10.ぽっぷこーん
Q.
つぶやいたら
あたらしく できるもの
って な〜んだ?
ヒント
ぽーん ぽーん と
ばくはつしたら
しおを かけて たべるよ
妄想癖があった。
街行く皆が手元のスマホに視線を落としながら歩いていく代わりに、僕は空を見上げたり街のあちこちを見たりしながら歩くのが常で。
皆がSNSやソーシャルゲームの情報に没頭する中、僕は取り留めのないできごとを脳内で呟いては捨て呟いては捨てを繰り返す、それだけのことだった。
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単純に、自分の思考に沈む機会が多かったのかもしれない。なぞなぞやクイズが好きで、授業中でもずーっと脳内でなぞなぞの答えを考えているような、そんな子供だった。
脳内でああでもないこうでもないと思考を弄り回すのが好きなのだ。それゆえ、妄想癖、と言うのでは少しばかり誤解を生む可能性がある。
脳内独り言癖、の方が正しいかも。
Twitterがその感覚に近い。あ、こんなこと呟いたら面白いかも、というツイートを、脳内で作ってみる。
ああいや、こういう書き出しの方が良いな。文末こっちの方が見やすいかも。
そうして完成した文面に満足して、結局ツイートしない。だから、脳内独り言癖。
脳内でツイートする癖があるのだ。
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内容は本当に取りとめもないことから、ハードコアなものまで多岐にわたる。
日常的なことから、過激で荒々しいことまで。だってどれだけ過激な発言も、僕の脳内にある限りは無害だから。
今日は天気も良いし、冬なのに暖かいから、このまま電車を乗り換えないで京都まで行ってみようかな、とか。
寒すぎて心折れたから今日は大学サボるわ、とか。
何か一つ超能力使えるようになるなら瞬間移動が良いなー、ひみつ道具ならもしもボックスが欲しいな、とか。
異世界に転生するなら言語チートくらいはくれよな、とか。
今ここを歩いてる人達が、自分を残して全員死んだらどうしようかな、とか。
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その規模は迷宮と揶揄されるような、周辺最大の駅だった。同じ名前の駅が、路線の違いだけで幾つか。西とか東とかが頭についたり。JRだけなんだか名前が違う。
土曜のお昼なもんだから、周辺は人だらけだった。片手を上げればその瞬間二、三人くらいにラリアット。
マイクやら楽器やら持ってなにかやってる人もいるし、名刺代のプラカードを突然渡してきて寄付を請う外国人や、ティッシュを配る人、ネカフェの看板を持って立っている人もいる。横断歩道に掛かる位置で止まった邪魔なタクシー。
電車の乗り換えで、目的地の駅のホームへ。十何番線まであるような大きな駅だ。
到着した電車から吐き出された人群れの川に流されて、ほとんど前に進めない。
どこからこんなに湧いてでたのかと思うほどの人の量に、僕は、脳内でツイートを拵え始めた。
『人類はあまりにも増えすぎた。』
うーん、なんか微妙。それにしても前に進まない。止まりはしないが、あまりにも向こうから来る人が多すぎる。
改札は四箇所くらいあるんだから、みんながみんなこっちに来なくても良いのに。バラけてこれか。そりゃヤベェな。
『もしも今ここにいる人達が、急に全員死んだらどうなるんだろう。』
あー、そりゃ困るな、などと脳内で考えつつ、目的のホームに到着。
すると、全員死んだ。
突然、自分の周囲にいた通行人たちが、糸の切れた人形のようにくずおれ、横倒しになった。
繰り返すが、全員死んだ。根拠はないが、僕は彼らが死んだのだとわかった。
それでも一応、近くにいた人を揺り起こして確認してみた。やっぱり死んでいた。眠るように、安らかに。
外傷なんて一切ない。倒れた時の傷も、見る限り無い。
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痛いくらいの静寂が耳に聞こえる唯一の音だった。僕は死体を押し退けて改札を潜り、駅内のコンビニへ向かった。
ジャスミン茶を万引きする。
なに、金の事は心配しなくて良い。
『タケノコは春、トマトは夏取れます。では、さつまいもが取れるのはいつ?』
答えはお店の人がいない時。どうせ全員死んでるんだ、誰に咎められるものか。
そんなことを誰にともなく言い訳しながら、僕は比較的死体の少ない場所にリュックを置き、腰を落ち着けた。
ジャスミン茶のキャップを開け、一息。
『やれやれ、人生がいきなり難易度ハードコアだぜ。』
僕はおかしなくらい冷静だった。なぜなら、これは夢だからだ。突然僕以外の人間が全員死ぬだなんて、夢以外ではありえない。だからこそ冷静でいられるのだ。
夢ならなんだってアリだ。空でも飛べるかと思って念じてみたが、無理。それくらい良いのに。
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倒れているストリートミュージシャンの手からマイクを奪い、歌ってみた。近くに置いたスピーカーから、僕の声が馬鹿みたいに拡大されて流れる。
