第八十七話
「……そういえばノノに確認することがある」
「何でしょうか?」
私は飲んでいたお茶のカップを置いて、ミノリに聞き返します。
「どうして昨日、ハルカと一緒に居たの?」
「そのことですか、えーとですね――」
私は、困っている所をハルカに助けられたと説明します。
流石にミノリを慕う上級生に絡まれたとは言えませんでした。
しかし、
「ハルカがノノに何かしていないのは分かった。どうして困っていたの?……もしかしてハルカの言っていた、ノノが私のせいで迷惑しているってのに関係ある?」
ミノリが突っ込んできます。
何だか「姉様」呼びが確定したせいか、ミノリの姉力といいますか、お節介力が上がっているみたいです。
「えーと、それはですね……」
「――それなら僕が説明しよう」
口篭る私の代わりに、ユカリが口を開きます。
「ユカリ!」
「いいじゃないかノノ。どうせ、いずれはバレる事なんだから」
ユカリの言うことも尤もです。
確かにミノリが他の生徒に確認すれば、すぐばれる事ですので。
「……それなら私から説明します」
私は観念して、ミノリにユカリから聞いた話をします。
最初は意気込んでたミノリも、話を聞くにつれ段々と顔色が悪くなり、聞き終わる頃にはふらふらと身体が揺れていました。
そして、
「ノノ、ごめん」
深く頭を下げて謝罪するミノリ。
「私のせいでノノに迷惑を掛けて……ちょっと行って来る」
「ちょっと待って下さい!」
部屋を出て行こうとするミノリを引き止めます。
ミノリの事ですから、一人一人生徒を捕まえて、片端から事情を説明するつもりでしょう。
こうなると思ったので、ミノリには教えたくはなかったのですのに。
「ミノリ姉様のせいではありません。それに行ってどうするつもりなのですか?」
「皆に説明する」
やっぱり。私の考えていた通りみたいです。
今ミノリが今回の件について弁解しても、余計に状況が悪化する可能性があります。
私が、それでも行こうとするミノリを止めるようとすると、ユカリから援護が入ります。
「まぁ待ちたまえ。今、ミノリさんが行っても逆効果になるだけだ。それに今回の件についてはノノに考えがあるそうだよ」
「そうです。ですので、ミノリ姉様は今は大人しくしていて下さい」
私はユカリに話を合わせます。
本当はまだ何も考え付いてはいませんが、嘘も方便です。
「それでもミノリさんが行くというのなら、僕は止めないよ。しかしそうなると、この部屋はノノと僕の二人っきりになるから、思う存分に二人の仲を発展させることができるね……ふふふ」
妖艶に微笑むユカリ。
私は祈るように、ミノリに視線で助けを求めます。
「……分かった。その代わりに、もし私に出来る事があったら何でも言って」
「はい」
渋々とですけどベッドに座るミノリ。
どうやら堪えてくれたみたいです。
そして残念そうなユカリ。……本当に良かったです。
「そ、それよりミノリ姉様とハルカ先輩こそ、どういう関係なのですか?」
私は話題を逸らします。
しかしこの話題も今回の件に絡んでいるため、重要なことです。
「……私とハルカは――」
ゆっくりと口を開くミノリ。
そしてミノリの過去を私は聞きます。
……。
「――そうですか。お二人は、昔からの幼馴染だったのですね」
どうしてハルカが、ミノリと対立している理由が分かりました。
きっとハルカは……いえ、これはまだ確証が無いので何ともいえません。
それにしてもミノリは昔から、妹が欲しかったのですね。
「ちなみに先程から、ちょくちょく話しに出てきた『乙女練武祭』とはいうのは何なのですか?」
私は二人に尋ねます。
「『乙女練武祭』は年一回開かれる、学院の生徒が実力を披露しあう大会だね。生徒は三人で一チームを作り、チーム同士で戦い合うトーナメント方式の勝ち抜き戦。出場できるのはCクラス以上の生徒で、実力のある生徒はほとんどが出場している」
「では、それに二度も優勝したことのあるミノリは……」
「間違いなく、生徒の中では最強クラスだね」
「おぉ、凄いです!」
ユカリの説明に感心する私。
