プロローグ/冷たい過去
出会いは緑の頃、始まりは雪の頃。
今でも俺の中には赤く 赤く燃える気持ちがあって、その後ろには 哀しい過去がある。
でも、来るまでの道のりはともかく、今は此処にいてよかったって思う。此処にいれば この気持ちもいつか流れ落ちて天に昇ってくれる気がするから――
「お父さん、遅いねえ」
「そ、そうだな」
地図に名前すら載っていない程小さな村。その中でもひときわ小さい、小屋と言ってしまってもいいような赤い屋根の家。家の中には今、二人の兄妹がひっそりと身を暖めあっていた。
なにしろまだ此処は寒い。もう季節は春で、木々は鮮やかな緑色へとなっているのに。だが、家には自分達の身を暖めてくれるものはいちまいのぼろっちい毛布だけなのだ。
(本当、どうしたんだろ。三日後には帰ってくるって言ってたのに……!)
ぎゅっと寒さに凍えている幼い妹の体を自分の小さな腕の中に入れて精一杯の力で暖める。
「お兄ちゃん……」
少し先っぽがくるくるとは寝ている蜜色の髪、大き目の水色の瞳。ボロボロの服を着ていても、その愛らしさを損なう事は無い。
そしてまた、その兄・シンディアも妹に劣らない容姿を持っていた。母親似の妹と違い、顔だけ母親似らしい。漆黒の髪と藍色の瞳、女の子の格好をすればきっと誰もが美少女だと間違えるだろう・・。
「大丈夫だ、アイシェリア。お兄ちゃんがいるだろ?」
そうにっこりと微笑むと妹はうんっとこっくりと頷いた。
「ね、お兄ちゃん。子守唄、歌って?」
しかしまだ怖くて眠れないのか妹は子守唄をねだってきた。
「しょうがないなぁ。いいよ」
「わーいっ、有り難う!」
ちらりと妹を見てから歌いだす。ゆっくりと歌い始める、子守唄を。
俺は子供だったからその時は何も分かってなかったんだ。この世界が少しずつ 少しずつどんどん崩れていってる事を