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君が恋した時間と僕が生きた日々  作者: 星野 葛葉
9/11

9 夕焼け

 風が夏の香りを連れて二人の間を通り抜ける。

 静かに過ぎていく時と次第に早くなる鼓動。

 恥しくて勇太の顔を真っ直ぐ見れなくて、俯いて答えを待つ。

「もちろん」

「え?それって、もしかして…」

 恐る恐る顔を上げると、あの眩しい笑顔が目の前にあった。

「誘ってくれてありがと、すっごく嬉しい」

「ほんとに私なんかでいいの?」

 あっさりОKされたので、思わず不安になる。

「僕が黒川さんと行きたいんだよ」

 それでも、澄んだ瞳で真っすぐ見つめられてしまえば、もう何も言えなくなってしまう。

 胸が締め付けられるような、そんな不思議な感覚が雪を満たしていった。

「じゃあ、また明日」

「うん、時計台で」

 それから連絡先を交換した後、明日の事を軽く決めてそれぞれの家路についた。


 スマホの画面を点けては消してを繰り返しもう何分経っただろう。

 勇太に教えてもらったLIME【ライメ】にメッセージを送る文面を、考えに考えた結果一文字も打てずに顔を枕に埋める。

「も―、どーしたらいーのー?」

 嘆きに似た悲鳴を上げたと同時にスマホが振動する。

 驚いてスマホを手から危うく落としそうになった。

 急いで確認すると、まさかの勇太からで、

 『黒川さんの浴衣姿、楽しみにしとくね!』

 雪はそれを見て目を見開いた。

 浴衣なんて数年前から着ていない…。

「お母さん浴衣!浴衣どこにあるの?」

 勢いよく階段を駆け下る。

「クローゼットの奥にあると思うんだけど」

 母の声を聴いて、また階段を駆け上がりクローゼットの棚から浴衣を引っ張りだす。 

 雪は安堵のため息を漏らし、自分の部屋に戻ってから浴衣を机の上に畳んで置いた。

 そして、 勢い良くベッドに飛び込む。

 急にどっと疲れを感じ、雪はそのまま目を閉じた。


 目覚ましの音で目を覚ますと、もう7時を過ぎていた。

 いつもより眩しく輝いているように見える太陽の光を浴びながら、ゆっくりと起き上がる。

 机の上に綺麗に整頓されているそれを見て、今日が何の日か思い出す。

 あっという間に明日は来てしまっていた。

 勇太の姿を思い浮かべると言葉に出来ない気持ちが心を満たす。

 待ち合わせは5時30分だけど、日が沈むまで待ってられないぐらい楽しみだった。

 階段を下りてリビングのテーブルで朝食を食べて、適当に髪を結んで、パジャマからジャージに着替える。

「私、今日勇太くんに会うんだ」

 声に出してみると現実味が増して、焦りが感情の裏側から顔をのぞかせる。

 メイクってした方がいいの?浴衣はほんとにあれでいい?帯はどうしよう?何を持って行こうかな?何を話そう?…

 気になる事が多すぎて意味もなく廊下を行き来する。

 『もしデートとかなんかで困った事があったら、いつでも相談してね』

 いつかの唯の言葉を思い出す。

「そうだよ、唯ちゃんがいるじゃん!」

 早速唯に電話をかけることにする。

 それから、いろいろ教えてもらっていたら、すぐに約束の時間の前になってしまった。

「行ってきまーす」

 急いで準備をして家を飛び出す。

 夕焼けが溶けた空の中、約束の時計台まで駆け足で向かう。

 時計台の下、少し伸びた黒い影が揺れているのを見て時計の鐘が鳴るように雪の心も弾んでいく。

「勇太くん!」

 我慢できなくて名前を叫ぶとは勇太はすぐに気づいてくれて、こちら側に近づいて来てくれる。

 勇太の行動一つ一つが嬉しくて、跳ねてしまいたいくらいだった。

「わっ」

 浮かれすぎて足元をよく見ずに歩いていたせいか小石につまずいて転びそうになると、どこからか手が伸びてきて体を支えられる。

 固く瞑っていた瞼をゆっくりと開くと、目の前には勇太がいた。

 一気に体温が上がり顔はリンゴのように赤くなる。

「黒川さんってよく転ぶよね」

 凄く近くにいるのに遠くから聞こえる勇太の笑い混じりの声に苦笑いで答えながら、前にもこんな事があったよなと一人思い出して一層赤くなる雪。

 もう完全に沈みかける寸前の夕陽が背中を押してくれているようで、今度は下を向かずにそっと笑って見せた。


誤字脱字あればご指摘お願いします。

感想などなどお待ちしております。

これからも応援お願いします!

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