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空に憧れたきりん 冬童話

作者: アムロ

「はあ。なんでわいの首はこないに短いんやろか」


 むかしむかしあるところにとても首の短いきりんがいました。


 彼は長治ながはるといって他のきりんたちに比べて首が短いことでいつも落ち込んでいました。


「そんなこと気にしたらあかん。うちは首が短くてもあんたのこと大好きやで」


 彼女の依子よりこはいつもそうやって長治をなぐさめました。


「せやかてわいは長治ながはるいうんやで。こない首が短いのに、長治ってなんやねん」


「そんなこというたらあかん。お父さんもお母さんもあんたのこと思うて長治いうてつけてくれたんや。下向いとったらあかんで」


 依子は首をぐっと下ろして長治を励ましました。


「せやかて殺生やないか。なんでわいだけみんなと違うんや」


「それがあんたのいいところかもしれへんやん。うちはあんたのことが好きなんやからそれでええやないの」


 二人はいつもそんな会話をしていました。


 いつものように長治が木の下の方の草を食べているときでした。


 急に木が光り出したかと思うと、黄金色のきりんが長治の前に現れました。


「うあ。驚いた。あんた誰や?」


「おまえがあんまり木の下の草ばっか食んではるから、気持ちようなって出てきてしもたやないか。わしはきりんの神様や」


「気持ちようなって出て来たってなんやねん。気色悪っ!」


「そないに距離を取りなさんなや。わしは神様なんやで」


「ほんま神様なんか?」


「ほんまや」


「ほいならわいの望み叶えることできるか?」


「もちろんやないか。神様やねんで」


「わい、わいみんなと同じ首の長いきりんになりたいねん。叶えてくれはるか?」


「もちろんやないか。そうか。お前は首が長なりたいねんな。ほんならいまから魔法掛けてやるねんから。目え閉じ」


 長治が目を閉じると首がものすごく熱くなってきました。


「明日の朝起きてびっくりしたらあかんで」


 神様はぱっと消えてしまいました。


「なんや。ほんまか。めっちゃ楽しみやで」


 長治は次の日を楽しみにしていつものように寝てしまいました。




「うわ。あんた長治か?めっちゃ首長あなってるやんか!」


 依子が長治にいいました。


「依子もわかるか?昨日神様に会うて首長あしてもろたんや」


「ほんまやあ。なんやかっこええやないの。あんたみんなと同じ首の長いきりんになったで」


「せやろ。めっちゃ嬉しいねん。神様ありがとう」



 しかし次の日になると首はさらに長くなっていました。


「ちょっと長すぎひん?」


 依子にいわれて長治は眼をパチパチとしました。


「せやろか?」


「せやで。他のみんなより高いで」


「ほんまか。でもわい、こんくらいがええねん」




 しかしまた次の日になると首はさらに長くなっていました。


 それはもう木の高さをはるかに超えていて、依子と話すにも首をぐいっと下に持ってこなければなりませんでした。


「長治ちょっと高すぎやで」


 依子が上を向いて言いました。


「ほんまや。あかん。なんでや」


 長治は神様の木のところに行きました。


「神様神様。失敗や、大失敗や。これじゃ長すぎるで」


 するとまた木が光出し神様が現れました。


「おお。こりゃまたどえらい長なってしまったな。こりゃ失敗や」


「元に戻してくれや!」


「それはできん。わしの魔法は一回かけたらな、解くことができんのや」


「そんな殺生な。ほなわいはこのまま生きていかなあかんのか?」


「そうや。すまんな。勘弁してや」


「勘弁て。勘弁できるかいな。責任とって元に戻してえや!」


 長治は体をぶるぶると震わせて言いました。


「出来ひんもんは出来ひんねん。ほな、な。意外にええことあるかもしれへんで」


 神様はまたぱっと消えてしまいました。


「神様のどあほ!」


 長治は叫びは空に吸い込まれました。




 次の日起きてみると首はさらに長くなっていました。


 もう雲の中に頭が入ってしまうほどの長さでした。


「長治―!長治―!聞こえるかー?」


 下の方で依子の声がしました。


 依子は長治の体に口を付けて振動で声を伝えようとしていました。


「聞こえるけど、最悪やー!」


「うちはあんたがどないなっても好きやでー!」


「気持ちはうれしけどこんなんとはもう別れた方がおまえのためや」


「なにー?なにいうてるかわからへん!」


「なんでもなかー」


 長治はがっくりと首を垂れました。


 どうして自分だけがこのような数奇な運命を辿らなければならないのでしょうか。


「もう、わい、死にたなってきたわ。依子、わい、おまえを残して逝ってしまうかもしれへんで」


「なにー!?」


「死にたいーーー!」


「うちより先に死んだら絶対許さへーーーーん!!」


「もうほんま絶望や」


 長治は呟きました。



 ある日のことでした。


 長治がいつものように雲の先を見つめていると、大きな黒い雷雲が見えました。


 そして反対方向からそこにむかって一機の飛行機が飛んで行こうとしていました。


「あかん。このまま行ったら飲まれてまう」


長治は飛行に向かって

「そっちに行ったらあかん!」

といいました。


すると飛行機の機長が顔を出し

「吸い込まれて行っています」

といいました。


「ほならわいが押してやるさかいに、その隙に脱出しい!」


 長治は頭で飛行機の体を押して、方向を変えてあげました。


「ありがとう!きりんさん!おかげで助かりました」


「礼なんていらん。きりんとして当然のことをしたまでや」


 しかし長治はちょっと嬉しい気持ちになりました。





