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5.かめら(繋げて読むと「カメラクダサイ」となるので)



Q.

カメと

ラクダと

サイが

かいものに いきました


なにを かったでしょうか ?







ヒント

おとうさんや おかあさんと いっしょに

どうぶつ たちの なまえを

いちど こえに だして

よんでみよう







 取り返しのつかないミスが取り返しのつかないものだったと判明した時点で、地球はもはや人間が住むのにあまりにも過酷な環境と化していた。


 宇宙探査技術は飛躍的に発達し、宇宙の内部には地球人以外の知的生命体が暮らす星も、人類が特殊な装備のない状態で生活できるような星もなかったということが判明していたが、それでも人類は地球から脱出することを余儀なくされた。



 それが可能なのは、外宇宙にも地球があったからだった。


 時間にしておよそ二万年もの間、宇宙の外側を観測することは叶わなかった。そのため外宇宙になにがあるのかということは誰にもわからなかったが、今からおよそ数世紀前、遂に人類は光速を超えることに成功した。


 宇宙の端とは、すなわち人類が観測できる距離の最遠部である。光の速さで膨張し続ける宇宙の端より向こうへは、光以上の速さで観測する術が必要なのだ。


 結論を述べると、宇宙の外にあったのはまた別の宇宙だった。やがて探査機が、地球とまったく同じ組成の星を見つけ、人類が生身で暮らすことができる確率を99.9999%と試算した。



 光は、実に三十万キロメートル毎秒、一秒間に地球を七周半できる速さで移動する。

 であれば光を追い越すことができたらなにが起きるか、何ができるのか。


 地球から見た星が、実は何百年、何千年、何万年も昔のものだという話はあまりにも有名だ。ある時点で星から発された光は、恐ろしく速い一定の速度を守って、宇宙を進み続けている。


 であれば、光より速い速度で移動し続け、たとえば今から四世紀前に地球が発した光に到達したとする(光を追い抜くことに成功した人類にとって、これはなんの造作もないことだ)。

 この時点で地球を観測すると、大核戦争の真っ只中に地球から発された光を見ることになる。同様に、二十二世紀も遡れば、日本はまだ江戸時代だ。


 宇宙から脱出するということは、すなわち時間を遡るということに同義であった。





 強化外骨格に身を包んだ幼馴染がべらべらと話し終わるのを待って、私は彼に、次はどこに赴任するの? と聞いた。


「いやそれがさ」胴体の非金属強化外骨格を揺らして言った。「この前改造したばっかなのに、また別環境」


 彼の頭に取り付けられたカメラが明滅した。真ん中のメインカメラにあんまりじろじろ見るな、と目潰し。

 左右のサブカメラに切り替えた彼が抗議の声を寄越すが、なんか目線がいやらしかったもんだから、つい。


「別環境っつったら配置換えだろ?」


 少しアナログな、空中投影ディスプレイに表示した地図で道を確認しながら少し先を歩いていた女──もう一人の幼馴染──が、振り返って言った。


「俺も前線からさっさと別部署に移動してぇよ」


 口元を歪めながら、両手を広げて重装備の全身を見下ろす。

 ヒレのように大きく変形した手で、幼馴染が彼女の頭部に取り付けられた音波振動ランスを叩いた。


「撃墜王が何言ってんだ、お前が前線から移転したら誰が敵をやっつけるってんだよ」

「お前だからツノたたくのやめろっつってんだろ! センサー兼ねてんだからさ」


 水平のチョップが飛ぶ。彼は首を胴体に引っ込めて、彼女の攻撃をかわした。

 私は殴り合いの喧嘩を始めた二人の間に割って入る。



 昔、人類は地球からの脱出を余儀なくされたが、全人類が脱出することは土台無理な話であった。そのため外宇宙の地球──新地球へ脱出できたのは、宇宙旅行に耐えられる全人類のうちの七割の中から、アトランダムに選ばれたおよそ五割の人類だけだった。

 私たちは、脱出できた側の人類の子孫にあたる。そして脱出できなかった側の人類は、環境汚染や過酷な気候に耐えられるように──異常な進化を遂げた。


 我々新旧地球が戦争状態に陥ったのは、むしろ遅すぎるくらいだった。旧地球人類はいかに環境に適応したとはいえ、快適な新地球の環境を求めて攻め込んできたのだ。

 新地球人の持つ兵器は、旧地球人の肉体を前にあまりに非力だった。ゆえに私たちは、肉の体を捨てて、機械の体を得た。


 彼は海兵。亀をモデルにした人体改造手術を受けたが、配置換えでまた別の動物をモデルにした体に変わる。今度は鯨か鯱かのどちらかだったはずだ。


 撃墜王の彼女は陸兵だ。突撃力に優れた犀をモデルにした素体で、大きなツノと分厚い重装外骨格が特徴的である。重そうな見た目に反し高速起動が可能で、単独で旧地球へ宇宙旅行し、その後再び新地球へ帰還できる性能を有する。

 余談だが、彼女は宇宙航行性能テストの合間に丸一年向こうで暴れまわっていたという逸話を持つ、正真正銘の暴れん坊だ。


「ばかお前、補給兵が突っ込んでくんなよな!」

「戦う力ないんだから、出しゃばって来ちゃダメだろ」


 だって、今から飲み会しようっていうのに。口の中怪我してたらアルコールが染みて痛いかなと思って。

 私は補給兵。補給兵の中にも配置によっていくつかモデルがあるが、その中でも二瘤駱駝がモデルだ。体内に際限なくエネルギーや物資を蓄えることができる。

 もちろん最低限の戦闘力はあるが、引く手数多、いろんな現場から引っ張りだこの海兵と、撃墜数ダントツの一位の陸兵に挟まれてしまっては、そんなもの雀の涙だった。

 もちろん二人もわきまえていて、私が割って入ると喧嘩をやめてくれる。


「ところで、スマン」


 犀が、頰を掻きながら言った。


「道に迷っちまった」

「えー、マジかよ。結構歩いたのに」

「犀は目が悪いんだよ」

「動物の話だろ」


 もう別に、なくてもいいんじゃない?

 私が家にあるもので簡単に何か作るよ。


「……お前料理下手じゃん」

「こうなったらなにがなんでもつまみ買って帰んねぇとな……」


 そんなに下手じゃあないと思うんだけど。

 言うと、犀と亀はこれでもかと顔をしかめて見せた。

 今度は私が二人に殴りかかる番だった。



A.

 酒のつまみ

 解けましたか?

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