静かだ。あまりにも。
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一曲アカペラで歌ったところでマイクを返し、僕は道路を歩き始めた。片側一方通行、四車線のかなり大きな道路だ。
至る所で衝突事故を起こしている車の運転席を覗いてみると、やはりみんな眠るように死んでいた。エアバッグは作動していない。自分の夢ながらなんだが、つめがあまい、と思った。
『つめがあまい、は〝爪〟が甘いのか、〝詰め〟が甘いのか、どっちなんだろう。』
広い道路を自由に歩いていく。
突然静寂を切り裂いて、背後で凄まじい破砕音。あわてて振り返ると、先程くぐった横断歩道橋が崩落していた。
その崩壊が呼び水となって、連鎖的に周囲の建物が崩れ始める。隣接する百貨店達が土煙を巻き上げて倒れた。
ドミノ倒しのように、横断歩道橋を中心とした同心円状の崩落は連鎖していった。舞い上がった土煙を吸い込まないように、袖で口元を覆う。
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三十分ほどうずくまっていると、崩落の音はかなり遠くに行っていた。
そろそろ覚めてくんねぇかなぁ、と僕はそう思った。明晰夢の割には自由度がないし。
ジャスミン茶を飲もうと思って蓋を開けたら腐っていた。ダメだ、飲めない。
終末都市、とかいう言葉が脳裏に浮かんだ。
『終末都市なう。』
ははっ、と乾いた笑いが漏れる。ポケットから携帯を取り出してみたが、電池切れだった。七十パーセントくらい残っていたはずなのに。
並木の植物がみな枯れている。
誰かいませんかー、という声がビルの窓ガラスに乱反射して吸い込まれ消えた。
それもそうか。これは全員が死んだ夢だ。観測者である僕が全員死んだと定義したのだから、生者がいるわけがない。
僕は百貨店の上に登った。横倒しのビルの上に倒れ掛かり、壁が斜面を形成している。
周囲一体では最も高い建物だった。
見渡す限り静寂がそびえ立っている。
目を凝らすくらいの遠くでまたビルが倒壊した。
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一週間経った時、さすがにおかしいと思った。夢であるなら、あまりにも覚めない。
しかし〝現実〟を感じるというわけでもない。
一週間飲まず食わずなのに特に不都合がなければ、一睡もしていないのに体調は良好。新陳代謝は止まっているようだ。便意もない。
七日もの間、僕は一切を吸収していないし、まったく排出していなかった。初日のジャスミン茶は例外。
見つけた食べ物飲み物がどうやら傷んでいるらしいということは、素人目に見ても明らかだった。
最初こそ餓死の恐怖に怯えて記憶にある限りのコンビニ跡地を巡ったが、すべて口に出来そうなものは腐っており、次第に諦めて探すのをやめた。その時、別に空腹感も喉の乾きもなければ、体の不調も感じないことに気がついた。
さんざんかけずり回って気付いたことはもう一つ。有機物は全滅している。すべて死んでいた。
腐敗を起こす微生物は生きているのだろうか、と腐ったコンビニのおにぎりを観察しながら思ったが、ある程度で一斉に腐敗が止まったので、これはそう、単に死ぬタイミングの話だった。
僕に次いで二番目に長生きした有機物が微生物だったと、それだけの話である。
服は? 僕が身につけているうちはダメにならないらしい。ネックウォーマーを外して放り投げてみたら、瞬く間に崩れてしまった。
〝死んだもの〟達は、その形を保っていられなくなり、ボロボロと崩れる。少し湿った砂みたいな様子。
世界は、青と、茶色と、黒と白と、それらを混ぜた色だけになった。あとたまたま僕が着ていたモスグリーンのセーター。赤色が絶滅した。もっと派手な服を着とけば良かったな。失敗した。
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さすがに一年経てばおかしいことくらい悟る。
あまりにも暇すぎて、本州縦断などしてみた。徒歩で。〝死滅〟が起きた時は近畿地方にいたので、一路、ひたすら西へ。
一旦山口県まで行って、そこから改めてスタート。日本海沿いに昼も夜も歩き続け、青森まで。津軽海峡(と思しき辺り)に到着してもまだ目が覚めないので、今度は太平洋沿いに。気付いたら近畿に帰って来てた。
ちょっと疲れたな、と思った。足を休めることも無く、昼夜ずーっと歩き続け、本州を丸々一周。おかしなことに体が一切疲れない。そのことに、疲れ果てていた。
『オーケイ認めよう、これは夢じゃない。夢みたいなだけで、現実だ。』
〝死滅〟が始まった地点に帰ってきた時、僕はようやく歩みを止めた。いつだかジャスミン茶を飲んだ時に腰掛けた花壇を探すが、見つからない。
崩落した駅の下敷きになっているみたいだった。
仕方ない、と、僕は大した腐敗もなくそこら中に姿を保って転がり続けている死体をどかし、地面に尻を置いた。
置こうとした。
