表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現実は乙女ゲーよりも奇なり  作者: 春賀 天(はるか てん)
【第4部】
67/67

【9】有島家の人々

【9】




「ーーお急ぎですね。それだと出来上がりは明日の正午以降になります」


「はい。それでお願いします」



私はクリーニング店で緋色くんと自分の学校の制服の上着を出していた。スカートの方は汚れも少なく直ぐに染み抜きをしたので、そのままでも大丈夫。取り敢えずは明日の登校は学校指定のジャージで行くつもりでいる。私服はなんとなく気恥ずかしいし、周囲に特に伊月あたりに色々聞かれるのも面倒だ。


そして店外では康介と奏が待っている。康介はさっさと帰ろうとしたが、電車の時間が一緒なので奏が一緒に帰ろうと言ったからだ。たから康介も渋々合わせている。



「お待たせ〜さあ、帰ろっか」



私が両手をパンと叩きながら言うと、



「ーーなんかムカつく。なんでおめーのペースに巻き込まれなきゃならねーんだ」



不満そうな康介の態度にムッとするも、ここはグッと我慢の子だ。だって、ここで康介を怒らせると、一人で帰ってしまいそうだから。


先ほど奏が一緒に帰ろうと言った時、自分は一人で帰ると言い出したので、それを無理やり留めた。


だって、康介が一人で帰ってしまったら、必然的に奏と二人きりになってしまう。奏とは前に買い物で一緒に行動したばかりで、再びニ回目ともなると、なんか気まずい気もするし、何より今日の私は変装していないので、ここは学校区域内で誰かに見られているとも限らない。卒業間近とはいえ、変な噂が立つのは非常に困る。だが最悪時、康介が一緒であれば、実の姉弟です!と正当な言い訳が立つので、ここでの康介の存在は絶対必要不可欠なのだ。



「まあまあ、たまにはいいじゃない。どうせ帰りの電車は一緒なんだしさ。ここまで来たんなら最後まで付き合ってよ。なんだったら今日のお礼になんか奢るし、そうだ!近くに美味しい和菓子店があるから寄って行こうよ。お母さんにも買っていきたいしーー」


「自分が食いたいだけだろ?」



康介の突っ込みにもめげないよ、私は。



「それもあるけど、康介も奏も和菓子は嫌いじゃないでしょ? あそこの和菓子店は甘さ控えめだし、それでいて美味しいから部活帰りの人もよく買ってるんだよ。今なら期間限定の桜餅なんかがオススメかな? 塩漬けの歯とほんのり甘い餅が絶妙な味のバランスで、これがまた、すっごく美味しいんだから」



そんな私の和菓子愛を知っている康介が呆れた顔をする。



「そこまで和菓子が好きなら、和菓子屋でバイトすればよかったじゃん。今の所は洋食系なんだろ。しかもロリ専とかヤベーし」


「あのねぇ、それとこれとは別! 私は今の職場がすごく気に入ってるの。それにロリ専とか変な言い方しないで。うちは正統派のお店だよ。マスターを筆頭にみんないい人ばっかりで、しかも女従業員は私だけだから働きやすいし、他の店は女従業員もいるから人間関係色々難しそうで私は嫌。それに給料面でも今の店の方がダントツにいいんだから」



私のお店愛に康介がふんと鼻を鳴らす。



「あ〜あ、そうかよ。そもそも姉ちゃんの相手ができる唯一の店だしな。良かったじゃん」


「う〜なんか嫌味。ーーね、、奏もいいでしょ? 和菓子店に寄っても」



康介は相手にならんと私は奏に向き直ると、一方の奏は片手でスマホを持ちながら画面を見ていたようで、スマホから視線を外すと私を見て頷く。



「うん。俺は全然構わないよ。それでさ、珠里。一緒に帰るついでに俺の家にも寄っていってくれないかな?」


「え? 奏の家に?」



奏の突然の申し出に、思わず首を傾げる。



「康介の自転車も家に置いてあるし、母さんから来たから珠里と一緒だって返信したら、珠里に会いたいから絶対連れて来てって言ってる」



ほら、と奏が自分のスマホの画面を見せてくると、確かに紗菜さんの《珠里ちゃんに会いたいわ!いいこと奏!!絶対ぜ〜ったいに、珠里ちゃんを家に連れて来るのよっ! 連れて来なかったら、お仕置きだからね!》という文面がある。



⋯⋯紗菜さん。お仕置きって何?



