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現実は乙女ゲーよりも奇なり  作者: 春賀 天(はるか てん)
【第3部】
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【8】因縁の再会⑱ー5 (雨振っても地は固まりません!)

【⑱ー5】




「まあぁぁ!珠里ちゃん!? そのイケメンくん達はどうしたの?」



私が会場に戻ると、まずは廉さんの元へと向かった。すると当然ではあるが廉さんは目を丸くして私の後ろにいる弟達を見ていて、私は頭をポリポリと掻きながら、なんとなく気まずくて小声になってしまう。


だって、なんか周囲の視線がこっちに集まってるんだもん。悪目立ちしてるみたいでイヤだなぁ⋯⋯



「ええっと、あの、実は弟達が私の忘れ物を届けに来てくれたみたいで、一応ご紹介をと思いましてーー」



私は弟達に視線を向け、咳払いをしつつ



「こっほん、えっと。二人共、こちらは私がバイトでお世話になっているここのお店のマスターさんです」



そして続けて廉さんに視線を向け、



「こっほん、えっと二人共、こちらは私がバイトでお世話になっているここのお店のマスターさんです」



そして続けて廉さんに視線を向け、



「マスター、こっちが私の弟と、その友人で幼馴染みの有島君で二人とも高校一年生です」



二人を紹介すると、廉さんはニッコリと微笑みながら手慣れた所作で上着の内側のポケットから名刺をスッと取り出し二人に差し出した。



「ふふ、初めまして、私はここの店長の周防 廉です。珠里ちゃんのお身内と御友人に、こうしてお会いできて、とても嬉しいわ。どうぞよろしくね」



うん、さすがは廉さん。相手が子供であろうと、きちんと名刺を渡すなんて、対応が大人だ。


そして差し出された名刺を先に康介が受け取る。



「初めまして。いつも姉が大変お世話になっています。弟の橘 康介です。このたびは突然お邪魔してしまってすいませんでした」



うわ〜康介が真面目に挨拶してるよ。いつも生意気な口しか言わないのに、ちゃんとした挨拶もできるのか。なんか、なんか⋯⋯複雑?



そんな内心、一人複雑な心境を抱えている私を傍らに彼らの会話は続く。



「あらぁ、お邪魔だなんて、そんなこと全然ないのに。それに珠里ちゃんのお身内なら尚のこと大歓迎よ。今後とも是非お店にいらしてね。特別サービスしちゃう♡」


「は、はぁ⋯どうも」



あらら、康介が面食らってる。まぁ、実際に男のおネエさんに接することって、そうそうないからね。



続いて康介の隣にいる奏も廉さんから名刺を受け取ると、困惑しつつも挨拶をした。



「こんにちは、初めまして。有島 奏です。よろしくお願いします」


「うふふ、こちらもすっごいイケメンくんね。どうぞよろしくね、奏くん♡」



そして廉さんが笑顔でウインクする。あ、♡が飛んだね今。



「は、はい⋯⋯」



あ、奏も固まってる。うん、どんまい。



すると廉さんの側にいた暁さんが呆れたように口を挟む。



「こらこら、オーナー。初対面なのに、いきなりそれじゃあ驚くでしょ。しかもこの子達は(タマ)の身内で、まだ子供ですからね。間違っても変な気ぃおこさないで下さいよ?」



それを聞いた廉さんは眉間に皺を寄せてムスッと膨れている。



「ま、いやぁね、変な誤解を招くような言い方しないでちょうだい。ちょっとしたスキンシップを兼ねた挨拶じゃないの。それなのに人をいかにも犯罪者みたいに言うなんて失礼ね」



そんな廉さんに、暁さんは小さく肩を竦めた。



「だからって、いきなり素を出されたら対応困るって。ーーああ、ごめんな、俺、この人の甥っ子なんだ。まあ叔父はこんなんだけどさ、決して悪い人間じゃないから、そこは安心してくれな」



唖然としている康介と奏に、暁さんが一応のフォローを入れると、廉さんがすかさず反論。



「ちょっと、こんなのはないでしょ。ーーって、暁はもうこの子達と面識があるの?」



廉さんの問いに、暁さんが私の方をちらりと見る。



「ああ、さっき(タマ)に紹介してもらったんだ。それがなんか珠のヤツさ、スマホと間違えてテレビのリモコン持ってきちゃったらしくて、それでこの弟くん達がスマホを届けに来たらしいよ」


「ちょ、ちょっと暁さん。それ大きな声で言わないで!」



私は慌てて暁さんの口を塞ごうと手を伸ばすも、すかさず後ろにいる奏に上着を引っ張られ、その勢いで奏の体にぶつかってしまう。



「ちょっ、奏?」



振り向き気味に奏を見上げると、「だめ」と低い声で奏に軽く睨まれてしまった。



へ? なんで?



