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心と口と行いと生命をもて/微笑の情報屋

「のぅ灯、本当にこないな所に人が住んでるっちゅーんか?」

「それが、住んでるんだよなっ!」

 魔王城を西に少し行った所にある深い森。その奥の奥に幽霊か魔物くらいしか住んでいないんじゃないかと思うような不気味な洋館。

「そうお~? お姉さんは素敵だと思うわよ~」

「それもどうかと思うけど」

 とぼけたことを言う瑠璃亜にちらと目線をやった後、灯は心を決めてドアノブを握った。

「いざ、地獄の世界へ!!」


「地獄や!!」

「まああ~、とぉ~っても汚いお家ねえ~」

「お前達……」

 素直すぎる二人に呆れた咲が額に手を当てる。

「ったくアイツ、いい加減片付けくらいしろっての!」

 ざかざかと道を切り開いてく灯の後ろを3人は付いていく。ゴミの海の中を歩いて行く、二度としたくない経験である。

「おいコラ、黒龍ぅー!!」

「黒龍!?」

 歪んでいて開けにくいドアを蹴り破って灯は中に入る。のわっ! という声と共に。この家主の名を聞き驚いている桐島の前で灯が海老反りになった。

「何じゃっ!?」

 灯が変な体制で避けた数本の苦無を桐島は驚きつつも素手で掴んだ。

「まったく、敵かと思ったじゃないですか。紛らわしい事、しないでくれますかぁ?」

「危ねーだろー!? いい加減人の声くらい覚えろよ!!」

「ああもう、うるさい人ですねえー」

 大声で交わされるじゃれあいのような会話。

「あー、灯」

「何だよ!」

 いつまでもこんな事をしていても仕方がないと思った桐島が灯に声をかけた。

「お前、さっき黒龍っちゅーたやんな?」

「え?うん、そうだけど?」

「じゃあ、もしかしてこちらさんが『黒龍』さん?」

 笑顔を引きつらせながら黒龍に手をさした桐島に顔を向けた、灯と話していた少年は。

「ええ。もしかしなくても、こちら様があの黒龍様であらせられますよぉ」

 右髪がほんの少し肩より長い黒髪に真紅の瞳、そして右頬に切り傷が。首を覆い隠す黒いハイネックに赤い袈裟と黒い袴、そして襟の部分赤と黒のチェックで、袖の部分にはヘビを思わせるような紋様が描かれた上着をはおり、首からはじゃらじゃらした大きな首飾りを提げている。なによりも目立つ目深にかぶった黒の帽子から唯一見える口元には笑みを浮かべている。

「自分の名は黒龍。ですが自分の事を人が話す時はこう呼びますよ。『微笑みの情報屋』とね」

 魔王でさえ頭が上がらないという噂がある、正体不明の情報屋。常に微笑んでいるという噂があったため、彼の事を話すときは微笑みの情報屋という愛称を使う。

「と、灯、こんな奴本当に仲間に出来るんか?」

「たしかに情報専門の奴が仲間にいてくれれば心強いが……」

「とぉ~っても、難しそうねぇ~」

 初めて黒龍を、自分達ですら名前だけしか知らない者相手に不安そうな三人。その三人に、大丈夫とにっこり笑い灯は黒龍と話し始める。

「黒龍、お前の事だからすでに知ってるだろ?俺たちの仲間、魔王直属独立部隊の隊員になってくれないか?」

「却下いたします」

 比較的まだゴミの少ない部屋の隅に座っていた黒龍は立ち上がり灯の目の前まで歩み寄る。

「その行いをして自分に何の利益が? 貴方は自分に何を差し出してくれるんですかぁ?」

 ずいっと触れてしまいそうなほど顔を近づけ黒龍に灯は考える。

「そーだなあ―とりあえず今差し出せんのはこの家の掃除。仲間になるなら三食と俺」

「俺いりませんね」

 魔王側近であり、黒龍との会話も慣れているらしい灯はすらすらと話していく。

「後は、聖王軍の情報」

 にやっとした意地の悪い笑みを浮かべた灯は灯は軽く首を傾け、欲しいだろ? と言った。

「聖王軍……人間王直属の軍の、情報」

「どうする?」

 目の前に手を出した灯。

「面白い! のってやろうじゃねーですか!」

 ぱんっという切れのいい音をさせ灯の手を叩いた黒龍。

「よっしゃ、契約完了ぉおー!!」

 高く拳を上げて叫ぶ灯の背中を黒龍が思いっきり蹴った。

「さっさと掃除! それが終わったら洗濯、食器洗い、食事作り。いいですね?」

「っ、こんっのくそガキ……!」

「はいぃ? 何かおっしゃられましたかぁ?」

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