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現実は乙女ゲーよりも奇なり  作者: 春賀 天(はるか てん)
【第2部】
13/70

【5】妄想女の擬似デート?(~移動中)

【5】



『ーーあれ? 珠里(じゅり)ちゃん? 同じ電車だったんだ。偶然だね? ーー何処行くの?』



『な、夏輝(なつき)くん? ええっと、家で暇してたからモールで暇潰しでもしようかな? ~なんて』



『おっ? またまた偶然。俺もおんなじ。家にいると母親があれしろこれしろと(うるさ)くてさ~ だから逃げてきた』



『あはは、ウチは弟がそんな感じ。だから私も逃亡してきたようなものだよ』



『ふうん? ーーそれならさ目的地も同じだし今日は俺と一緒に遊ばない?』



『ええっ!? わ、私と??』



『ーーうん。 俺とじゃ嫌?』



『い、嫌じゃないけど、でも、夏輝くんは人気者だし女の子からもモテるし夏輝くんと遊びたい子はきっと他にも沢山いると思うよ?』



『う~ん。 俺は他の子よりも珠里ちゃんと遊びたいんだけど。でも俺、珠里ちゃんから嫌われてるのかな? そうだったらーーゴメン』



『そんな事全然ないよ!! 逆に誘ってくれて、すっごく嬉しい!! ただ私みたいな冴えない地味な子が夏輝くんと一緒に遊んでもいいのかな?と思ってーー』



『珠里ちゃんはすごく可愛いよ。それに珠里ちゃんと一緒にいるとなんか安心する。だから俺が嫌いじゃなかったら、今日一日、俺とデートしませんか?』



(デ、デ、デート!!? しかも『夏輝』と!!?)



「ーーーさん??」



(ああん♡ どうしよう?『夏輝』とお出かけ初デートだ♡♡ もしかして、もうフラグ立っちゃってる?? でもぉ~今の私の攻略本命は『春人(はると)』くんなのにぃぃ。いや~ん、どうしよう? 珠里、困っちゃう♡♡)



「ーーお姉さん!? 大丈夫ですか?」



「ーーーえ?」



ふいに肩を軽く揺すられハッと我に返ると、そんな私を心配そうに見つめる奏の顔がある。



ーーああ………また、やってしまった。



周囲を見回して自分の今の状況を改めて認識する。自分は今、電車の中にいて奏と一緒に私達の通う学校の近くにあるショッピングモールに出掛けているところである。



「もしかして体調が悪いんですか!?」



そんな私の顔を益々心配そうに覗き込む奏に、私は慌てて片手をブンブンと左右に振って否定する。



「ゴメンゴメン! なんか電車の振動が丁度心地良くってさ。昨晩遅くまで起きていたから、ついボーっとしてただけ。全然大丈夫だよ?」



私の言葉を聞いた奏はホッとしたような表情を浮かべるも、少し困惑気味に笑う。



「大丈夫ならよかった。でも寝不足だったら今日は出掛けるのはやめておきますか? 俺の事なら全く気を遣わないでいいですから。それに、この後バイトが入っているのなら尚更、家で休んでいた方がーー」



どこまでも私の体調を心配して気遣う優しい奏に私の内心では後ろめたさで一杯だ。


私のこの何処ででも妄想出来てしまう特技が発動し、今まさに同行者である奏の存在すら忘れ、『向こうの世界』にトリップし掛けていたーーというより、行っちゃっていた自分に、しかも己ら誘っておいて相手を放置とか、何という失礼極まりない呆れたヤツだ!!


ーーと、ここが公共の場でなかったら自分で自分を殴りたいくらい猛省している。



(あ~あ、昨晩夢の中で今の状況と似たようなシチュエーションの『夏輝』とのデートイベントの夢見てたからかな~? だからまたいつもの妄想癖がつい出ちゃったよ。


だけど昨晩の『夏輝』との“デート”は途中で目が覚めちゃったからなあ………う~ん、勿体無い。今晩、もう一回続きが見れないかな?


