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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪夢

作者: 幻視図書

 ここはどこだろう……。こんな場所に見覚えなんてない。

 目が覚めると俺は知らない家にいた。なんだろう、記憶がはっきりしない。昨日寝るまではちゃんと自分の家にいたはずなのに……。しばらく辺りを見回してみるが、やはりこんな場所に見覚えはない。突然、目の前が光ったかと思うと、どこからともなく部屋の中心に大きな扉が現れた。突然現れた扉に戸惑いつつも、僕は扉に近付き観察してみた。至って普通の扉だ。ただ一つどこにつながっているかわからない事を除けばだが……。

 開けようかどうか悩んでいると扉はひとりでに開きだし、中から一人の男が出てきた。扉は男が出てきたと同時に消滅した。

 突如現れたそいつは、長身でスーツを着ている笑顔がさわやかな青年だった。

「こんにちは。私は悪魔です♪」

 いきなりおかしなことを言いだしたそいつは、頭の処理が追い付かずポカンとしている僕を無視して続けた。

「本日付けであなた様の不幸を担当させていただきます。以後、よろしくお願いします」

 担当って何かの間違いか?やっぱり不審者なのか?それにこいつ自分の事を悪魔だとか言い出していたような……。突如現れて訳が分からないことばかり言いだすそいつに、僕の不信感が高まる。

「……えーと……どちら様?」

「あ、紹介が遅れました。私は不幸促進委員会の(たましい)取男(とりお)です」

 不幸促進委員会とか不気味で如何にも胡散臭い名前だな。こりゃ、早く抜け出した方が身のためだ。

「こんな場所も、あなたの事もよく知らないので帰らせてもら」

「ダメです」

 まだ全部言ってないのに断られた!僕はこんな奴知らないんだけどなぁ。

「僕を誰かと勘違いしてませんか?それに僕は不幸促進委員会なんて聞いたことないんですけど……」

「えーと、桜井翔也様ですよね?」

「はい、そうですけど」

「なら、間違ってはいません」

 人違いという僕の淡い期待も打ち砕かれた。

「先日、部下にご説明をさせに行ったんですが……」

「あー……、なんか来ていたんですけど、めちゃくちゃ怪しかったんで追い返しました」

 そりゃ、ふんどし一丁でこられたら誰だって追い返すだろ。仮にふんどしじゃなくても不幸促進委員会なんて物騒な名前だされた時点で追い返すんだが。

「……また、あの格好で行ってたのかあいつは」

 いつも、あんな格好で行っているんだあの人。

「では、改めて私がご説明させていただきます。私たち不幸促進委員会は人間に不幸を訪れさせるという事を生業としています。ですのであなた様に不幸になっていただきます」

 名前通りの嫌な会だ。

「拒否とかはできないんですか?」

「できますが、拒否された場合あなた様の肉親が不幸になります」

 なんという理不尽だろうか、いきなり現れて拒否できないとは……。さすが自称悪魔と言うだけのことはある。そもそもなぜ僕が標的にされているんだ。

「あなた様が選ばれた理由は、あなた様が罪を犯したからです」

 今こいつ、僕が考えてることを読まなかったか?

「はい、私は悪魔ですので、心を読むぐらいはたやすいことでございます」

 ……なんだと。

「心を読むの禁止な」

「はい、心得ております。今のはあくまで私の能力の一部を見せたにすぎません。私が悪魔であることを信じてもらえませんと、これから一々驚かれるのも面倒ですので」

「はぁ……わかったよ。お前が悪魔であることは信じるよ」

 正直、この家に来て数十分しかたってないが、常識を超えたことがありすぎて驚き疲れてきたところだ。

「ありがとうございます」

 そういって取男は深くお辞儀をした。

「話を戻させていただきますが、私共があなた様を選んだ理由は一つでございます。あなた様は現実世界においてある罪を犯してしまったからなのです」

 罪?何のことだろう。身に覚えがないのだが。それに現実世界でとはどういうことだ……。

「思い当たる節が無いと言ったお顔ですね」

「……罪なんて思い当たらない」

「……まぁ、そのうち嫌でも思い出しますよ。思い出さなくて困るのは、あなた様なのですから」

 やけに意味深な言葉だな。

「期限は三日でございます。三日間で罪を思い出し、懺悔することができたならば私共はあなた様から手を引きます」

 三日か……。多いようで少ないな。情報が少なすぎる。何も分からない。彼の事も罪の事もなぜ自分がこんな所にいるのかも、全部僕には分からない。情報が欲しい取男に質問してみた。

