プロローグ
「これ借りる」
「え~お前またこれ借りんの?」
俺、直江正時は図書館に入り浸っているのが大好きだ。
気に入った本を何度も読み返し、閉館の時間になるまではここにいる。
今も気に入っている本を借りて帰るつもりだ。
「別にいいだろ、お前に関係ないし」
「まぁそうだけど…はい、いいよ」
「ありがとな」
図書館の外に出て、窓からグラウンドのほうに視線が移る。
野球部、サッカー部、テニスコートは遠くて見えないが、部活動に励んでいる同級生がやけに入ってくる。
「辞めたいとか、行きたくない、とか言ってるくらいなら、辞めればいいのにな」
ただの独り言だ。
早く本が読みたいから帰ろう。
俺は足を急かして学校を出た。
外に出ると今度は耳から嫌な音が聞こえてくる。
ボールがバットに当たる甲高い音、パスを呼ぶ声、中途半端に息の合った掛け声、競争は嫌いだ。自分が相手より劣っていると実感してしまうからだ。だからあいつらがわからないし、嫌いだ。
「危ないでーす」
言っても誰も反応しないし行動も起こさない。言った。それだけの事実がほしいんだよ。あいつらは。
どこに言ってるかもわからないし、避けようがない。
夕日に背を向けて校門へと足を進める。まだ5月なのに夏みたいに熱い視線を送られる。
「危ないでーす」
頭に重い衝撃を受け、今まで視界の8割を覆っていたアスファルトの道が、夕日に染められた綺麗な水色へ変化した。
読んでいただきありがとうございます。