とぷん、という感覚。水中に身を投げた感覚に近い。安全に尻を着地させるため地面に置いたはずの右手が、一切の抵抗なく、するんと地中に消えた。
下手すれば体重のほとんどを掛けようとしていた右手が突然地面に飲み込まれたものだから、僕は半身のまま、顔面から地面に行った。
さすがに痛いのは嫌だ、と、反射的に目を瞑る。
一、二、三。
頭から地面に倒れた僕は、頭から地面に飛び込んでいた。
例えるなら着水。まるで地面など存在しないかのように、僕の体は地中にあった。しかし地面が存在する証拠として、身につけていた衣服はすべて地面に阻まれその命を終えていた。
地表の裏側から、僕は世界を見ている。全て有機物が死に絶えた世界だ。マジックミラーかのように地表は透け、〝あちら側〟が見えた。
対してこちら側は、虚無が支配していた。
〝なにもない〟が僕という例外を覗いて一面に広がっている。白に満たされた空間、黒に満たされた空間、などと説明できればわかりやすいかもしれないが、ひたすらなにもない空間だ。
だって、〝白い空間〟だと白が存在していることになる。ただひたすら、何も無い。
不意の浮遊感。
〝僕〟という頭のてっぺんから爪先までのみを残して、〝あちら側〟が凝縮した。ハンドボールくらいの大きさまで縮むと、僕はそれを手に取った。
このハンドボール大の球体の中には、僕が元々居た世界の、ありとあらゆる全ての要素が詰まっている。
多元宇宙のそれぞれに存在する無数の星々に、これまたそれぞれ存在する無数の無機物も有機物も植物も動物も猫も犬も女も男も、思いつく限り、また思い付かないものも、森羅万象の全てが、すなわち世界の全てが、僕の両手のひらの中にあった。
世界の球は、僕が命じれば何にでもなった。
僕は世界の球を使って、ほとんど無限とも言えるくらいだがかろうじて限りはある資源の許す限り、自由に世界を作成することが出来る。
有り体に言うと、僕が生まれ、僕が育った今までの世界は、僕だけを残してリセットされたと、つまりそういうことだった。
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ただまあ、いきなり世界を作れることになってもまったく展望がない。
とりあえず世界の球は僕が念じればなんにでも姿を変えるので、男にしたり女にしたり動物にしたり、無機物にしたり植物にしたりして遊んだ。
すぐ飽きた。
僕は結局世界を作ることにした。世界の球を男に変身させると、まずは世界から男の部分を取り出す。続いて女。犬の部分を取り出し、猫の部分を取り出し、動物の部分、植物の部分、有機物の、無機物の、と、世界中のありとあらゆるすべてを、世界中のありとあらゆるすべてに分離した。
それからしばらくは楽しかった。
一切の不足はなく、苦しいことや辛いことは忘れ、好きな時に食べ、好きな時に寝て、好きな人と寝た。動物や植物、無機物や有機物の違いなく交わりあい、僕達は子供を作った。
子供ができて、孫ができて、曾孫ができて、玄孫ができて……数え切れないくらいの子孫が地に満ちた。
僕はもう一人じゃなかった。
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これから僕は世界を再構築するだろう。多元宇宙の仕組みは変えないつもりだ。物理法則自体は基本的に流用する。
戦争が起きるかもしれない。
超高度管理社会になるかもしれないし、幽体離脱がありえるかもしれない。
新旧地球だなんて言って宇宙を挟んで戦ったり、僕の知らない未知の生物がたくさん生まれるかもしれない。
これからもう一度リセットして再構築する予定の世界では、人間は人間、犬は犬、猫は猫、動物は動物、植物は植物、有機物は有機物、無機物は無機物同士でしか会話などできないように変更する予定だけれど、宇宙数個に一人くらいの割合で、他種族と会話できる人間がいても良い。
それくらいの不都合は仕方がない。だって僕が一人で管理する世界だから。難易度はハードコア。なぞなぞみたいに簡単には解けないのだ。
A.
世界
解けましたか?
10問全問解けた方がいらっしゃいましたら、感想の方で勝ち名乗りを上げてくだされば全力で崇めに行きます。
解けなかった方は、出題者の僕に残念ながら負けたということになりますので、レビューなど書いてください。お願いします。感想と評価もついでにお願いします。飢えてます。
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最近はscraivというサイトを主戦場にしています。
Twitterの「質問箱」というサービスを聞いたことある方は多いんじゃないでしょうか? あの質問箱を開発した人が運営しているサイトで、YouTubeみたいに、PVに応じてお金が貰えるシステム(パートナーポイントシステム)があります。
小説のみならず、エッセイ、ブログ、文章ならなんでもあり。
いかがでしょうか。
↓僕のチャンネルです。
【https://scraiv.com/ch/1539934288252 】
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