「ここは、どこですか?」

「ここは、現実から離れた世界とでも言っておきましょうか。そしてこの家は今日からあなた様と私が一緒に住まう住居でございます。」

 ……え?何かの聞き間違いであろうか。今までの事が頭から吹き飛んだ。聞き間違いであってほしい。そう願いながら、僕は聞き返す。

「……今、なんて?」

「ですから、私とあなた様との住居でございます」

 ますます分からなくなった。何で、こんなことに。困惑する僕をよそに彼は続けた。

「私はあなた様の罪を聞き届けるため、あなた様のそばに居なくてはなりません。それゆえ同居という形であなた様に取り憑く事にしたのです」

「家族が心配するし、学校があるので丁重にお断りします」

「学校にはこの場所からこれまでのように通ってもらいます。私が使った扉を使えばここから学校まではすぐでございます。あなた様の荷物も、すでに持ってきています。それにあなた様の家族の事は問題ありません。なんせ、あなた様は一回死んでいますし」

 一瞬彼の言ってる事が理解できなかった。頭痛がする。鼓動がどんどん速くなっていく。痛い、頭が割れそうだ。そうだ、僕は確か……。そこで、僕の意識は途切れた。


 目を覚ますと、エプロンを腰に巻き掃除をしている男がいた。そう、魂取男である。

 やっぱり夢じゃなかったのか……。それにしても何で僕は気絶したのか、……駄目だ気絶する直前の記憶があやふやだ。確か取男はこう言っていた。『それにあなた様の家族の事は問題ありません。なんせ、あなた様は一回***いますし』駄目だ、肝心なところが思い出せない。頭にモヤがかかっているようでいまいち気分がすぐれない。

「あ、ようやく目覚めたんですね。もう朝の七時ですよ。早くご飯を食べないと、学校に間に合わなくなりますよ。朝ご飯は台所にありますから」

「あ、ありがとうございます」

 とりあえず、ご飯を食べてから考えよう。台所からいい匂いが漂ってきた。卵焼きにご飯、シャケに味噌汁とおひたし完璧なる日本料理だった。それにめちゃくちゃ美味い!なんてこった、奴は料理がとんでもなくうまい。

「あいつ、朝ご飯はご飯派なんだなぁ」

 僕はパン派であるが、この朝ご飯には文句のうちどころがなかった。そうこうしているうちに僕が学校に行く時間になった。

「いってらっしゃい」

 取男がいった。

「い、いってきます」

 戸惑い気味に答えてしまったが、悪い気はしなかった。


 いつもと変わらぬ学校、昨日あんな事があったって言うのに、僕はいつも通りに学校に来ている。なんだか不思議な気分だ。それに何か罪を犯したのだったら僕は学校に来てる暇なんてないはず。なのに学校は普段と何も変わりはしない。

「よぉ、翔也お前二日も休んで何しくさってたんや」

 教室に入るなり、僕の親友である光が話しかけてくる。

 二日?僕は二日も休んだ記憶なんてないんだけど、どうも昨日から僕の記憶ははっきりしない。

「どうしたんや?そんな辛気臭い顔してからに」

「いや、ちょっとね。なんでもないよ」

「ほうか、ならええけど」

 考えるのは後にしよう、今からホームルームが始まるし。そんな事を思っているうちに先生が来た。

「はーい、皆席について今日は転校生を紹介します。」

 周りがざわつく。夏休みが終わって二週間ぐらいしかたってないこんな時期に転校生なんて珍しいな。なぜだか、少し胸がざわつく。

「転校生―、なんでこんな時期に?」

「可愛い子だったらいいなー」

「どんな人だろー」

「はーい、皆静かに。んじゃ、入ってこーい」

「はい」

 声を聞く限りでは女の子だな。 

 扉を開け、転校生が入ってくる。

「皆さん、転校してきた魂取子です。よろしく♪」

 ……魂ってもしかして。嫌な予感がする。というかもう確定な気がする……。

「私どこに座ればいいですか?」

「んー、そうだな桜井の横の席が空いているな。そこに座ってくれ」

 そういって先生は僕の隣の席を指さした。

「分かりました♪」

 転校生がゆっくりと僕の近くにやってくる。目がにやついてやがる。この時点でもう半分ほど確定していたもんだが、取子の次の一言で確信に変わる。

「よろしくね♪桜井翔也君」

 こいつ、名乗ってないのに僕のフルネームを知ってやがる。どうやって女になったか分からんが絶対そうだ。こいつは取男だ。

「う、うん。ヨロシクネ」

「ええなー、翔也そんなべっぴんさんの隣で、わしの名前は光ちゅうねん。よろしくなー、取子ちゃん」

 光、お前には僕の気持ちが分からないだろうな。僕を不幸にすると宣言した奴と隣なんだぞ。危険すぎる……。それに罪の事だって何もわかってないし、これからの事が不安すぎる……。

