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4.かがみ



Q.

 のぞいて みると

 じぶんが うつる

 って な〜んだ?







ヒント

 おとうさんや

 おかあさん

 みのまわりの おとなたちと

 いっしょに かんがえてみよう






 お前なんか採用するんじゃなかった。

 社会人になってこんなこともわからないのか。できないのか。

 何のために会社に来てるんだ、働かないなら帰れ。

 この給料泥棒。

 週休なし。業務は九時から十七時半。ただし朝は業務開始の二時間前に来ること。残業は毎日八時間。毎週金曜日は飲み会。三次会以降は参加自由。土曜日は遅刻厳禁。


 働いて働いて働いて働いて、上司の嫌味や皮肉、悪口やパワハラに耐えて耐えて耐えて耐えて、ひたすら耐えて、月末、支給明細書を見て突然私の糸は切れた。

 手取りで十三万円。

 私の一日十八時間半は、一週間一二九時間半は、一ヶ月五一八時間は、たったのこれだけにしかならなかった。お前の価値はこれだけしかないと言われたような気がして、私は倒れた。

 私は死んだのだ。


 両親が帰ったあと、医者が助手に私の労働時間を説明して「こんなもん死ぬに決まってるでしょ」と言った。

 ふと思い立って近くの会社に行ってみたら、朝は九時半から、夜は十八時まで。残業は禁止。話しているのを立ち聞きしていたら、給料は私の三倍近くあった。名札を見ると私と同じ役職だった。

 入社して以降ずっと、どこの会社もこんなものだとばかり思っていた。みんな苦しい、みんな大変な思いをして働いているんだ。自分だけ特別扱いしてもらえると思うな。上司が言った。

 死んではじめて、私は自分の会社がおかしかったのだと気が付いた。それからは、色々な会社を見て回った。


 幽霊の身分は、不法侵入に都合が良かった。誰にも見咎められない。

 昼間は目に付いた会社に入り、どんなことをしているのだろうと観察した。

 夜になると、電気がついているビルを探して入った。働いている人は夜の何時になろうと働いていて、働いている人のいない時間は無いのだと気付いた。

 幽霊なので当然だが、私は鏡やカメラには写らなかった。物にも触れない。常にちょっとずつ浮いていて、飛んで移動した。壁や扉はすり抜けられた。


 ある日、本当に自分でも理由はわからないが、もともと自分のいた会社に行ってみた。

 私が居なくなってもまったく景色が変わらない。今も上司は気に入らない部下にパワハラを繰り返しているし、理不尽に怒鳴られている社員はひたすら頭を下げている。

 私はその社員に取り憑いてみることにした。取り憑くといっても何か特別なことをするわけでは無い。ただなんとなく、継続して観察してみる。言葉にするとそれだけである。

 彼はひたすら理不尽に耐え、少しずつ業績を伸ばしていった。

 やがて彼の上司は退職し、彼が上司の立場になった。


 その時、彼の顔が私と重なって見えた。彼は私だった。

 私は惨めな自分を、プライドを、全てを押し殺して、自分のことを自分とも思わずに、ひたすら仕事に打ち込んでいた。「私」を忘れて、まさしく滅私奉公をした。幽霊の自分は、現実逃避する私がうみだした幻想だった。


 自分を覗いて客観的に見て、ようやくわかった。

 私は転職するべきだ。


 ふと我に返った。


A.

 ブラック企業社員の転職

 解けましたか?

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