第九十一話
「それにしてもユカリは遅いですね、一体何をしているのでしょう?」
今日は、『乙女練武祭』について作戦会議をする予定だったのですが、私、ミノリに続くもう一人のチームメイトであるユカリが姿を現しません。
「そういえば、ミノリ姉様」
「ん?」
「ユカリはどこのクラスに所属しているのですか?」
『乙女練武祭』の参加資格は、現段階でCクラス以上に所属していること。
ユカリが私達と同じAクラスに居ないことから、消去方でBかCのどちらかとなります。
「……私も知らない」
ミノリも首を傾げます。
「そうですか。この間は戦力にならないとか言っていたので、BではなくCクラスでしょうか?」
とは言うものの、私は他のクラスの生徒がどれ位の強さなのか知りませんし、かつ知り合いも居ないので確認する術がありません。
やっぱり本人に聞くのが手っ取り早いでしょうか?そう考えていると、
「だーれだっ?」
私の目を、後ろから誰かの手が塞ぎます。
「え?誰ですか、止めてください。学院の警備員に引き渡しますよ」
「ちょ、ちょっと待つんだ!?」
慌てて手を離して、顔を見せる誰か。
「僕だよ。ノノの恋人のユカリだよ!」
「私には恋人が居ませんので、あなたが誰だか分かりませんが」
「そんな!?」
大袈裟に驚くユカリ。
……ふぅ。今日溜まったストレスをユカリにぶつけたので、少しスッキリしました。、
「それにしても遅かったですね、ユカリ。何かありましたか?」
「いや、実はクラスの担当講師に『乙女練武祭』に出るのを渋られてね。何とか説得して許可を貰っていたんだよ」
ユカリは席に着きます。
「へー。どうしてまた、渋られたのですか?」
ちなみに私とミノリが、ミコ先生に『乙女練武祭』に出場したい旨を伝えると、「やっとミノリもその気になったか。良かった良かった!それにノノにも言う手間が省けたな!……しゃっ、ノルマ達成!」と嬉しそうに、出場の手続きを行ってくれました。
「まぁ、それは後で追々説明するよ。それより、どこまで話したんだい?」
「まだ、何も」
ユカリの質問に、ミノリが答えます。
「それじゃ確認がてら、軽く『乙女練武祭』について復習してみようか」
仕切るユカリ。
新参者の私は『乙女練武祭』には詳しくないし、ミノリは余り喋る方ではないため、こういう時はユカリの存在が助かります。
「『乙女練武祭』は学院の『乙女』が戦い合う舞台。期間は全5日間で、その間にトーナメント方式で試合を行う。参加するチームは最大で32チーム。ただし毎年、全てのチームが揃う訳では無い」
「もしかしてCクラス以上の生徒の数が絶対的に足りていないのですか?」
私は疑問を口にします。
一チーム3名ですので、全部で96名の生徒が必要になります。
「ノノの言う事も間違ってはいない。Cクラスの生徒は5~6学年、A・Bクラスは7~8学年が大半を占める。そう考えると単純計算で、Cクラスが60人でA・Bクラスが20人の計80人。とはいえ他の学年の生徒も居るため、なんとかギリギリ、参加資格を持つ生徒の数は96人には達する」
ユカリは紙に、クラスと人数を記述していきます。
私はそれを見てあることに気付きます。
「どうしてA・Bクラスが20名なのですか?」
確か一学年の平均人数が30名の筈です。
そうすると5~6学年のCクラス60名は妥当な数字ですが、A・Bクラスも60名居なければおかしくなります。
「あー、もしかしてノノは知らないのか」
「……7学年に進級できるのは、Bクラス以上の生徒だけ」
「え、そうだったんですか!?」
そんな制度があったなんて、初めて知りました。
そう言われて思い返してみると、食堂などで紫(7学年)や桃(8学年)のタイをした生徒を目にする機会は少なかった気がします。
「……話は戻るけど、『乙女練武祭』の参加は自由意志だから、私の様に出場しない生徒も結構居る」
「それに3名が揃わないチームも居たりね。それでも毎年必ず、最低でも28チームは揃えるように先生達は頑張っているみたいだけど」
ミノリの説明をユカリが捕捉します。
もしかして参加チームが増えたため、ミコ先生は嬉しそうだったんでしょうか?