「⋯⋯ねえ、奏。ちなみにお仕置きって何されるの?」


「う〜ん。わからない。母さんのことだから」



奏と二人で顔を見合わせていると、康介が深いため息を吐いた。



「要するに姉ちゃんが奏の家に行けばいいって話だろ。姉ちゃん、奏の為にも紗菜さんの言う通りにしてやれよ。奏が可哀想だ」



う〜ん。確かに紗菜さんって、外国の血が入っているだけあって色々オープンなところあるし、元々発想が豊かな人だから、何をするかわからないかもーー



私は紗菜さんを思い浮かべながら、どうせ帰るついでだし、顔を出すくらいならと了承する。



「うん。それじゃあ、少しだけ奏のお家に寄らせてもらおうかな。私も紗菜さんに会いたいしーー」



紗菜さんはたまに私の家に遊びに来ているそうだが、私と時間が合わず最近は直接会ってはいない。紗菜さんからは時々電話があり、うちにも遊びに来てね。とはよく言われているが、いくら家族ぐるみのお付き合いとはいえ奏の親友で同級生である康介とは違って、私は康介の姉というだけで子供の頃ならばいざ知らず、もういい年齢をした姉が弟の友人の家に遊びに行くなんて、普通でいってあり得ないだろう。だから誘われるたびに、社交辞令として濁していたのだがーー



「ありがとう、珠里。母さんの我が儘にいつも付き合わせてごめん」



困ったように笑う奏に、私はぶんぶんと片手を振る。



「そんなこと全然ないよ。私も紗菜さんや奏には色々お世話になってるし、それにしても久々だな〜有島家に訪問するなんて何年ぶりだろ。凛音ちゃんとも全然会ってないし、ちょっと緊張しちゃうかも」



ーーとはいったものの、どうやら私は奏の妹の凛音ちゃんから嫌われているようなので、本当に有島家に訪問していいのかどうか、些か心配している。そんな私が行くことで、凛音ちゃんが嫌な思いをしてしまうのではないか。凛音ちゃんがまだ小っちゃな頃は嫌われていなかったと思うのに、いつから嫌われてしまったのか全く見当がつかない。


私が知らず知らずの内に凛音ちゃんに何か嫌な事をしていたのなら謝りたいけれど、その原因がわからないから自分でもどうしていいかわからない。紗菜さんも奏も凛音ちゃんは多感な年頃のせいだから気にしなくていいと言ってくれているが、それは本人出なければ誰にもわからない感情だ。


ーーまあ、玄関先で紗菜さんに挨拶だけして帰れば問題ないか⋯⋯凛音ちゃんは確か小学6年生だっけ。奏の妹だし、きっとすっごい美少女になっているだろうなぁ。



✽✽✽✽



「⋯⋯うわぁ、久しぶりに来たど、相変わらず綺麗な家だねぇーー」



私は有島家の大きな邸宅の入り口の前で呆気にとられながら見惚れていた。有島家のある町内の区画はいわゆる高級住宅地で、この辺一体に建てられている家はどの家も大きくて立派でお洒落なので、ちょっとしたお散歩でのお宅見学コースにはもってこいの場所である。


ちなみに我が橘家は庶民地区にあり、家もこれといって特徴もなく、ごくありふれた家だ。だからこの辺りの家を見ると、その豪華さに圧倒されて自分がここにいるのが場違いではないかと気後れしてしまうのは仕方ないだろう。


しかしそんな私を放って、康介は我がもの顔で有島邸宅の入り口からずかずかと歩いて行く。それを見て私は慌てて声をかける。



「ちょっと!康介!!あんた、なに勝手に人様の敷地に入ってるの!? ここはあんたの家じゃないんだよ!?」



すると康介は目を細めて私を見る。



「あのなぁ、人様の家の前でぼけ〜っと口半開きにして見上げてる方が怪しいだろ。それに玄関先まで行かないで、どうやってベル鳴らすんだよ」



それを聞いてハッと我に返る。



「あ、ああ、そっか」



納得する私に康介が呆れ口調で言い放つ。



「初めて来たわけでもねぇのに、なに緊張してんだよ。姉ちゃんだって昔はよく奏の家に来てただろ。ボケるにはまだ早えんじゃねーの?」


「だ、だって、中学一年の時に来た以来だよ? しかもその頃とは周りの風景も変わってるし、ちょくちょく有島家にお邪魔してるあんたと違って、私がわからなくなるのは仕方ないじゃん」



そんな私を尻目に「ふ〜ん?」と言ったきりで康介はさっさと先に行ってしまった。それにしたって人様の家に堂々と入って行く弟の感覚の方がおかしくはないか? そう思って私が声を掛けようとすると、一緒にいた奏が丁重に私を中へと誘導してくれる。



