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章前 彼女の話
いつものようにうとうとしていたようだった。
店の中に差し込んだ陽の光が目蓋に入り込み、軽い眠りから目を覚ます。
窓の外ではホロドリたちが木の枝に並び、独特で可愛らしい鳴き声を響かせていた。
たしか、あの木が植えられてから、今年でちょうど百年程度のはずだ。小さかったあの子が、随分と大きくなったものだなと思う。今では貫禄すら漂わせて、この建物を守る衛兵のように佇んでいるのだから、時の流れというものは本当に早い。
今日も良い天気だった。
そして今日も無事、お客は来そうにない。
平穏極まる店内に目を戻し、カウンター裏の定位置に腰を下ろしたまま再び目を閉じる。
木の香り。鉄の匂い。
鳥の声。時計の音。
百年前から変わらぬ店内で、彼女はまたいつものようにうとうとと舟を漕ぎ始めた。