「あら、まっ」



廉さんがクスッと笑って声を上げ、そんな奏の行動に?マークが飛び交う私の肩を康介が容赦なくバシッと叩いてくる。



「おめぇは犬か!」


「はぁあ? 犬って、なに!?」



私はただの暁さんはからかい出すと止まらないので、その口を塞ごうとしただけなのに、それを犬って!?


さすがに抗議しようとするも、康介は黙っていない。



「誰かれ飛びつくのは犬だろ。おめーまさか、あれだけ言ってんのに、まだわかってねぇのか? 身内ならまだしも他は他人なんだぞ? いいか、ここは二次元じゃねーんだ。おめーの行動はへたすりゃセクハラ、犯罪なんだよ。しかも相手の了承なしに身体に触んのはアウトな世界なんだって、いい加減自覚しろや!」


「セ、セクハラ、犯罪!? そんな大袈裟な」



すると、私の頭上から奏の冷気? いや、少し怒ってる?ような低い声が振る。



「珠里⋯康介の言う通りだよ。珠里が人懐っこいのは悪いことじゃないけど、俺も康介も前から言ってるよね、特に男に気軽に触っちゃ駄目だって」



奏のその責められているような真っ直ぐな視線と口調に、無意識に頬が引きつる。



「え〜と、いや、だって暁さんは、そんなんじゃ⋯」


「は?そんなんじゃ?⋯⋯珠里、なに?」



ーーうっひゃあ、冷気がぁぁぁ



「は、はいぃ! なんでもありません!! わかりましたぁあ!! ごめんなさいぃぃ!!」



ううっ、なんでか奏、怒ってるし⋯⋯こわ。



そして康介が小馬鹿にしたように言う。



「ああ、そういや、こいつ三歩歩けば忘れるヤツだったな、犬の方がずっと賢かったわ」


「な、康介! 人前で姉を馬鹿にするなんて、言っていい事と悪いことがーー」


と、弟に詰め寄るも、



「あーこれは父さんと母さんにも報告しないとだな。今晩あたり家族会議かぁ、あ〜母さん怖いだろうなぁ」



それを聞いて私はサーっと青褪めると、慌てて康介の鞄のベルトを引っ張る。



「康介っ!待って待って! わかった、今度から気をつけるから! だからお母さんには言わないで!」



うぅっ〜お母さん怒ると説教がめちゃくちゃ長いんだよな。しかも数日同じ事ずっと言われ続けるし、その間、私のメンタルダメージ半端ない。けど!言われっぱなしって、なんか癪に障るし!



私は性懲りもなく、悪あがきを続けるーーいや、口が勝手に動くのよ。



「だけどさ、知り合いなら別に良くない? 今は普通にハグしたりする時代なんだし、そこまで神経質にならなくても。ほら、世の中男女平等の時代だよ?」



そうだよ、今時異性にちょこっと触れたからって、そこまで言う? 昔の深窓の令嬢でもあるまいし。しかもそんな警戒するって一体いつの時代の生まれなんだよ!って言いたいーーでもはっきり言うと、なんとなくヤブヘビになりそうだから言わないけどさ。ちぇっ⋯⋯



康介が鞄を引っ張る私の手をうっとおしそうに払った。



「ったく往生際が悪りぃな、それじゃあ、知り合いなら誰でもいいんだな? それが行きつけのスーパーやコンビニのおっさん店員とか、駅でいつも見かける汗だらったらのおっさん社会人とかに、いきなり馴れ馴れしく抱きつかれても、おめーはなんとも思わないんだな?」



それを聞いた途端、一瞬想像してしまって背筋にゾゾッと悪寒が走る。



「そんなわけないじゃん! それこそ犯罪!! マジ怖いって!! しかも一瞬想像しちゃったじゃんか、バカぁぁ!!」


「そういう事なんだよ!わかったか!」



康介のギロリと睨む強い眼圧におされて、反射的に頷いてしまう。



「う、うん。わかった。でもなんで、おっさん限定なの?」


「そっちの方が例えとしてわかりやすいだろーが。若い男じゃ意味ねぇよ」


「ふ~ん? そういうもの?」



そんな私の反応に康介はチッと舌打ちをすると「だめだ、俺もう限界ーー奏パス」と言って、なんか奏にパスされてた。どうにも釈然としないけど、やはり康介に口では勝てる気がしないし、なんといってもお母さんに何こそ言われるかわからないので、取り敢えずここは大人しく引き下がっておく。