ーーって、いかんかん! また妄想しちゃう!全く何処が猛省してるんだよ? 私!! 気を引き締めねば!! しかも“似たような”って私、何言ってんだ? 奏とは勿論、“デート”なんかじゃないし、これはあくまで普通に友達とのお出掛けなんだから。  


だから断じて今回は(昨晩の『夏輝』との事はおいといて)“浮気”なんかじゃないからね? 心配しないでね?『春人』くん♡♡)



「い、いや、ホントに大丈夫だから! それに私の寝不足なんてもう日常茶飯事なんだよ。しかもその原因がゲームだし? だからかえって退し退化ていっている脳には外の刺激も必要っていうの? それに、たまにはこうして外に出ないとさ、いつの間にか気付いた頃には『浦島太郎』って事になっちゃう。


それよか、ごめんね? 奏には色々と気を遣わせちゃったよね。今回は私の自己満足に付きき合わせて申し訳ないけど、なるべく早くに解放するから安心して?」



私は先ほどの自分の失態を誤魔化すように頭を掻きながら、へらへらと笑っていると奏はそんな私に呆れるでもなく、ニコッと王子様スマイルを惜しげもなく向けてくる。


そんな奏は中学校時代から女の子達の間で『学園の王子様』と呼ばれている、まさに乙女ゲーのイケメンばりの、この『現実世界』の学園のアイドルである。


そしてどういうわけか、我が不肖の弟、康介も女子の間で結構人気があり、あの俺様性格から『学園の織田信長と呼ばれていた。


そんな二人の弟達が今年の春、なんと私と同じ高校に入学してきた。それまで高校ライフを静かに送ってきた私にとっては、それは大迷惑この上ない事だった。それというのも中学では既に有名人であったこの弟達のせいで私の中学校ライフは散々だったのだ。


なので高校ではどうしても平和に過ごしたいと、私は同じ中学の卒業生の殆どが進学する市内の高校を選ばず、わざわざ電車で通わなくてはならない市外の遠い高校を選んだ。


当初、母親はお金が掛かるから市内の高校に進学しろと口煩く言ってきたが、そこは父親に泣きつき、私の希望する高校が市内の高校よりもレベルの高い学校であった事もあり、それは意外と簡単に父の鶴の一声で承諾された。


そんな我が家の大黒柱からのOKサインが出た事もあり、母も渋々了承はしたものの、それでも母は私の頭の程度では、どうせ受験しても落ちるだろうと密かに思っていたらしい。


まあ、確かに母がそう思うのも無理はない。私の希望する高校の偏差値は一般の高校に比べて結構高めで、それと比較しても私の合格評価判定は『C』

今の自分のレベルで受験を志す事自体が無謀な挑戦ではあった。


当時の担任からも、そこは受験しても合格するのは難しいから合格圏内にある市内の高校を受験するよう何度も説得されたが、そこはどうしても市内の高校には通いたくない一心から、当時は本当に死に物狂いで猛勉強し、そんな必死な状態にいる私を救いの神様は決してお見捨てにはならなかったーー


私の苦況を紗菜(さな)さんや奏から聞いたのか、整形外科医である頭脳明晰な奏のお父さんが自分の仕事も忙しいのに私の家庭教師を買って出てくれて、仕事が終わった足でわざわざ我が家に出向いて来てくれ、私の勉強を入試の直前までビッシリと見てくれたのだ。   


本当に奏のお父さんには感謝感謝で頭が上がらないばかりか人生の恩人であり、私の神様である。


そして、その涙ぐましい努力というか、もはや執念の集大成の成果が実って合格発表ではり出された自分の受験番号を見つけた時は、私は感激のあまりに人前にも関わらず、(むせ)び泣きながらも、


そんな頭の中では天から舞い降りた金髪クリクリ頭の可愛いらしい天使達が笑顔で飛び交いながら幸福の鐘を何度も鳴らす姿が私の『妄想世界』で繰り広げられていた。


そしてそれからーー私は自分の念願の通りに平和で静かな高校ライフが二年間続いたーーそんなある日の事。その生活は思わぬところで急展開を迎える事になる。


それは私が高校生活残り一年の三年生に進級した春、この二人の弟達はよりにもよって私と同じ高校に進学してきた。しかも私がその事実を知ったのは、彼等の入試が既に終わった後の事だった。


私の認識では彼等は市内の高校を受験すると聞いていただけにまさに“寝耳に水”の話である。


詳しい話を聞こうと康介を問い詰めてもヤツは「黙秘する」と小癪にも『黙秘権』を行使してきたので、仕方なしに当人の次に事情を把握しているであろう両親に話を聞くと、


確かに私が当初から聞いていた通り彼等は市内の高校を受験してはいたが、それはあくまで滑り止めで、本命はなんと私が通っている高校であったらしい。しかも康介本人の希望でもあるというから驚きだ。


