前世の記憶
ショートホラーの連作、第一回となります。
梅桃さくらの闇の世界に、ようこそ。
「ねぇえ?知ってる?」
彼女の声がゆらりと耳に響く。
午後の日差しはあくまで柔らかく、僕を包む。
「前世での出来事は、現世では逆になるんですって。
前世で自分が嫌いだった人には、現世で嫌われる。
前世で裏切った人には、現世で裏切られる。
ちゃんと帳尻が合うなんて、運命ってなんだか合理的ねぇ。」
彼女の白く細い指が、僕の腕をつっと走る。
紅茶の香りが漂う。
彼女の好きなアールグレイ。
香りも風味も強いこのお茶はアイスティーで飲むことが多い。
でも彼女はいつもポットに一杯、温かくして飲む。
「ごめんなさいね。
貴方がこんなに私のこと、
愛してくれていたなんて
知らなかった。」
ふわりと風がカーテンを揺らし、彼女の長い髪もついでに撫ぜる。
「本当にごめんなさい。
知らなかったのよ、私。
貴方がこんなに愛してくれてたなんて。
殺したいほど、愛してくれていたなんて。
あぁ、私、来世ではアールグレイが飲めなくなりそうだわ。」
何を言ってる?
そう思った刹那、体がぐらりと横に傾いた。
彼女が?それとも僕が?
「ねぇ、あなた。」
赤い口紅がカップにゆっくりと色を残す。
「あなたは紅茶に何を入れて私を殺したの?」
彼女の微笑んだ笑顔が、僕の視界からゆっくり消えて、
後はただの、闇。
こちらは私が高校生の時に作ったものです。
ルーズリーフに書き留めて、友達と交換していました。
大人になった今も、やっていることがそんなに変わっていないのが悩み・・・