ミノリが他の生徒から人気があるのは知っていましたが、『乙女』としても優秀であることを認識します。
しかしそんなミノリでさえ『タリアの娘』とは本契約を結べていないというのですから、五年後の私が無事に本契約を結べるのか不安になります。
私が考えていると、ユカリが「ちなみに」と付け足します。
「ミノリさんは昔から人気があったけど、それに拍車を掛けたのは『乙女練武祭』で優勝してからだったね」
「へー」
つまり『乙女練武祭』の優勝で、名実ともに知れ渡ったのですね。
私はミノリを見ます。
「……私なんて強くない。チームの仲間が凄かったから、優勝できた」
謙遜するミノリ。
若干恥ずかしそうなのは、照れているからでしょうか。
なんにせよミノリは優勝チームに居たのです。先程の謙遜が言葉通りではないと思います。
「ちなみにユカリは出場した事はないのですか?」
「僕はあまり戦闘が得意ではないからね」
そう言って手を振るユカリ。
あれ?少しだけ意外です。
ユカリは目立つ生徒ですから、『乙女』の戦闘も得意なのかと思っていましたが、そうではないみたいです。
それにしても『乙女練武祭』ですか。
これはひょっとしたら、現状を打開するきっかけになるかもしれません。
「『乙女練武祭』はいつ行われるのですか?」
「来月の頭だね」
とすると今週ももう終わりですから……後、十日ほどですか。
(良しっ!)
「決めました。私は『乙女練武祭』に出場して、他の生徒にミノリとの仲を認めて貰います!」
今の私の実力がどこまで通用するかは分かりませんが、それでも少なくても上位に食い込んで、誰にも文句を言われない様に示しましょう。
「出るってメンバーはどうするんだい?」
「うっ……それはこれから集めます」
ユカリの指摘に強がる私。
しかし私と一緒に出場してくれる生徒が居るのでしょうか。
ただでさえ転入したてで碌に知り合いも居ませんし、その上、私は他の生徒に敬遠されています。
しかしそんな私に声が掛かります。
「ノノが出るなら、私も出る」
立ち上がるミノリ。
「いいのですか?」
「元々、私が原因だから。それにノノの力になりたい」
力強く頷くミノリ。
優勝経験のあるミノリが居てくれれば百人力です。
これでメンバーは二人。残る一人はどうしましょうか……ちらちら。
私はユカリに視線を移します。
「僕は遠慮しておくよ。戦力にならないし。傍から見ている分にはいいけど」
「居てくれるだけでいいのですが」
「それでも出る気は無いよ」
頑なに拒むユカリ。
ここまで拒否するからには何らかの理由があるのでしょう。残念ですが仕方ありません。
「……パンツ」
私はボソッとユカリに聞こえる様に呟きます。
「何だって?」
「私は盗られた下着の事を許すつもりはありません。あーあ、こんな蟠りがある以上、どうしてもユカリとは友達以上にはなれないと思います」
「くっ卑怯な。そんな脅しに屈する僕では……分かった返そう」
そして制服のポケットから白い下着を取り出すユカリ。
(――って、持ち歩いていたのですか!?)
さすがにユカリの行動に引きますが、交渉では引きません。
「いえ、たとえ下着を返して頂いても私の心は晴れません。むしろその記憶を上書きするほどの何か――具体的には、私と『乙女練武祭』して頂けると助かるのですが……」
というか返して貰っても、それを再び使用する気にはなれません。
私はユカリを見ます。
ユカリはしばらく葛藤しているようでしたが、やがて大きく溜息を付きます。
「仕方ない。乗りかかった船だ……と言いたい所だが、どうなっても知らないよ」
「では……?」
「ノノと同じチームで参加する」
「ありがとうございます!」
これで一チームが揃いました。
「ミノリ姉様、ユカリ」
「……うん」
「あぁ」
私が声を掛けると、二人からも返事が来ます。
「頑張りましょう!」
こうして私、ミノリ、ユカリの三人で、『乙女練武祭』に参加する事が決定しました。
なんか途中gdgdでしたが、4章終了です。
何も解決していない?……じ、次章で何とかなるハズです。(震え声)




