表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

はじまりの町 2

 スタンと名乗った男は、襲い掛かってくる子鬼の群れを、難なく斬り倒していった。

 魔物の群れに(ひる)むこともなく、次々と魔物を倒していくスタン。

 その姿はリッカに、物語に出てくるような英雄の姿を彷彿(ほうふつ)とさせるのに充分だった。

 半数近くを倒された魔物の群れは、(かな)わないと悟ったのか、散り散りに森の奥へと逃げ去っていく。

 危険が無くなった事を確認したスタンは、剣を納めるとリッカの下へと歩み寄る。

「立てるか?」

「ああ……」

 倒れているリッカへと手を差し伸べるスタン。

 差し出された手を、呆然とした様子で掴もうとしたリッカだったが、途中で我へと返り、その手を止める。

 リッカの目は、スタンのことを(いぶか)しんでいた。

「アンタ、さっき鍛冶屋だって言ったけど本当か? 冒険者じゃないのか?」

 先程の、魔物相手の凄まじい戦いぶり。

 それは到底、一介の鍛冶屋が出来るようなものではなかった。

 それに、リッカの目に映るスタンの格好。

 長旅用の頑丈な外套(マント)を羽織り、その下に剣と革の胸当てを身に着けている。

 スタンの今の格好は、リッカが酒場でよく見かけた、冒険者達の姿とよく似ていた。

「ん? ああ、冒険者として活動する事もあるが、本業は鍛冶屋なんでな」

 質問に対し、素直に答えたスタンだったが、リッカはスタンの言葉を途中から聞いてはいなかった。

 スタンの手をはね()け、リッカは自力で立ち上がる。

「……助けた事を恩に着せる気はないが、随分な態度だな?」

「別に、アタシが助けてくれって頼んだ訳じゃないよ。冒険者のような連中に、助けて貰いたいとも思わないね!」




 リッカの態度に、スタンは軽く肩を(すく)める。

 どうやら目の前の少女は、冒険者を嫌っているようだ。

 だが、そういう人間がいても仕方のない事だとスタンは思っていた。


 この世界には、冒険者と呼ばれる人間が数多くいる。

 未開の地を踏破し、珍しい宝や遺跡を発見し、名声を得る者。

 人々の脅威となる魔物を排除し、英雄と呼ばれる者。

 そのように、人々から褒め称えられる者がいる一方、暴力にものを言わせて横暴に振る舞う者、依頼料と称し、人々から金品を奪う者など、(たち)の悪い人間も冒険者の中にはいる。

 (ゆえ)に、冒険者に対する人々の態度は様々だ。


 だから少女のこの態度も、スタンには理解できるものだった。

「そいつは悪い事をしたな」




 リッカの態度を特に気にした様子もなく、スタンはあっさりとそう述べた。

 その事に、リッカは少し気が引けてしまう。

 自分が嫌っている冒険者だとはいえ、彼が助けてくれなければ、今頃自分がどうなっていたのかなど、リッカにも分かってはいるのだ。

 それなのに、つい感情に任せて差し出された手をはたいてしまった。

 だが、今更謝るのもバツが悪く、リッカは胸中で、もやもやとした思いを抱え込んでしまう。

「すまないんだが……」

 そんな時、スタンの方から声が掛かる。

「……何よ?」

「少し聞きたい事があるんだが、いいか?」

 リッカは不機嫌そうな顔のまま、黙っている。

 だが、拒絶するような態度を見せてはいない。

 どうやら話を聞いてはくれるようだと判断したスタンは、そのまま言葉を続けた。

「この近くに小さな町があるらしいんだが、知らないか?」

 この辺りには、町と呼べるものは一つしかない。

 もちろん、リッカの住んでいる町だ。

「アンタ、あの町に何の用なのよ?」

 リッカの住んでいる町は、はっきり言って田舎だ。

 特産と呼べるような物もなく、周りに広がるのはのどかな風景ばかり。

 余程の事がなければ、訪れる理由もないだろう。

 警戒心を(あら)わにし、リッカはスタンの事を睨み付ける。

 だがスタンは、そんなリッカの視線に動じる様子はなかった。

「なに、旅の途中で仲間とはぐれてな。近くの町を集合場所にしてあったから、そこで合流するつもりなのさ」

 町へと行く目的を、あっさりと話すスタン。

「ふ~ん……」

 スタンのその様子を観察していたリッカだったが、嘘をついているようには見えなかった。

 リッカは少し考えた後、

「付いてきなよ」

 スタンを町へと案内する事にした。

「いいのか? 道を教えてくれるだけでもいいんだぞ?」

 リッカの提案は、スタンには意外だった。

 リッカの今までの態度から、教えてくれない可能性もスタンは考えていたのだ。

 スタンの問いかけに対し、リッカは苦々しい顔で答える。

「本当は冒険者を案内するなんて御免だよ。けど、冒険者に借りを作ったままってのは、もっと嫌なのさ」

「一応、助けた事を借りだと思ってくれてる訳か」

 しまったとばかりに、顔をしかめるリッカ。

 つい余計な事を言ってしまったようだ。

「うるさいわね、付いてくるの? 来ないの? グズグズしていると置いていくよ」

 スタンから顔を背けたリッカは、スタンを残し、森の出口へと向け、歩き始める。

「それじゃあ、よろしく頼む」

 さっさと歩いていくリッカに苦笑いしつつ、スタンもその後へと付いて行くのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