「だから足りないチームの所はシード扱いになって、全部で4回~5回試合に勝利すれば、優勝することが出来る。ただし試合の日程は次の様になっている」
ユカリは再び、紙に書き出します。
それによると以下の通り。
一日目:8試合(一回戦)
二日目:8試合(一回戦)
三日目:8試合(二回戦)
四日目:4試合(三回戦)
五日目:4試合(準決勝戦、決勝戦、三位決定戦)
「……基本的に一日一試合だけど、最終日だけ二試合をするから結構きつい」
「ミノリ姉様の言う通りですね。それに二日目の方に試合が振られていた場合、四日連続で試合ですので少し不利かもしれません」
「まぁ、それは仕方無いさ。それより、ここまでで何か質問はあるかい?」
ユカリの確認に、私は首を振ります。
「よし、それじゃ次は試合のルールについて確認しようか。試合は三対三のチーム戦で、闘技場に引かれた直径50メートルの円形の試合場で、10分間を闘う事になる」
ふむふむ。
「試合時間の内、最初の3分間は契約時間で、『タリアの娘』と契約した者から試合場に入ることが出来る。3分を過ぎても契約できなかった者は、その試合には出られない」
つまり下手をすると一対三、いえ最悪は誰も契約出来なくて不戦敗も有り得るということです。
「そして試合場から二回出た場合も戦闘不能とみなして失格とされる」
「なるほど。ということは勝利条件は、相手チーム全員を戦闘不能にすることですか?」
「基本的にはノノの言う通り、先に相手チーム全員を戦闘不能にしたチームの勝利となる。ここでいう戦闘不能は二回目の場外にでた選手、『娘』との契約が切れた者が含まれる」
『娘』との契約が切れたらいけないということは、私がよく使う仮契約のスイッチ――再契約し直すという行為は、使うことが出来ませんね。
「それからもう一つ。試合に出場する生徒には必ず、本契約をした『乙女』が障壁の術を張っていて、それが破られた場合も戦闘不能とみなされる」
「……この障壁のお陰で、手加減をしないで攻撃することが出来る。そして試合で滅多に大怪我をすることも無い」
ミノリの言葉に頷きます。
確かに仮契約とはいえ『乙女』同士が本気で闘ったのであれば、怪我をしてもおかしくはないです。
「そして試合時間10分を過ぎても決着が付かなかった場合、判定者――学院長、他数名の判定により勝者が決定する。判定基準には残った『乙女』の数や、どの位先に仮契約を結んだかといった事が考慮される」
学院長はナナやセンリと同じ『六聖女』の一人。
その判断であれば信頼に値するでしょう。
「まぁ、こんな所かな。ミノリさんはどうですか?」
ユカリがミノリの方を向いて聞きます。
「一つだけ捕捉。決勝戦は時間無制限」
「あぁ、そうそうそう忘れていました。ノノの方はどうだい?」
ユカリ今度は私に聞きます。
「そうですね、大体のルールは把握できました。やはり『娘』との契約が成功するか否かが、勝負の鍵になりますね」
どうしても数の利というものはあります。そしてそれをひっくり返すには、相当の実力差なり作戦が必要となるでしょう。
「さて、ここで僕が今日遅れた話に戻るんだけど、実は僕の契約率は限りなく低い」
「そうなのですか?」
「具体的には、6回試して1回契約出来る位かな。そのせいで担当講師に本当に出るのかどうか、しつこく確認されていたんだ」
困ったもんだと首を振るユカリ。
(6分の1……ん?)
確か、最後まで勝ち進んでも試合回数が5回ですから……!?
「それって『乙女練武祭』で試合に出られるかすら怪しいではないですか!?」
「だから言った筈だよ。どうなっても知らないよって」
「うっ!?」
確かにユカリを強引に誘ったのは私の方でした。
それに居てくれるだけでいいと言ったのも私です。
「ノノやミノリさんには悪いけど、僕は戦力として数えない方が良い。それとも今からメンバーの変更をするかい?もしかしたらまだ空いている娘が居るかも知れないよ」
「いえ、元々私が無理を言ってユカリに頼んだ事ですからこのままで行きます。それにユカリが試合に出れないと決まった訳でもありませんし」
厳しい戦いになりそうですが、それでも個人的には私、ミノリ、ユカリの三人でチームを組みたいです。
「ちなみにミノリ姉様の契約率はどうなのですか?」
「……私は少し時間が掛かるけど、9割方成功する」
「となると試合では、私とミノリ姉様を中心に作成を考える必要がありますね」
私は腕を組みます。
「その口振りだと、ノノの契約率も高いみたいだね」
「はい。私は仮契約に失敗した事がありませんので」
私はユカリに答えます。
「え?」
「……ん?」
「あれ、どうしました二人共?」
軽く驚いた様子のユカリとミノリ。
「いや、確かにノノもAクラスだしね。なるほどだからか」
「……うん。むしろそれが自然かもしれない」
二人で何か話していますが、私はその内容についていけません。何でしょうか?
そんな私の頭に、ミノリの手が乗っかります。
「……まぁ大丈夫。私が頑張るから」
「ミノリ姉様」
さすが優勝経験者の言葉は頼りになります。
「僕も試合に出られない分は、情報収集の方で役に立つとするよ」
「ユカリ」
ユカリの戦力を当てにできないのは辛いですが、ユカリは学院内の情報通です。その情報の精度は信頼に値します。
(二人共、頼もしい仲間です)
私はミノリとユカリを見て思いました。
この作品のジャンル……ファンタジー!?




