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6.ふらいぱん(ピーターパンなど、別解あり)




Q.

パンは パンでも

たべられない

パンって な〜んだ?

(お父さんお母さんへ。この問題には複数の別解があります。お子さんの柔軟な発想力を認めて褒めてあげてください。もしかしたら、お子さんの解答に驚かされてしまうかもしれません)







ヒント

 だいどころや でぃずにーの えいがや

 どうぶつえん 

 ほかにも いろいろ

 なまえに パンがつくものを

 さがして みよう






 散々勉強してきたつもりではあったが、現場は悲惨だった。

 百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、実際に炎に煙る様を見るまではもう少し楽観的だった。

 燃えそうなものは取り敢えず燃え落ち、奪えそうなものはすべて奪われ、壊せそうなものはまとめて壊されている。

 黒煙が上がっているところは、まだ燃え残っている場所だった。決して炊事の煙ではありえない。

 そもそも、と、僕はあたりを見渡した。とても炊事ができそうな雰囲気ではなかった。


「悲惨、ですねぇ」


 ここだ、と乗り物を降ろされてからしばらく呆然としていた僕がようやく捻り出した感想だった。

 悲惨。僕の知る言葉の中で、最上級の単語。これ以上を表す言葉はちょっと知らない。悲惨滅法とか言うんだろうか。すごく悲惨滅法だ。しっくりこない。

 土地が死に、生命が絶え、水は枯れ、空は煙で曇っている。


 僕は背負ったままだった背嚢をここにきてようやく降ろし、人心地ついた気分になった。

 長旅で、心身ともに疲れ切っていた。


 かつてこの星で、大規模な戦争があった。環境悪化で別の星へと脱出した人類と、残された人類との、二十世紀にも及んだ長い長い闘争だ。

 今となってはもはやどのように決着がついたのかはわからない。両方の星の記録は失われてしまったからだ。現場からは十中八九共倒れだったろうということが類推される。


 この星は、僕達の母星のある宇宙からは異なる宇宙を三つ挟んで位置する宇宙の、その端っこに存在する。この星と戦争していたのはすぐ隣の宇宙にある似たような星で、そちらの星はここに来るまでに経由してきた。

 どちらも似たり寄ったりだ。向こうの星の方が、燃えにくい素材の建物が多かったのか、ところどころ鉄骨の剥き出しになったコンクリートの林が立っていた。


 二つの星は、僕達も便宜上新旧地球と呼び分けていた。僕達も、というのは、以前新地球に到達した僕達が、戦争末期の新地球人がそう言うのを聞いたからだった。断片的な情報は、すべてこの時の記録に依る。

 新地球にも、僕達とは違う班が探査で向かっている。僕達は後発、旧地球探査班だった。

 生き残りの捜索、環境やその汚染度合いの調査などその道の専門家が複数参加しており、僕はその中でも環境を調査する学者だった。


 調査が始まってから三日後のことだった。

 その日、僕は二人の護衛兵士を連れて、かなり遠くまで足を伸ばしていた。

 これまでと同じように燃え尽きた建物群を見つけ、近づいて行く。


「止まってください」


 火具を構えた兵士が言った。人工知能が搭載された最新式の銃だ。僕達の星が、この惑星探査にどれほど熱心かよくわかる代物だった。

 兵士が止まれと言うより早く、僕は足を止めていた。矯正視力で一キロ先の人間の顔を見分けられる僕の目は、同じく一キロ先の残骸集落に、なにやら動く姿を認めていた。


 これが、僕と宇宙生物の出会いだった。

 しばらくは遠目に観察していたが、好奇心を抑えきれなくなり、護衛兵士の制止を振り切って僕は彼らに近付いた。

 彼らはまちまちの見た目をしていた。

 見上げるくらい大きいものがいれば、気付かず踏み潰してしまいそうなほど小さいものもいて、丈夫そうな鱗に身を包んでいるものもいれば不定形の体を絶え間なく蠢動させているものもいた。

 そのほかにも書き出せばキリがないほどバラバラな特徴を持ったものたちがそこには集まっていて、互いの長所で互いの短所を補い合いながら暮らしていた。

 あまりに大規模な共生に、僕は興奮を隠せなかった。こんなの、母星でも見たことない!


 互いに視認できる距離まで来ていた。

 僕の姿を認めると、彼らは不思議そうに頭──に相当するであろう部分──を傾げ、各々の体を打ち鳴らした。

 なんとなく、歓迎されているような雰囲気を感じる。警戒心がないのは、外敵がいないからだと思えば納得できた。

 もしかしたら僕のことは、新しい仲間だとでも思っているのかもしれない。護衛の兵士たちが遠巻きにして近付かなかったので、僕はどんどん彼らの中に入っていく。

 僕は生物学者ではないが、動物相手では警戒心を持って接すると相手にも警戒を抱かせるということをよくよく知っている。心を開いて接すれば、分かり合えるだろう。


 その日から、僕は彼らの中に混じって生活し始めた。

 体に吹き付けるスプレー式の宇宙服が時折銀色に変色して衝撃を防ぐ、という場面がいくつかあったが、彼らには悪気はなく、力加減がよくわかっていないのだということが理解できた。


 彼らの総称は汎旧地球生物群と決めた。まさかいるとは思わなかったので、そもそも誰も想定すらしていなかった(つまり名称もなかった)。僕が第一発見者だったので当然の権利だった。

 よくよく観察していると、彼らのベースは人型だということがわかった。基本形態は手足が二本ずつで、目と耳が左右で一対、排泄口が小用と大用とで一つ、鼻と口とが一つずつ。胴体があって、そこから手足と胴体が生えていた。