そんな両親は市外の高校に通わせるという事は私と康介のダブルで経費が掛かるというのに、(一応、バイトをしているので私の昼食代は自分で出している。)私の時のように弟にも「市内の高校に行け」と反対するどころか、寧ろ私がバイトをしていて帰宅が時々遅くなる事を心配していたらしく、


それなら弟達が同じ高校に通っていれば何かと対処しやすいので、「絶対に姉と同じ高校に行け!」と逆に本人の希望校を聞く前から弟に言っていたらしい。



ーーもう! 私は18歳で子供じゃないのに!! 今更、弟の護衛なんていらんわ!



それでもその事実を事が済むまで皆で私に隠していた事に対して取り敢えず母に文句を付けてみるも、そんな母は「どうせ、あんたはあと一年だけなんだから、別にいいじゃない」ーーと、私を心配していると言うわりには、まるで他人事である。



ーーお母さんっ!! その一年が大変なんだよ!! 中学の時に、それでどれだけ私が苦労したと思ってんの!? 


特に女の男絡みの(ひが)みや嫉妬はね、超~陰湿かつ厄介でおっかないんだって!! 私がトラウマになったのも、それが原因だっつーのに! 


ーーモテるアイドル系の弟達を持つ地味な姉の苦労なんて、所詮、当事者にしか分からんのですよーー



しかし時既に遅し。私がいくら不満や文句を言ったところで既成事実は変えられないので、私は敢えて妥協案としてそんな弟達には校内では、たとえ私と顔を会わせたとしても赤の他人のように無関心を装うよう、しっかりと釘を刺してある。


ーーまあ、どっちにしろ私のいる校舎は弟達とは別校舎なので、殆ど彼等と接触する機会はなく、とにかく私はこの一年をこのまま平穏無事に乗り切るつもりだ。もう中学校時代のダークな思い出は学生生活最後の高校時代にまで残したくはない。



「ーー付き合わせるとかそんな事ないです。俺はお姉さんとこうして二人で出掛けるのは初めてだから逆に嬉しいです。今日は本当に誘ってくれてありがとうございます」



そんな奏の言葉に私は思わず「うぐっ」と息が詰まりそうになる。



ーーだから奏は素直で可愛すぎだって。本当にある意味困った男の子なんだよなあ。しかも本人まるで自覚無しの天然乙女心キラーなんだもん。


今だって相手は私だから安全圏だけど、そんな風に不用意な言葉を使うと他の女の子ならそれこそ乙女ゲーのように忽ち、恋愛フラグが立っちゃうぜ?


それこそ逆に康介ならそんな殊勝(しゅしょう)な事、絶対に言わないし、しかもあれだーー


「女の買い物に付き合わせられるなんて冗談じゃねぇ!!」ーーだし、女の子にキャーキャー言われても「うるせぇ!! 公共の迷惑だから騒ぐな!!」ーーと、言っていたのを聞いた事もある。


まあ、そういったところが『織田信長』と呼ばれる由縁なのだろうが。とにかくアヤツは女の子に対して言葉の容赦というものが全く無い。それなのに何故か奏と同様に昔から女の子達にかなり人気がある。


ヤツをよく知りつくしている私としては、あんな女の子に対しても口の悪い、女心の全く分からん男のどこがいいんだか、ホント不可解で、いまだ理解出来ないーーー



「もう、奏ってば大袈裟過ぎだよ。そんな大層な事じゃないんだからさ。元はと言えば康介の言葉が発端なんだし。お礼なんて言われたら、かえってこっちが恐縮しちゃう。


だけど本当に子供の頃はみんなでよく出掛けていたけど、こうやって大きくなってから奏と一緒に出掛けるのは、そういえば初めてかもね? 


あの通り康介も、もう一緒に行動したがらないしさ。昔のようには、みんなで遊びに行くなんて事も無いんだなあ~とか思うと、ちょっとだけ寂しいかな?


