムスキルを身に着け、重宝がられるようになったのだ。
そして、十年前、二十五歳になったとき、勇者パーティーに参加した。
勇者パーティーでの日々は過酷だった。
仲間とともに、死闘を繰り広げる日々を過ごした。
誰が死んでもおかしくなかった。いまも全員生きているのは奇跡だ。心底そう思う。
そして紆余曲折あって、平和になった。
その功績で、俺は充分な報奨金をもらったのだ。
そんな昔のことを思い出していると、ギルドマスターが尋ねてくる。
「それでテオさんは引退された後、どうするんです?」
「適当な田舎に農園でも買って、ゆっくり過ごすさ」
農園をポンと買えるぐらい充分な額の貯金はある。
「農業は農業で大変ですよ? 考え直した方が……」
「それは知ってる。元々農村出身だからな」
「……そうでしたか。それならまぁ」
ギルドマスターは少し思案した後、笑顔で言った。
「そうだ! テオさん。新大陸の調査事業に参加されてはどうでしょう?」
「……新大陸か」
魔族の国の向こう側。海を渡って数十日進んだ先に大きな大陸がある。
それを新大陸と呼んでいる。
ただ、発見というのは少し語弊がある。魔族たちは知っていたのだから。
あくまでも人族が新大陸の存在を知ったのが最近というだけの話である。
新大陸への植民を進める計画があるという噂は、俺も聞いている。
それに先立ち、調査を行う人員を求めているようだ。
ギルドマスターが言うには、調査し、可能であれば開拓もしてほしいとのこと。
「もちろん、開拓した畑は自分のものになりますよ」
「ふむ? それは魅力的ではあるが……」
「新大陸は何があるかわかりませんから。腕の立つ人が必要なんですよ」
こちらでは減少している冒険者の需要が、新大陸にはあるようだ。
必要とされるのは悪い気はしない。
俺もまだ三十五歳。隠居には少し早いのも確かだ。
「そうだな。隠居の前に新大陸で働いてみるか」
「そうしていただけると、冒険者ギルドとしても凄く助かりますよ」
そんな会話を経て、俺は新大陸に行くことに決めたのだった。
なろうのシステムが変わったみたいですね。
もしよろしければ★をいただけたら嬉しいです。
よろしくお願いいたします。