 ここに、それぞれの特徴が加わる。


 例えば、一番体の大きい奴は僕が見上げるほどで、黒っぽく分厚い皮膚に覆われた手足は、僕を縦に二人くっつけたほどの大きさがあった。人懐っこい性格で、よく飛び付いてくる。僕のスプレー式宇宙服が硬化するのは主にこいつのせいだった。

 逆に僕の小指くらいの大きさの奴もいて、彼女は虫に似た透明の羽を持ち、自由に空を滑空した。一度物陰で気付かず踏みつけてしまったことがあるけれど、見た目に反して物凄く力持ちで、踏みつけた僕の足を持ち上げて転ばせた。その後お互いに謝りあった。


 彼らのうちのほとんどは、驚くことに言葉に理解を示した。

 はじめに僕の言葉を真似する奴がいることに気付き、面白くなって色々な言葉を教えると、すぐに簡単な会話くらいならできるようになったのだ。

 言葉が広まるのはあっという間だった。僕が最初に言葉を教えた次の日には、ほとんどの奴らが僕に話しかけて来たのだ。

 一番興味深かったのは、彼らが自分たちに名前をつけ始めたことだった。僕は彼らにヌリァニという名前をもらった。

 体の大きい彼はカラカルラ、小さい彼女はスピマ、最初に言葉を教えた奴はチュガンだった。


 言葉が広まり、コミュニケーションが生まれ、彼らのプリミティブだった社会はどんどん進展していった。

 僕の気付いた頃には、廃屋どころかガラクタの山だった集落跡地はすっかり見違えるようになり、寝床や集会所、倉庫などと言った施設が日増しに増えていった。彼らにプライベートの概念はまだなく、眠るときは全員同じ場所で眠り、日中は僕に言葉を教わるために集会所に勢揃いだった。


 一緒に暮らしていてわかったが、彼らは何も口にしない。水浴びはするが、食物を採ったり、水分を口に含んだりといったことはしなかった。

 そのため排泄器官はすっかり退化し、わずかにその姿を残すのみである。

 おまけに、排泄器官を嫌がるでもなく見せてくれる彼らを見ている時にこんなことにも気付いた。どうやら生殖器官も退化して無くなってしまっている。彼ら彼女らと僕は呼ぶが、これはなんとなくの、見た目からの想像でしかなかった。


 口はあるので、ふと思い立って僕は持ち込んだ食料を彼らの目の前で食べてみた。

 「スキナノ?」と口々に言いながら、興味津々といった様子で近づいて来た彼らにお裾分けすると、彼らは僕の真似をしてそれを口に含んだ後、嚥下し「スゴイ」と言った。「モットホシイ」と言ったので、僕はその時手に持っていた糧食をすべてあげた。

 こういうときは「美味しい」と言うんだよ、というと、一時期「オイシイ、ホシイ」という言葉が大流行してしまった。


 僕があまりに彼らに馴染んでいるのを見て、護衛の兵士たちもおずおずとやってきた。

 僕は彼らに兵士を紹介し、兵士には順番に彼らの名前を紹介していった。

 その日から、兵士にも授業を持ってもらうことにした。困惑していたが、なんでも良いから好きなことを教えてあげてほしい、と言った。

 これでようやく本職に戻れるぞ、と、僕は周囲の環境調査に乗り出した。カラカルラ、スピマ、チュガンなど、何人かは僕の後ろについて来て、調査を手伝ってくれた。



 ある日起きると、目の前にスピマの体があった。彼女が言った。


「ヌリァニ、イツモアリガトウ。キノウ、ナラッタノ」


 ははぁ、兵士たちは感謝の概念を教えたのか、と起き抜けの頭で僕は考えた。コッチキテ、オレイガシタイノ、という彼女に引っ張られて、僕は集会所の方へ行く。

 お礼。一体何がもらえるんだろう。


「ヌリァニノイチバンスキナモノ、オレイニアゲル」


 彼らの一番大切なもの。

 そもそも彼らはおよそ全てのものを共有している。所有という概念を持たないので、一体何をくれるのか、まったく想像もつかなかった。それは余所者である僕も一緒で、彼らのものは僕のもの、僕のものは彼らのものだった。

 もしかすると、兵士の授業で所有概念が芽生えたのかもしれない。であれば名付けはその萌芽であったのだと推測できる。


 集会所へ行くと、汎旧地球生物群が勢揃いしていた。何事か、兵士たちと言い合っている。

 僕に気付いた兵士たちは、あからさまにホッとした顔をして、こちらに駆け寄った。僕は片眉をあげて、どうしたんだいと問うた。


「私が昨日、感謝について教えたんです。そうしたら、ヌリァニタチニハカンシャシテイル。オレイガシタイって言い出して」


 それがどうして言い合いになるんだい? 僕はカラカルラが寄せてきた頬を撫でながら聞く。


「ボクタチ、オレイガシタイ」

「さっきからこの一点張りなんです」

「オイシイ、スキ。ヌリァニムカシイッテタ」

「オレイドウシタライイノ」

「アイテガスキナモノヲアゲレバイイッテベンキョウシタ」


 この後なんです、と兵士の一人が背後で呟いた。


「ワタシタチ、タベモノモッテナイ」

「ダカラツクッタノ」

「タベテタベテ」


 彼らは口々にそう言って、自らの体を傷つけ始めた。自分の体を食べてくれと言うのだ。

 僕はここに至って、ここに来て初めての大声を出した。声を荒げて彼らを制止した。


 僕はそもそも、学校の先生になりたかったのだ。

 環境調査など後回しである。さあ、倫理の授業だ。




A.

汎旧地球生物群

(パン・オールドアース・コロニー)


A.(別解)

汎旧地球生物群・個体カラカルラ

汎旧地球生物群・個体スピマ

汎旧地球生物群・個体チュガン


など

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