その一部始終を見ていた廉さんが我慢できないように笑い出した。



「ふふふ、珠里ちゃんの弟くんはすごくしっかりしているのねぇ。でもまさか珠里ちゃんに、こんな頼もしい素敵なナイトが二人もついているなんて、ちょっと羨ましいわぁ」


「は、なんだそりゃ、冗談だろ⋯⋯」と小声で失礼なことを呟く康介をすかさずゲンコツで殴る。



「廉さ、ーーマスター、すいません。弟が大変失礼を、しかも変な場面も見せちゃって。今後二度と職場にこないように言いますから!」



もう、康介のやつ、少し空気読め! しかも上司の前で失礼な態度とるなんて、こっちこそお母さんに言いつけてやるっ!



私は申し訳なくペコペコと頭を下げると、廉さんはちょっと困った顔をしながら笑う。



「珠里ちゃん、そんなこと言わないで。それに弟くんが警戒するのも当然よ。だって初対面なんですもの。たから暁も気をつけなさいね。珠里ちゃんは⋯⋯んーまあ、ともかく、うちは従業員を家族同然に大事にしているの。だからそこは安心してね」



急に話を振られた暁さんも苦笑しながら手を軽く振る。たけど廉さん、その『珠里ちゃんは⋯⋯』からの微妙な省略の間は一体なんなのでしょう?



そんな折、康介が私の袖をくいっと引っ張って、小声で「おい、次」と促され、私としても、これ以上自分に関する話題を出されるのは都合が悪いので、とにかく康介達をこの場所から引き離さねばと、行動に移した。



「えっと、オーナー。今日はこの辺で失礼しますね。お忙しいところ騒がしくして、ごめんなさい」


「そんなこと全然気にしなくていいのに〜」と言う廉さんに頭を下げて、今後は私は急かすように康介達の背中を押しながら速やかに退場しようとして、ふと思い出す。



「あの、そういえば緋色くんを見ませんでしたか?」


「⋯⋯」



なぜだろう⋯⋯無言の奏の背中から、また冷気が立ちのぼっているようなーーいや、気のせいかな。うん。



すると、暁さんが答えた。



「ああ、柏木弟なら、急用ができたとかで先に帰ったのぞ」


「えっ!?」



私は驚いて暁さんに更に尋ねる。



「いつ!? いつ帰ったの!?」


「あ〜少し前だったかな。桃華に声をかける時間もないからって、慌ただしく帰ったけど、そういや、誰か訪ねてきたみたいだったな」


「え〜そんなぁーーえっと、私に伝言とかは?」



まだ、肝心のこと教えてもらってないのに! そこ一番大事なのに!!



しかし、暁さんから無情の一言



「無いな」


「がぁぁぁん〜」



私がその場にがっくりと項垂れると、暁さんに「珠、『がぁぁぁん』なんて普通口には出さないから」と言われ、廉さんは「あら、珠里ちゃんらしくていいじゃない」と笑いを堪えながら言われ、弟の康介には他人のように、そっぽを向かれ、唯一奏だけが「気にしなくても大丈夫だよ、俺もたまに言う」と、気を遣われてしまった。



ーー奏がそんなこと言うはずないのにね、ほんと優しい子だなぁ。でも、時々ブリザード奏になる。あの全身に漂う何とも言えない冷気が怖い。しかもここ最近多くなってきたような気がーーいや、気のせいだな。気のせい。うん。



✽✽✽✽



「ーーああ、ごめんね。あの子ったら、タマちゃんを放ったらかしにして帰っちゃうなんて。自分で招待したのにホスト役失格よ!」



廉さん達から離れたあと、私は桃華さんの所に行って、緋色くんのことを聞きに行くと、桃華さんは私の手を両手でぎゅっと握りながら、申し訳なさそうに謝ってきた。



「いえいえ、ホスト役だなんてとんでもない。緋色くんは何も悪くないですよ。私が押し掛けただけですから」



しかし、桃華さんは首を横に振る。



「ううん、緋色が悪い! なんか急用だから帰るって、私にもスマホのメールだけ入れて帰っちゃったのよ。急用ってなんなのよもう!言葉が足りないっての」



桃華さんはスマホを手に取りながら、「ああ、もう返信こないっ」と、どうやら弟の緋色くんにメールを入れていたらしい。



「まあまあ、年頃の男の子なんて、そういうもんよ」



桃華さんと一緒にいた友人の早智さんが宥めるように言い、綾乃さんも「そういう」と頷いている。それには私も同意する。まさに弟の康介がそうだからだ。


ーーでも、奏はちょっと違うんだよな〜どんな些細なメールもちゃんと返信してくれるし、わざわざ電話までかけてくるから、かえって気を遣わせちゃうんだよ。やっぱり、どこの家も弟の扱いは苦労してるんだな。


