どうして勇者はこうなった?!~美少女魔王と溺愛勇者~【短編】
ありきたりですが、勇者が魔王を溺愛する物語です。
他にも連載が終わっているお話や、連載中のお話、短編がございますので、ご興味がありましたら、合わせて読んで頂けると嬉しいです。
「愛している。私の妻になってくれ」
「いやらあああああ!!!!」
小さな身体に、たわわな胸
真紅色の長い髪を振り乱し、美少女が泣き叫んでいる。
彼女の小さな頭からは、大きな角が生えており、一目で人外のものであるとわかる。
深淵を覗くような黒色の瞳から、大粒の雫をボタボタ溢しながら、彼女は腕に全力の力を込めていた。
「離せええ、勇者あああ!!」
「イヤだ、離さない!!!!」
「イヤなのはこっちだ!離せ・・て、ちょ、どこを触っている!変態いいいいい!」
泣き叫んでいる彼女は、魔物たちの王。
魔王と呼ばれる存在だ。
名はない。
そして彼女に迫っている金髪・金目の美青年。
彼は勇者として神に選ばれし者。
名は、ルークという。
これは、とある日のとある刻限・・・魔王城で起きた出来事であるーーーーー・・・・・・
そこは魔物が跋扈する広大な土地の中心。
魔物たちの王が君臨する場所。
その日、国を旅立ち数々の苦難を乗り越えてきた勇者一行が、魔王の座す玉座の間へと辿り着いた。
勇者一行はお互い顔を見合わせ、皆で頷くと、覚悟を決め重厚な両開きの扉を開ける。
ギイイイイ・・・とやけに大きく扉を開く音が響いた。
勇者一行は覚悟を決めた表情で荒々しく室内に踏み込む。
玉座の間は金と赤と黒で、趣味よく彩られていた。
そして部屋の奥に据えられている黄金の玉座に小柄な人影がある。
勇者一行はその人影を凝視するー・・・が、内心とても驚いていた。
その場にいたのは、まだ年若い少女。
それも、とてつもなく美しい少女であった。
彼女は不敵な笑みを浮かべながら、勇者一行を見下ろしている。
そして彼女はゆっくりと立ち上がると、その形の良い唇を開いた。
彼女の発した笑い声は室内に響きわたる。
その声はとても・・・とても可憐だった。
お花畑の幻覚が見えるほどに。
「ハーッハッハッハ!待っていたぞ、勇者一行!我が魔王である!」
ふんす!と鼻から息を吐き出し、ドヤ顔をキメる少女。
彼女は先程座っていた玉座の上に飛び乗ると、腕を組みながら小さな身体を精一杯反り返らせた。
やはり彼女が魔王のようである。
とても信じることができず、勇者一行は口をポカンと開けて茫然としてしまっている。
「おお、驚いておるな、驚いておるな!」
少女が軽やかにシュタッ!と玉座から下りると、その大きな胸が上下にポヨンと揺れた。
彼女の服装は、身体にピッタリしている黒装束で、所々・・・どころか、布面積がとても少なくだいぶ素肌が見えている。
とても破廉恥な衣装である。
勇者はその姿を凝視しながら、ひたすら無表情だった。
「貴様の話は部下から聞いている。よくぞ、ここまで参ったな!褒めてやるぞ、勇者!」
鈴を転がすような可愛らしい声で、そう高圧的に言い放つ彼女に、勇者一行は戸惑っていた。
言っていることは、魔王が言っても不思議ではない台詞ばかりである。
だが、目の前にいるのは可憐な少女だ。
しかも絶世の美少女である。
勇者一行(全員男)は、小さな声でボソボソと話し合いを始めた。
騎士の男が額を押さえながら、呟く。
「おい、どうするんだ、この状況」
魔法使いの男が遠い目をしながらそれに賛同する。
「全くの想定外だ。どうしたらいいのか・・・」
そして僧侶の男はひたすら困惑していた。
「魔王があんな年端もいかない少女だとは思ってもみませんでした・・・」
その会話に勇者は加わらない。
彼はひたすら、魔王を見つめていた・・・
「おい、ルーク、どうするんだ?」
「あんな姿をしているが、魔王は魔王だぞ・・・」