「はい、よろしくお願いしますね。光さん」

 何を考えてるんだ取男は、こんな純粋な女好きを騙して。光に『騙されるな。こいつは男だぞ』と言ってやりたいところだが……めちゃくちゃ取男が睨んでくる。これは言うなというサインだろう。とりあえず場所を変えて話をするために、取男を昼休みに人気のない所に呼び出した。

「何でお前が学校に来るんだよ。取男」

「おや、私と気付くとは流石ですね。翔也様、私は姿をそれなりに変えてきたのですが」

「誰だって気づくわ!」

「僕が聞いてるのは何で取男がここにいるかってことだよ」

「それは、やはりあなた様を監視するためです。常に一緒にいると申し上げたではないですか。」

「いなくていい!」

 全く、なんて厄介な奴なんだ。

「しかし、あなた様は私をここに連れてくるとは何て不幸なのでしょう」

 僕には取男が何を言っているのか分からなかった。

「なぜ?」

「美少女をこんな人目のない所に連れ込んだからでございます。それにより、一部のもてない男子から反感をかいました」

 そう言って取男はにこっとほほ笑む。自分のことを美少女とか言ってるのは置いといて、確かに取男の言ってることも一理ある。特に光とかに見つかったら厄介だ。まぁいいそれよりもどうやったら取男は俺から離れるんだろう。

「どうやったら、僕から離れてくれるんだ?」

「昨日申し上げた通り、あなた様が自分の罪を思い出せばよいのです。」

「思い出したらちゃんと報告するから学校の中だけでもかかわらないでくれよ」

 僕の罪、やっぱり思い当たるものなんてない。僕は何をしたんだろう。それすら思い出せない。

 また、あの頭痛だ。痛い、割れる。立ってすらいられない。僕の意識はそこで途切れた。


 ここはどこだろう、川岸に僕はいた。なんだか体がふわふわしている。夢……なのだろうか。僕はここにいるはずなのに向こう岸に僕がいた。

 川の中では光がおぼれていた。助けないと。僕は川に飛び込み光のところに駆けつけた。

「光、手をつかめ」

 そういって僕は光に手を差し伸べるが、光はパニック状態で僕の事に気づいてないみたいだった。僕は焦って光の手をつかもうとするが光はその場で暴れているので手をつかむことができない。

「そろそろ、思い出してよ。僕の罪を。すべての真実を」

 向こう岸の僕が問いかける。

 分からない。何も思い出したくない。痛い。頭が割れるようだ。そこでまた僕の意識は途切れた。


 目が覚めると、森の中にいた。見覚えがあるような気がしたが、ここがどこだか分からない。ただ、なんとなくこの場所は気持ち悪い。早く帰らなきゃ。ずっと誰かに見られてる気がする。

「僕の罪か……」

 分からない何が罪なのか、僕は何をしてしまったんだろう。

「まだ、自分の罪が分からないのかい。翔也君」

 取男の声が聞こえる。

「分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない」

「そうか……やっぱり君も、駄目だったか」

 君も?

「ここはね、人殺しが来るところさ。自分を殺した人殺しがね。でも、どんな人間にだって、罪を償うチャンスぐらいはあげるべきだろ?君が自殺した事を思い出し、懺悔すれば君は、夢の中だけでもいい思いができたのに……残念だよ翔也君」

 この森には見覚えがあった。そう、ここは確かに僕が首をつった場所だ。

 嫌だ。生きたい。もっともっと生きたい。こんな俺でも親しくしてくれた奴だっているんだ。

「生きたい。今度こそ、ちゃんと生きるから!」

 いつの間にか頬には涙が流れていた。

「よく言った、翔也。自分で決めたことだ、今度こそちゃんと生きろよ」


 急激に意識が覚醒する。体中が痛い。口の中がカラカラに乾いていた。

 ここは……病院?

「ようやく目覚めましたか」

 医師のような人が話しかけてくる。

「あなたは自殺しようとして、深夜に近所の山で首を吊ったんですよ。幸いにも、家族がすぐにあなたがいないことに気付いて、探し出してくれたんですよ。そのおかげで、あなたは助かったんです。家族に感謝しなさい」

 僕は助かったのか……。妙に頭がすっきりしている。そうだ、すべて思い出した。あれは、夏休みも中盤って時だった、僕と光は近くの川に泳ぎに行ってたんだ。そこで光は溺れてしまい死んだ。あの時僕が、川になんて誘っていなければ……。あの時、僕が光の異変に気付いていれば……。そんな後悔と光に対する罪悪感と親友を失った悲しみで自殺しようと思ったんだ。

 僕が見たもの、あれは夢だったのだろうか。取男の事も夢だったのだろうかそれは、今となっては分からない。でも、そんな事はどうでもいいのだ。僕は生きていくただそれだけだ。

 取男がみせてくれた何気ない日常だった光との日常はないけれどそれでも僕は生きていく

夢喰いさんが書いた小説です。

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