ちなみに、今ここにいるのは、桃華さんと早智さんと綾乃さん、そして私の四人だ。桃華さんの旦那さまは友人の所に挨拶に行っているらしい。康介と奏は知らない人達の中にいるのは、さすがに居心地が悪かったのか、さっさと外に出て行ってしまった。私も緋色くんもいないことだし、家に帰ろうと思い、持っていた緋色くんもいないことだし家に帰ろうと思い、持っていた緋色くんのブレザーの制服を見る。



「あの、それで緋色くんから借りていた制服を後で洗濯をしてからお返ししたくて、でも本人の連絡先がわからなくて、どうしたらいいでしょうか?」



緋色くんの姉である桃華さんに恐る恐る聞くと「ああ、そんなのわざわざ洗濯しなくてもいいから、あの子スペア持ってるし大丈夫よ」と片手を振る。



「でも借りて手を通した以上、そういうわけにもいかないし、それに本人に直接返すのが礼儀なんじゃないかと思ってーー」



そんな私の言葉に、桃華さんの口角が微かに上がった気がした。



「そうよね!たしかに緋色が貸したんだから、直接本人に返すのが礼儀ってものよね。いいよ、緋色の電話番号教えてあげる!」



そう言って、桃華さんは何か書くものを探し始めた。綾乃さんが「あ〜あたしペンと一緒に桃華さんに渡し、桃華さんは自分のスマホから電話番号を書き写し始めたので私は慌てて止めに入る。



「いやいや、待ってください!さすがに本人の了承を取ってからじゃないと。勝手に他人に教えるのはいかがなものかとーー」



しかしすでに桃華さんは番号を書き終えて、満面の笑顔で私に向けてメモを差し出してくる。



「大丈夫大丈夫。タマちゃんを放ったらかしにして帰る方が悪いんだから。それにどのみち制服は返してもらわなきゃいけないんだし、そうなると連絡先が必要になるでしょ。となれば、申し訳ないけど、タマちゃんの番号も教えてもらっていい? きっと知らない番号から掛かってきたら、あの子番号でないと思うから、先にメールで教えておくわ」


「え、え〜っと?」



桃華さんから、いささか強引に緋色くんの電話番号が書かれたメモを桃華さんに私していた。



「ああ、そうだ。私達もタマちゃんとアドレス交換していいかな? せっかくこうしてお友達になったんだから、今度私達と一緒にお茶して遊ぼーよ」



と、四人はスマホでアドレス交換をし、桃華さん達は「じゃあ、また連絡するね〜」と、私と握手を交わして解散した。


なんだか腑に落ちないような首を傾げながらも店の外に出ると、とっくに先に帰ったかと思った康介と奏が、どうやら私を待っていたらしい。一緒に帰るとか珍しいと思いながら二人に近づくと、康介は私が持っている緋色くんの制服を見て僅かに眉を顰めた。



「それ、まだ返してなかったのかよ」


「いや、だって一度手を通したら洗濯して返さないとダメでしょ」


「別にそこまですることか? そいつが先に着てたの、ちょっと借りただけだろ。汚したわけでもあるまいし」


「⋯⋯ふ〜ん、でも洗濯したところで、どうやって返すんだよ?」



康介の指摘に、思わずドキッとした。⋯⋯いや、私も今まさに思ったんだよ。失礼を承知でこのまま桃華さんに渡せばよかったんじゃーーとか。しかも緋色くんの電話番号教えてもらったけど、ほぼ初対面なのに電話してもいいの? とか、もしくは暁さんに仲介に入ってもらって渡してもらうーーは、さすがに第三者を使うってないだろとか、それとも学校で直接渡すにしても3年と1年の校舎違うじゃん、とか⋯⋯


でも、たぶん康介は緋色くんのことを不審がっているようだし、それに奏にも怒られるような気がするし、康介はともかく奏のブリザードは怖いしな。



「あーそれは大丈夫。お店を通して返そうかなって、あはは」



と、頭の回転を駆使して、当たり障りのない回答を絞り出した私は、それでも不審な目で見ている康介の視線を知らんぷりして、奏の視線も気にはなったが、ひとまず駅通りのクリーニング店を目指して歩き始めたのだった。





【続】

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