「・・・ルーク?」
仲間たちが、勇者に話しかけるが、返ってくる返事はない。
普段とは違う勇者の異様な雰囲気に、騎士の青年は訝しげに眉をよせた。
「ルーク・・・?」
魔法使いの青年が勇者の名を呼ぶ。
勇者は常に笑顔をみせ、いつも穏やかに微笑んでいるような青年だ。
なのに、この無表情。
その顔は怖いくらいである。
それを見た魔王は、にんまりと笑んだ。
「ふっふっふ!なんだ、勇者!我に臆したか!」
「惚れた」
「・・・は?」
魔王の言葉に被せるように、勇者が言葉を発した。
だが、その言葉に固まる魔王
勇者の言葉の意味がわからず、彼女は思考停止状態である。
そんな魔王に、勇者は追い打ちをかけていく。
「好きだ」
「・・・なに?」
「愛している」
「・・・ちょっとまて?」
「一目惚れだ」
「・・・なにをいっている?」
「君と一生を共にしたい」
「・・・人語を喋ってくれないか?」
会話の応酬の合間に、勇者は魔王との距離を一気に詰めていく。
その距離は顔が触れるほどになり・・・
そして冒頭に戻る。
「愛している。私の妻になってくれ」
「いやらあああああ!!!!」
魔王を正面から抱きしめる勇者。
魔王は勇者の顔を力いっぱい手で押し退けている。
「ぴぎゃあああああ!なんだこいつ!なんだこいつ!なんだこいつうう!!!!」
「ああ・・・なんて良い香りなんだ。それに・・・柔らかい」
「嗅ぐな、揉むな、触るなあああ!!!!」
「すー・・・はー・・・」
「あああああ無言で匂いを嗅ぐのはやめろおおおおお!!!!」
この状態に呆然としているのは、勇者の仲間たちである。
「おい、誰だあれは」
「・・・勇者-・・・のハズだぞ?」
「魅了の魔法でもかけられたのか・・・?」
普段の穏やかに微笑む勇者と、今の魔王に迫る男とのギャップに困惑する仲間たちを置き去りにして、尚も勇者の暴走は続く。
「俺の子を孕んでくれ」
「あああああ!!腹を撫でるなあああああ!!気持ち悪いいいいいい!!」
魔王の身体は、いつの間にか背後から抱きしめられる体勢になっており、少女は必死に空中に浮いた足をバタつかせている。
だが抵抗も虚しく、勇者の腕は魔王の腰をガッチリホールドし、もう片方の腕は彼女の腹を撫でまわしていた。
魔王はキッ!と勇者の仲間たちを睨みつけると、大きな声で喚きたてる。
「おい!勇者の仲間共!こいつを止めろ!仲間だろうが!!」
「いや、そんなことを言われてもな・・・」
「俺たちにはちょっと・・・」
「勇者が一番強いんです・・・無理です」
「ぐうう!!!!役に立たん奴らめ!って、勇者あああ、胸を揉むなああ!」
「柔らかい・・・」
勇者は魔王を抱きしめながら、うっとりと瞳を閉じている。
「くそ!うちの部下共!勇者を殺れ!」
「魔王様が掴まっておられるのに、攻撃などできません」
「かまわん、今すぐやれえええ!」
「後で怒らないでくださいね・・・」
気弱そうな男性人型の美貌の魔物が攻撃魔法を勇者に放った。
室内に爆炎が広がる。
「・・・・・・」
魔法は勇者によって即、無効化された。
勇者には殆ど魔法の効き目がない様子だったが、その彼の隙をつき魔王はその手から逃げ出していた。
「あ・・・!魔王・・・!待って・・・」
「よくやった、ディーノ!勇者よ、今度は我の番だ!我の魔法をくらうがいい!」
魔王の手から放たれる魔法。
大きな魔法陣が勇者一行を包み込む。
彼らは、その魔法陣からの攻撃に身構えたがー・・・
彼女が放ったのは、攻撃魔法ではなかった。
勇者はハッ!と両目を見開くと、叫ぶ。
「これは・・・転送魔法?!魔王?!!」
「フハハハハハ!お前たちをスタート地点である国に帰してやる!もう二度と来るな!バーカ!バーカ!」
