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3.たんす



Q.

 てん を つけると

 おどりだしてしまう

 かぐって

 な〜んだ?








ヒント

 おとうさん や おかあさん と

 いっしょに おへや を

 みわたして みよう

 







 ある日突然お金という概念がなくなったら。

 人間はお金の為に働かなくって良くなるし、品物はなんでも好きなだけ、欲しいだけ貰って良いようになった。


 散々迎えない迎えないと言われ続けていた技術的特異点──シンギュラリティ──は、結局到来した。

 指数関数的に高度化していった人工知能によって人間の仕事はどんどん取って代わられ、ついにはすべての仕事から人間は解放された。

 人工知能が配達する人工知能が作って人工知能が加工した品物は二十四時間いつでも家に届いたし、そもそも働く必要のなくなった人類には教養が必要なくなったので、教育機関をはじめとして公共の施設はすべて廃止された。

 たとえば、趣味で歴史を学びたければ人工知能が幾らでも史料を出してくれるし、友人と会いたければ、現実空間と一切見分けのつかないVR──仮想現実──を経由して、家に居ながらにして会話やスポーツなどを楽しめた。

 体調管理や体型維持はすべて人工知能が個人ごとに最適な方法を提案し、生活習慣病という病気は根絶された。

 土地問題も解決されつつある。自宅から出ずとも、ありとあらゆるすべてを行えるようになった人類にとって、自宅に玄関は必要ない。家々は均一に区画整理されてびっしりと隙間なく密集し、空には配達用人工知能が使うレールが張り巡らされた。窓を開けると気分によって自由に変えられる景色がすぐ外のディスプレイに投影され、それに合わせて風が吹いたり雨が吹き込んだり、匂いが流れ込んだりした。


 この生活しか知らない子供たちというのは、可哀想なことに、外の空気というものを知らない。本物の風を知らないし、朝日を、夕焼けを見たことがない。

 私は元々中学校の先生をやっていた。教師というのはかなり遅くまで人工知能に取って代わられることのなかった仕事だ。私は教師という仕事にやりがいを感じていたし、いつまで働いているのか、という周囲の言葉も全く気にならなかった。

 しかし忌まわしきは全置換だった。人間がこれまで労働という行為をもって行っていたすべてを人工知能が肩代わりするだけの準備が整ったので、教育は義務や権利じゃなく、ただの趣味だとされたのだ。

 教師は人工知能が取って代わることのできない人類の最後の砦の一つ、ではなかった。いつでも取って代わることはできるが、ただ順番ではなかったからと捨て置かれていただけだった。

 突然無職になった私は、どこにも出口のない、理想的な家に押し込められた。VRを使えばいつでも好きな時に何処へでも、家から一歩も出ずに行くことができると人工知能に説明されたが、どうしても私にVRは難しかった。

 若い頃は年寄りの保守的な頭の硬さに閉口したが、既に私は年寄りだったのだ。


 私は仏像を造るという名目で、丸太とチェーンソーとノミ、カンナを取り寄せて貰った。チェーンソー以外はすべてダミーの要望だったが、人工知能は最高スペックのチェーンソーを用意してくれた。

 自室が最上階であることは既に知っていた。一番最後まで働いていた者にあてがわれるのは、一番最近建て増しされた最上階であると決まっているからだ。

 目論見通り、天井に空いた穴からは青い、青い空が覗いた。

 チェーンソーを振り回して汗だくになり、シャワーを浴びたくなったが、これだけ気持ち良く青い空を見せられてはもう一度部屋に戻るという選択肢は取れそうになかった。それに、天井に空いた穴の切り口は、既にその端から修復が始まりつつある。

 私は老体に鞭打って天井に這い上がると、頬を撫でる本物の風に涙した。

 汗ばんだ体に心地良い。


 風に散った汗が、ポタポタと天井に垂れる。

 するとそこに四角形の線が走り、跳ね上げ式の扉のように持ち上がると、中から無機質な鉄色の筒が姿を現した。

 私は空を見上げると、自分の一生を振り返る。残された時間、今から私の体を襤褸切れのようにする火具を見るより、空を見ている方が有意義だ。パラララララ、という小気味の良い音と共に、私の体は血飛沫を巻いて踊った。



A.

 都市管理用セントリーガン

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