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君が恋した時間と僕が生きた日々  作者: 星野 葛葉
3/11

3  可能性

 「あーあ。雨降ってるじゃん」

 昨日に引き続いた降水確率も、今日は外れなかった。

 分厚くて黒い雨雲が空を満たし、昨日の晴天が嘘のように思える。

 「昨日は晴れてたのにな。これじゃ学校に行くまでに濡れちゃうよー」

 「雪!もう7時30分過ぎてるけど大丈夫?」

 その声に時計を見ると、35分だった。

 「嘘、もうこんな時間なの?!お母さんそういうのはもっと早く言ってよ!」

 知らせてくれた母に逆ギレをしてから急いで食パンを口に詰め込み、鞄を手に取って家を出た。

 雨の強さは思っていたよりも強く、折りたたみ傘での登校を後悔した。

 

 「おはよう、雪」

 靴箱で靴を履き替えていると夏が駆け寄って来る。ツインテールが目印となっていたので、すぐにわかった。

 「おはよー」

 今日はやけにニコニコして、朝からいい事があったのかもしれない。

 「何かあったの?」

 聞いてみると、夏は手を合わせて身を乗り出す勢いで言った。

 「あのね!昨日雪がぶつかった相手が教室の前で雪のこと待ってるの!しかも、その人かっこいいの!」

 おそらく一生の恥といえるであろう記憶が雪の脳で蘇る。

 今思い出しても恥ずかしいほどだ。

 「なんで私のことなんか待ってるの?」

 「心配なんじゃないかな、結構音大きかったし」

 笑いをこらえる夏を見てやはり消えたいと思った。

 「さぁさぁ、待ってくれてるんだから早く行かないと!」

 夏に背中を押されて、雪は教室へと歩いて行った。

 

 教室の前で待っている人は確かにかっこよかった。 

 恐る恐る声をかけてみる。 

 「あの、私が黒川です」

 そう言えばこの人の名前を知らない、他人にぶつかったから当たり前だけど間違ってたりしたらまた恥が増えることになる。

 雪は後先考えずに声をかけた事を後悔した。

 「あ、昨日の!黒河さん?」

 「黒川、です!」

 人は間違ってなかったけど、代わりに名前を間違えられてしまった。

 「ごめん、ごめん。黒川さん」

 名前を知らない彼は、あははと笑った。

 なんだか笑顔が眩しくて目をそらしてしまいそうになる。

 「あなたの名前は…」

 「おーい!ゆーた!」

 雪が最後まで言い終える前に彼を呼ぶ誰かの声が廊下に響き、雪の声は見事に消されてしまった。

 「ケガしてなくてよかったよ。友達が呼んでるから、じゃあね黒川さん」 

 手を振って遠ざかってゆく彼に、昨日の事をまだ謝っていないことに気づく。どうしても謝りたくて必死に叫んだ。

 「なにか、なにかお礼させてください!」

 彼は眩しいあの笑顔を散らしながら、

 「貸しってことにしよう、いつか返してー」

 と、言い行ってしまった。

 雪はその場に残されて、貸しを返す時なんて絶対に来ないと思った。

 理由なんて簡単なこと。

 名前も知らない、たまたまぶつかってしまっただけの彼と雪が今後繋がりを持つ可能性なんて、降水確率80%の空が快晴であるのと同じようなものなのだから。

 だからといって雪から距離を縮めようなんて思わない。

 その後はただ淡々といつもと変わらない時間が過ぎていった。

 雪は願った。これ以上の展開が進まないことを。

誤字脱字あればご指摘お願いします。

感想などなどお待ちしております。

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