ーーな~んてね? 柄にもなくノスタルジーに浸ってみちゃったよ。う~ん。 歳を取ると昔が懐かしくなるってホントだね?ーーへへへ」



自分の言葉に思い起こせば、本当に昔は私の家族と奏の家族とで、あちこちによく出掛けていたものだが、私達が大きくなって年頃になってからは、そんな成長によっての心境の変化や互いの家の時間が合わない事もあり、今では勿論家族ぐるみでのお付き合いは健在ではあるものの、互いの家族で出掛けるという事も無くなり、  


康介は奏とは親友同士なので昔も今も変わらず互いの家を行き来してはいるが、私と奏の接点といえば今では奏が我が家に遊びに来た時くらいである。


それでもたまに奏の母親である紗菜さんが遊びに来て、そんな私にも「遠慮なんかしないで昔のように気軽に我が家にも是非、遊びに来てね?」ーーと、顔を会わせる度に言われてはいるのだが、


私が奏の家に遊びに行くなどと子供の時ならいざ知らず、この歳になって紗菜さんの言葉通りに気軽にーーなんて行けるはずもなく、まして奏の妹の凛音(りおん)ちゃんからは私はすごく毛嫌いされているので、熱心に誘ってくれている紗菜さんには申し訳ないが尚更行けない。



ーーでも、どうして凛音ちゃんからあんなに嫌われちゃったんだろ? それでも凛音ちゃんが五歳くらいまでは私にも結構懐いてくれていたのに、それが凛音ちゃんが小学生になってから、いつの間にか嫌われちゃってたんだよな~


ーーう~ん。きっと康介からよく言われている私の無神経な態度や言動が凛音ちゃんから嫌われる原因を作っちゃったんだろうけれど。凛音ちゃんを赤ちゃんの頃から知っているだけに、嫌われちゃったのは正直、悲しい。だからこれ以上、凛音ちゃんから嫌われたくないから奏の家には行けないよ。ーー紗菜さん、ごめんね?


 

「…………それなら、今度は俺から誘ってもいいですか?」



「えっ?」



奏の突然の発言に思わずポカンとしてしまう。



ーー誘う?? 私を??



「自分も受験勉強が無くなって今は落ち着いているし、お姉さんの方も就職が決まっていて、それならお互いの時間が出来るかと思って。俺も正直、寂しいと思っていました。だからもしお姉さんの都合さえ良かったら、これからもこうして一緒に出掛けませんか?」



そんな思いもよらない奏の申し出に私の頭の中は?マークで一杯だ。



「え、ええっと、奏? ーーでも、きっと、親達はともかく康介や凛音ちゃんは一緒に出掛けるのは多分嫌がると思う。だから残念だけど、昔のようにはいかないんじゃないかな?」



しかし奏は小さく首を横に振る。



「…………ううん。 違うよ。俺が言いたいのは、今みたいにお姉さんと“二人”で出掛けられたらいいな。ーーって意味で。 


康介や凛音とはいつも一緒にいるからいいけれど、お姉さんとは学年も違うし中学時代もお姉さんと同じ学校に一緒にいられたのはたったの一年間。そして今の高校も同じように、この一年間しか一緒にはいられないーー


子供の時はいつも側にいたのに、大人になるにつれてお姉さんとの繋がりだけが次第に薄れていくのが俺は………すごく寂しいです。


だから康介と同様にこれからもお姉さんとも親しく付き合って行きたい。ーーお姉さんは、こんな年下の俺とじゃ………嫌ですか?」



そう言う奏の表情からは笑顔が消え、一抹の寂しげな表情が浮かぶ。



ーーキュウウゥ~ン。



その表情を見た瞬間、私の心臓が締め付けられるように縮んで言葉にならないくらいに切ないったらない。



ーーうぅっつ、も、萌える~っつ~の。ーーは、鼻血出ちゃう! しかも、そんな言い方されたら、まるで口説かれてるというか、告白でもされてるような気分になっちゃうじゃん。


しかも今現在『春人』くん本命の年下LOVE♡仕様になっている私に、その表情はマジにヤバイって!! 理性飛んじゃう!! 年下イケメンくんの天然甘え上手はある意味たちが悪いというか、年下怖えぇわ、やっぱ!!



「い、嫌じゃないけど、奏は人気者だし女の子達からもモテるし、奏と遊びたい子はきっとにも沢山いると思うよ?    


それに奏は弟、康介の親友だし私の幼馴染みでもあるんだから、たとえ私達みんなが大人になって今の家を離れて各々が自分達の道を歩んで行く事になっても、私達が長年積み重ねていった絆はそんな容易(たやす)く切れるものじゃないし、これからだってずっと変わらないよ? だから大丈夫だよ。安心して?」



(ーーなんだろ? さっき妄想した『夏輝』との会話と嘘みたいに会話が被ってる。相手は『奏』だけどこれって“正夢”? ーーいや、妄想だから“正妄想”?? ………って、そんな言葉無いっつーの!!)



