異世界転移とぽっちゃり天使
空へと吸い込まれた俺は眩しい光に眼を閉じていた。
そして気がつくと辺り一帯が紺色に包まれた空間に居た。
体はプカプカと浮いていてうまくコントロールができない。
「なんだここ...」
独り言を呟くとどこかからそれに答える声が聴こえた。
「ここは簡単に言えば天界です。」
周りを見渡しても誰も居ない。
「誰なんだ?」
「おっとすみません、自己紹介をしなければですね」
その瞬間頭上に魔方陣が現れ、人の足が出てきた。
さっきここは天界とか言ってたよな!もしかしてこれは超美人な女神様とかが出てきちゃうやつ!?
そんなことを期待していると会話が聴こえてきた。
「ちょっと!引っ掛かって出れないんだけど!」
「あぁもう!ぐーたらしてるから太るんだよ!痩せろ!」
聴こえてきたのは女性の声と野太い男性の声。
男の方の声はなんだ?彼氏か?
そんなことを考えている間に魔方陣は少し大きくなり女性が出てきた。
肩まで伸びた濃い茶髪、吸い込まれるような茶色の瞳、背中から生える白く美しい翼。そして出っ張ったお腹...。そう言えばさっき太るんだよとか言ってたな。なんでだよ、ここは超美人な女神様とかが出てくるんじゃないのかよ。
心の中で文句を言っているとさっきの声の主であろう男が出てきた。
とてもガタイのいい男。女と同じ色の髪に瞳、そして翼。
あの翼からして二人は天使なのだろうか。
ボーッと二人を見ていると女の方が話しかけてきた。
「何ガン見してんのよ、もしかして私に見とれちゃったの?残念だけどあなたは私のタイプじゃないわね、ごめんなさい」
なんか何も言ってないのにフラれた。
「いや何言ってるんすか、俺はあなたに見とれてないですから早く自己紹介してもらえませんかね」
俺が反論すると男が女の頭をグリグリしながら申し訳なさそうに言った。
「すみませんね、こいつはこう言う奴なんです、今のは許してください。それより自己紹介でしたね、私は大天使の「エルトナ」と申します。こいつは...知り合いの天使の「アエル」です。」
「ちょっと!実の一人娘を知り合いってどう言うことよパパ!」
「お前みたいなやつが娘って思われたくないんだよ!今回仕方なく任せた仕事もミスしてるじゃねぇか!」
「別に良いじゃない!こんなパッとしないようなやつ別に適当に転移させたって変わんないでしょ!」
そうかこの二人は親子なのか。と言うか今こんなパッとしないようなやつとか転移とか聴こえたんだが...なんで夢の中でもパッとしないとか言われなくちゃいけないんだよ。
「あの...俺追い付けてないんですけど、ちゃんと説明してくれませんかね」
この夢もまだ続きそうだし乗っかっておこう。
「すみませんね、今順を追って説明します。今椅子を持ってくるんで座ってください」
エルトナはそう言うと指を鳴らした。パチンッと音と共に魔方陣が現れ椅子が出てきた。
俺が椅子に腰を掛けるとエルトナは口を開いた。
「突然で申し訳ないのですが、簡潔に言うとあなたをこの世界に転移させました」
「なるほど...異世界転移ですか...つまりこの世界には心踊るような冒険やド派手な魔法バトル、危険なモンスターが蔓延る世界と言うことですか」
俺は少し息を荒くしながら聞いた。魔法とか使いたいに決まってるだろ!そんなことを考えているとエルトナが少し申し訳なさそうに言った。
「まぁ...魔法...あるにはありますけど...」
「もしかして俺には魔法使えないんですか!?」
そんなことを聞くとアエルが言った。
「この世界の魔法はそんな戦いに使うようなものじゃないわよ。それよりはパパ!お菓子無いの?」
「さっき痩せろって言ったばっかだろうが!」
戦いに使うようなものじゃない...か...夢ってわかっててもちょっと残念だな...
そして俺は呟いた。
「それにしても長い夢だな。」
「...?何を言っているのですか、これは現実ですよ?確かに突然すぎて状況が飲み込めて無いのかもしれませんが現実です。」
「いや異世界転移とかラノベじゃあるまいし」
「...じゃあ現実ってことをわからせてあげましょう」
そう言うとエルトナは手をこちらに向け魔法を唱えた。
『サンダー』
エルトナの手から放たれた電撃は瞬く間に俺に直撃した。
「うわぁぁぁ!!!」
身体中に流れる強力な電撃。さっき戦いに使うようなものじゃないって言ってたじゃねぇかよ。俺は意識が遠くなるのを感じた。
『ヒール』
エルトナの回復魔法らしきもので遠くなっていた意識が戻った。
「どうです?今ので現実ってわかりましたか?」
この人意外と適当だな。
「確かに...今のはかなり...」
でも今のでわかった、ヤバい。これマジかもしれない。
「で、でもまだ信じられないな」
「そうですか...ではアエル、出番だ」
こいつは何をしてくるんだ...?
警戒していると座っていたアエルは立ち上がり、翼で宙へ浮いた。
そしてアエルは流星のごとくその丸い体でこちらへ突進してきた。
「うわぁぁぁ!!!」
俺はアエルに押し潰された。
「し、死ぬ...」
あぁ...これはあれだ。リアルだ。現実だ。ノンフィクションだ。
「アエル、そろそろ離れてあげなさい。『ヒール』」
「んしょ...私と密着して興奮するんじゃないわよ」
「するわけないだろ...」
「現実だってこと、理解してくれたかい?」
「あ、あぁ理解したよ」
でも一つ疑問がある。
「なんで俺をこの世界に転移させたんだ。と言うかさっき俺を転移させる時にこいつがミスしたとか言ってたよな、聞き逃さなかったぞ」