「珠里も遠慮しないで中へどうぞ? 母さんも首を長くして待ってるはずだから」


「奏、康介っていつもこんな感じなの? だったらごめんね。アイツ〜いくら幼馴染みだからって、ここん家より先に行っちゃうなんて、いくらなんでもマナーが悪すぎる。家に帰ったらお母さんに現状報告してやるんだから!」



弟の愚行を見過ごすことは出来ないと、奏に謝りながら怒っていると、奏は笑いながら康介の後ろ姿を見る。



「珠里が謝ることないよ。康介は子供の頃から一緒にいるし、母さんも自分の子供同然だと思ってるから康介に色々用事頼んだり、買い物の荷物持ちとか手伝わせたりしてるし、それに父さんだって、たまに自分の暇つぶしの相手にさせたりしてるから、逆に康介の方が実の息子よりもこき使われてる。だから橘家に申し訳ないのはこちらの方だよ。しかも両方の母親同士は同意の上みたいだし、ただ珠里のお父さんの方はどう思っているのかが心配でーー」



それを聞いて私は思い返す。そういえば、康介は休みの日とか家にいることが少ない。ということは奏の話から察するに有島家に行っていることが多いということで、だけど奏が心配するほどのこともなく、うちの父親は昔から休みは一人で行動したい人で、社会人スポーツクラブに行ったり、温泉に行ったり、コンサートに行ったりと一人で休日を満喫していることが多い。たまに母親の買い物に付き合わされたりもしているが、今は私も康介も小さい頃とは違っい家族全員で行動したいとか特に思わないので、各自それぞれ自由にしていて、あまり気にしていない。



「あ〜うちのお父さんって、そういうのあまり気にしないから大丈夫。しかもお母さんも知ってるなら康介のことは聞いてると思うし、それに対して何か言ってるとこ一度も聞いたことないもん。どちらといえば家で話題にのぼるのって、私のことが多いかなぁ」



私が思い浮かべながら言うと、奏がクスッと笑う。



「珠里は話題に尽きないからね」


「ちょ〜っと、奏くん? それってどういう意味かな?」



わざとらしくジト目で奏を見ると、おおうっ!まさかの反撃!奏の爽やかな王子スマイルが向けられ、私の顔面筋が固まってしまう。くそっ!イケメンの笑顔の安売りはもはや罪。


私のそんな内心の動揺も知らずに、奏は相変わらずニコニコしながら言う。



「珠里は楽しい人だからって意味だよ。珠里はいつも前向きで明るいから、一緒にいると元気をもらえるんだ」



ううっ⋯⋯そんな疑いを微塵にも抱かないような笑顔をこっちに向けないで。明るくて前向きとは聞き覚えはいいが、私のはたんなる能天気な性格ってだけで、しかも自己中の無神経なのは自覚してるんだよ。たから結構トラブルも多いのに。でも、そんなの奏は幼馴染みなんだし、私のそういうところは知ってるはずなんだけど、どうしてそういう変換になるの?



「奏、それって勘違いだよ。私が人を元気にさせるだなんて、不快にさせるならともかく、そもそもそんな陽キャじゃないしーー」


「そんなことないよ。俺は珠里と一緒にいてすごく楽しいし、昔から元気をもらってる。だからいつも珠里と一緒にいられる康介がうらやましく思ってた。俺も珠里の傍にずっといられたらいいのにって」



だ、だめだ。奏、完全に騙されてる。私のどこをどう見てそう思えるんだ? 確かに奏が小さい頃からお姉さん替わりとしてよく面倒を見てあげたけど、だから姉がいる康介がうらやましかったのか。う〜ん。奏は一番上の子で姉も兄もいないから甘える対象がいないもんな。しかも下には妹がいるお兄ちゃんだからしっかりしないといけないし、でも有島家の父母は子煩悩だから子供への愛情は十分すぎるくらい注いでいるはずだけど、姉弟ともなると感覚が違うのだろうか。



私は奏の腕をポンポンと叩く。



「奏、別に康介にうらやましがらなくてもいいんだよ。あいつは弟のくせに姉である私のことなんか邪魔扱いなんだから。ほんと奏と康介を交換したいのは私の方。奏みたいな弟がいつも側にいてくれたら、きっと毎日が楽しいのに。逆に私は奏の妹の凛音ちゃんがうらやましいよ」


「珠里、俺は弟じゃなくてーー」

「おーい、お前ら何やってんだ!早く来いよ!」



奏が何か言いかけたと同時に、苛立った康介の大きな声が飛んでくる。



「もう!わかったってば、ほら奏も早く行こ?」


「⋯う、うん」



そして私は奏を先に促しつつ、駆け足で康介の元に向かったのだった。





【続】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