そんな奏は子供の時からナイーブな一面があって、凛音ちゃんが生まれるまでは、ずっと一人っ子でしかも過保護気味に育ってきたので、小さい時なんかは特に精神面が(もろ)くて甘えん坊というか寂しがりやな泣き虫のお子様だった。


だから私は姉貴風を吹かして、そんなか弱い奏を強い男にする為に、まだ幼稚園児の奏と康介を二人の弟の姉として、あの|当時はビシビシと厳しく鍛えてやったものだ。


だからきっと奏は昔から身近にいた自分の姉のような存在の私が大人になって自立し次第に皆から離れて行く事に、そんな小さな頃の寂しがりやな部分が今になって、ひょっこりと顔を出したに違いない。



ーー子供の頃に精神面はかなり鍛えてやったんだけど。それでも奏は今でも結構、繊細でナイーブなところがあるからな~。もし下手な事を言って傷付けちゃったりしたら、それこそ私みたいにトラウマになっちゃう。


だから言葉選びは慎重にいきたいんだけど、こればっかりは相手の取り様だから、結構、難しいんだよな。 しかもそういうのって私、得意じゃないしーー


あ~あ、奏が弟の康介くらい図太い神経だったら良かったんだけど。しかも康介だったら姉が離れて寂しいだなんて、そんな繊細な感受性など、まず間違いなく持ち合わせてなどいない。


ーーけれどよくよく考えたら、もしそんな生意気で口の悪い弟が二人もいたら、かえって私の精神の方がすり減って持たない気がする。それにやっぱり奏は今のままが一番いいんだよ。何と言っても姉思いの優しい方の弟は私のアロマテラピーだもんね~



私はどこか不安げな表情を浮かべて(うつむ)いている奏を安心させようと極めて明るく声を掛けるも何故か彼の表情は更に曇っていく。



ーーええっ!? ーーな、なんで!? 私、もしかしなくとも何か不味い事でも言っちゃったーーとか?



「奏??」



私が恐る恐る奏の顔を覗き込むと、それまで伏し目がちだった奏の視線が私を真っ直ぐに見据える。



「ーー俺はお姉さんと一緒がいい。他の誰かなんてどうだっていいんだよ。だけど俺ーーお姉さんから嫌われているのかな………? だったら………ごめんなさい。悪い所は必ず直すから、だからお願い。………嫌わないで?」



ーーキュウウ、キュ~ゥウウン。



ーーああぁぁ、今、心臓潰れた…………!! ーー死んだな………私。



「奏!! そんな事全然ないよ!? 奏が嫌いだなんて絶対にあり得ないから!! 寧ろ弟の康介と交換したいくらい私は奏が『大好き』だよ? だからそんな顔しないで?    


ーーああ、もう、ホント駄目だな、私。これだから康介から無神経だって言われちゃうんだよ。奏、本当にごめんね? 悪い所を直すのは私の方だから奏は何も悪くないよ?」



私はそんな奏の“嫌い”と言う言葉を慌てて身ぶり手振りで否定していると、今まで伏せていた奏の顔が静かに持ち上がる。



「ーーー珠里さん。もう一度、言って貰えませんか?」



「えっ? ええっと? な、何を??」



突然、不意打ちにも名前で呼ばれたので、思わず表情がそのまま固まり瞬きすら忘れて奏の顔を凝視してしまう。



「ーー康介と交換したいくらい俺が『大好き』だって言ってくれたでしょう? それをもう一度聞きたいです。ーー駄目?」



懇願するような視線で小首を傾げる奏に、私はその言葉にまるで誘導されるようにパクパクと口を開く。



「え、え~えっと? ーーこ、こ、康介と交換したいくらい奏が『大好き』だよ? ーーこ、こんな感じでいいの?」



すると奏の顔が先ほどの表情が嘘みたいに明るくなり、しかも乙女の心臓直撃究極のイケメンスマイルで優しげに微笑むと、そんな彼の口から“必殺!トドメの一撃”とも言える言葉が返ってきた。



「……………ありがとう。俺も『大好き』です。 ーー珠里さん」



ーーキュウゥ~ン、キキュウゥウ、キュウウゥ~ンン。




…………そして私は………キュン死したーーー。



合掌(がっしょう)

 



【5ー続】







































































































































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