 しかし日が経つに連れ、長治の首は長くなる一方でした。


 そしてついにその首は宇宙まで届いていました。


「なんでこないなことになってしもたんやろ。わいがなんか悪いことでもしたんやろか」


 長治はもういつも死ぬことばかり考えていました。


 ある日のことでした。


 長治がいつものように月を見ていると、月が地球の方にどんどんと接近してきていました。


「なんやこれ!どないなっとんねん」


 たくさんの宇宙飛行士たちがその月の軌道を変えようと努力しているようでしたが、月は問答無用でどんどん地球に接近してきていました。


「あかん!このままじゃぶつかってまうで」


 長治は月に頭をつけて首の力で精一杯押しました。


 何日間も一生懸命押しているとついに、月の軌道が回復したのか、月は元の衛星軌道に乗りました。


「よかった。ほんまよかったで」


「ありがとうきりんさん!あなたは地球の救世主です」


 宇宙飛行士たちが涙を流しながらいいました。


「なにいうとんねん。きりんとして当然のことをしたまでや」


とはいったものの、ありがとうという言葉は長治の心を芯から温めてくれるものでした。


「依子、聞こえるか?わい、感謝されてんねんで」


 しかし依子の声はもう聞こえませんでした。


 長治はそれがとても残念でした。


「依子、これは独り言やけどな。

わい、おまえがいつも好きいうてくれるんが嬉しかったんやねんで。

わいがどないなってもおまえが好き言うてくれはるのがめっちゃ嬉しかったねんで。

こないなこといまさらいうても、もう遅いやろかな」


 しかしやはり依子の声は聞こえませんでした。




 ある日のことでした。


 長治がいつものように隕石を弾き返したり、星たちを通常の軌道に乗せたりする作業をしているときでした。




 太陽が、近づいているのを感じました。




 太陽がいつもより地球のそばにあるのです。




「なんやこれ、どないなっとんねん!」


 太陽はゆっくりゆっくり地球に近づいてきます。


「長治さん!長治さん!たいへんです」


 宇宙飛行士がいいました。


「どういうことやこれは!?」


「宇宙が収縮を始めたのです!このままでは地球は太陽の重力に引っ張られて、つぶされてしまいます」


「どうしたらええねん!」


「わかりません!NASAも対応ができないでいます」


「どうしたらええねん。そや!もしわいが太陽を止められたら」


 長治が太陽に顔を近づけよう考えました。


 太陽を押して元の軌道に戻すのです。


 その時でした。


「あかん!そんなこと絶対にしてはあきまへんで!」


 きりんの神様が現れました。


「神様、久しぶりやな。でもこうせな、地球はつぶれてしまうねんで!」


「あかん!月の時のようにうまくはいかへんぞ!太陽はめっちゃ熱いねんで。あんさん、死んでまいますわ!」


「神様。わいらなんで生きてるかわかりはりますか?」


 長治が神様に言いました。


「なんて?」


「なんでわいたちは生きてるかわかりはりますか?」


「なんや。急に哲学的やないか」


 神様はにっと笑いました。


 そしていいました。


「わからへん」


「わいね、ようやく気づいたんのですよ。

わいらは必要とされとるから生きとるんです。

誰からも必要とされてへんかったら死んでいるんと同じなんや」


「あんさん死にはるで」


「かまへん。言うたやろ。必要とされへんかったら、死んでいるんと同じやねん!」


 長治はそういうと首を振って太陽に顔を付けました。


 皮膚が焼け、顔中が焼け焦げ始めました。


「なんや、めっちゃ熱いやんけ。ほんまに熱い。痛いなあ。めっちゃ痛い。依子」


 それでも長治はやめません。


 一生懸命太陽を押しました。


「熱い。めっちゃ熱いで。依子、これめっちゃつらいわ。わい死んでまうかもしれへん。もうあかんかもしれへんで」


 ジュウジュウと肉の焦げる音がしました。


「ぐううう。熱い。死ぬほど熱いで。ぐあああああ」


 それでも長治はやめません。


「依子、わい、かっこええきりんになれたかな?

わい、かっこええきりんになれたやろかな?

わい、みんなと同じ、かっこええきりんになれたやろかな?

ぐうう。があああああ」


 長治の頭はぐんぐんと太陽の中に入っていきます。


 太陽が長治の頭をすっぽりと飲みこんだ時。


 「ぐうううあああああああああ!!」


 長治の叫びがこだました時でした。


 太陽はついに動きを止めました。


 長治の首がつっかえ棒となって太陽はついにそれ以上地球に接近できなくなったのです。


 

 しかし、長治はもう絶命していました。




 

 

 ここに一匹のきりんがいます。


 そのきりんはいつも真っ黒な背の高い何かの体に顔を付けています。


 その真っ黒い塊は天高くどこまでもどこまでも首を伸ばして固まっていました。



 彼女はそこでそれに顔をくっつけていつも独り言をいっています。


 いつも彼女がそうしているので、みんなは彼女がおかしくなったのだと思っています。  


 彼女はおかしくなったのでしょうか?



 彼女の独り言を聞いてみましょう。




「長治。長治。

あんためっちゃかっこええで。

あんためっちゃかっこええ。

あんたみんなのためにがんばったもんな。

うち知っとるんやで。

あんたみんなのためにがんばったんや。

あんただれにも負けてへん。

あんた世界で一等かっこええ。

うち、あんたが大好きや。

うちはあんたが大好き。

うちはほんまにあんたが大好きやねん!」





おしまい。




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