魔王が可愛らしいピンク色の舌を出し、あっかんべーをしている姿を見て、勇者は激しく胸をときめかせていた。
「魔王・・・!」
「おま!!!!なんで股間を大きくしているーーーーー?!!!!」
「君があまりにも可愛いから」
「もうヤダ、こいつううううう!」
転送の魔法により、勇者一行は光に包まれ、徐々にその姿を薄くしていく。
「絶対にまた来るよ。君を迎えに」
「来るなああああ!もう二度と来るなああああ!!!!!」
勇者はそう言い残し、フッとその姿をかき消した。
魔王はゼエゼエと涙目になりながら肩で息をしている状態だ。
時折、グスンと鼻を啜る音が聞こえる。
「・・・決めた」
「何をでございますか?」
魔王は部下にむかい宣言する。
「我、魔王を引退する!勇者が再び魔王城に来る前に、我は逃げる!」
「魔王様・・・」
小さな手をギュウ・・と握り締めながら、決意する魔王を、魔王の部下ディーノは憐憫の眼差しで見ていた。
あれは・・・確かに逃げ出したいと思っても仕方がない・・・
あんな勇者は反則である。
ディーノは魔王様が不憫で不憫で堪らず、ハンカチでソッと目元を押さえるのだった。
こうして、この世界から魔王という名の存在はいなくなった。
次の魔王が決まるまでには時間がかかるだろう。
勇者は勇者としての使命を全うしていたのである。
魔王に求婚するという形ではあったがーーーーー・・・
そして月日は立ち・・・
「魔王!見つけた!」
「ひいいいい、勇者!我はもう魔王ではないぞ!!!!何故我がここにいることがわかったあああああ!」
「愛の力だよ!」
「ぴぎゃあああああ!変態め!こっちに来るなあああああ!」
追いかける勇者
逃げる元魔王
そしてこの様子を見守る者たちがいた。
「うわ、本当に見つけ出したぞ。あいつ、あんなに執着深い奴だったんだな」
「にこにこ笑顔の無害な男だと思っていたのにな」
「あー・・・魔王ちゃん、号泣しながら逃げてるよ。あ、捕まった」
勇者のすることが心配で着いてきた、勇者一行のメンバー
そしてー・・・
「ああ、元魔王様。お可哀想に。勇者に捕まり、頬にキスをされー・・・いえ、あれはもう食べられていますね」
元魔王が可哀想でホロホロ涙しながらも、彼女を助けようとせず被害の被らない場所に避難している元魔王の部下ディーノ。
今でも元魔王のお目付け役兼お世話係りである。
彼は元魔王のモチモチした真っ白いお餅のような頬を、勇者がモグモグしている様子を見て、今日の晩御飯はどうしましょうと在らぬ方向に意識を飛ばしていた。
「はー!!なー!!せー!!」
「可愛いね、魔王!もう二度と離さない」
「うわああああん!!!神のやつ、なんて男を勇者にしてくれたんだああああ!許さない!一生憎んでやるううう!」
「いくら神様だからといって、他の男のことを考えるのは許さないから」
「ぴぎゃあああああん!こいつをどうにかしろおおおおお!勇者の仲間!ディーノ!そこにいるのはわかっているぞ!」
「他の男の名前を呼んだら、いけないよ」
「ぎにゃー!!!!変な所を触るなあああああ!!!!!」
勇者に捕まった元魔王は、隙を見ては逃げ、また捕まるを繰り返す。
泣いて、怒って、たまーに笑顔を見せる彼女の表情を見て、勇者はそれはそれは嬉しそうに微笑むのであった。
私の書くヒロインは、胸の大きい子が多いです。
性癖なので、気にしないで下さい。
ラッキースケベなお話が大好きなのも性癖です…
おっと、もう黙りますね。
勇者が変態なのは、申し訳ありません。
実際にこんな男性がいたら、ドン引きものというか、警察ものですが。
なんだかんだで、勇者も魔王もその後楽しくやっていると思います。
勇者は変態ですが、惜しげもなく好意を口にしてくれますから、魔王も少しずつなびいていくことでしょう。
短い物語でしたが、楽しんで頂けたのなら幸いです。