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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
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第八十七話

「……そういえばノノに確認することがある」

「何でしょうか?」


 私は飲んでいたお茶のカップを置いて、ミノリに聞き返します。


「どうして昨日、ハルカと一緒に居たの?」

「そのことですか、えーとですね――」


 私は、困っている所をハルカに助けられたと説明します。

 流石にミノリを慕う上級生に絡まれたとは言えませんでした。

 しかし、


「ハルカがノノに何かしていないのは分かった。どうして困っていたの?……もしかしてハルカの言っていた、ノノが私のせいで迷惑しているってのに関係ある?」


 ミノリが突っ込んできます。

 何だか「姉様」呼びが確定したせいか、ミノリの姉力といいますか、お節介力が上がっているみたいです。


「えーと、それはですね……」

「――それなら僕が説明しよう」


 口篭る私の代わりに、ユカリが口を開きます。


「ユカリ!」

「いいじゃないかノノ。どうせ、いずれはバレる事なんだから」


 ユカリの言うことも尤もです。

 確かにミノリが他の生徒に確認すれば、すぐばれる事ですので。


「……それなら私から説明します」


 私は観念して、ミノリにユカリから聞いた話をします。

 最初は意気込んでたミノリも、話を聞くにつれ段々と顔色が悪くなり、聞き終わる頃にはふらふらと身体が揺れていました。

 そして、


「ノノ、ごめん」


 深く頭を下げて謝罪するミノリ。


「私のせいでノノに迷惑を掛けて……ちょっと行って来る」

「ちょっと待って下さい!」


 部屋を出て行こうとするミノリを引き止めます。

 ミノリの事ですから、一人一人生徒を捕まえて、片端から事情を説明するつもりでしょう。

 こうなると思ったので、ミノリには教えたくはなかったのですのに。


「ミノリ姉様のせいではありません。それに行ってどうするつもりなのですか?」

「皆に説明する」


 やっぱり。私の考えていた通りみたいです。

 今ミノリが今回の件について弁解しても、余計に状況が悪化する可能性があります。

 私が、それでも行こうとするミノリを止めるようとすると、ユカリから援護が入ります。


「まぁ待ちたまえ。今、ミノリさんが行っても逆効果になるだけだ。それに今回の件についてはノノに考えがあるそうだよ」

「そうです。ですので、ミノリ姉様は今は大人しくしていて下さい」


 私はユカリに話を合わせます。

 本当はまだ何も考え付いてはいませんが、嘘も方便です。


「それでもミノリさんが行くというのなら、僕は止めないよ。しかしそうなると、この部屋はノノと僕の二人っきりになるから、思う存分に二人の仲を発展させることができるね……ふふふ」


 妖艶に微笑むユカリ。

 私は祈るように、ミノリに視線で助けを求めます。


「……分かった。その代わりに、もし私に出来る事があったら何でも言って」

「はい」


 渋々とですけどベッドに座るミノリ。

 どうやら堪えてくれたみたいです。

 そして残念そうなユカリ。……本当に良かったです。


「そ、それよりミノリ姉様とハルカ先輩こそ、どういう関係なのですか?」


 私は話題を逸らします。

 しかしこの話題も今回の件に絡んでいるため、重要なことです。


「……私とハルカは――」


 ゆっくりと口を開くミノリ。

 そしてミノリの過去を私は聞きます。


 ……。


「――そうですか。お二人は、昔からの幼馴染だったのですね」


 どうしてハルカが、ミノリと対立している理由が分かりました。

 きっとハルカは……いえ、これはまだ確証が無いので何ともいえません。

 それにしてもミノリは昔から、妹が欲しかったのですね。


「ちなみに先程から、ちょくちょく話しに出てきた『乙女練武祭』とはいうのは何なのですか?」


 私は二人に尋ねます。


「『乙女練武祭』は年一回開かれる、学院の生徒が実力を披露しあう大会だね。生徒は三人で一チームを作り、チーム同士で戦い合うトーナメント方式の勝ち抜き戦。出場できるのはCクラス以上の生徒で、実力のある生徒はほとんどが出場している」

「では、それに二度も優勝したことのあるミノリは……」

「間違いなく、生徒の中では最強クラスだね」

「おぉ、凄いです!」


 ユカリの説明に感心する私。

 ミノリが他の生徒から人気があるのは知っていましたが、『乙女』としても優秀であることを認識します。

 しかしそんなミノリでさえ『タリアの娘』とは本契約を結べていないというのですから、五年後の私が無事に本契約を結べるのか不安になります。

 私が考えていると、ユカリが「ちなみに」と付け足します。


「ミノリさんは昔から人気があったけど、それに拍車を掛けたのは『乙女練武祭』で優勝してからだったね」

「へー」


 つまり『乙女練武祭』の優勝で、名実ともに知れ渡ったのですね。

 私はミノリを見ます。


「……私なんて強くない。チームの仲間が凄かったから、優勝できた」


 謙遜するミノリ。

 若干恥ずかしそうなのは、照れているからでしょうか。

 なんにせよミノリは優勝チームに居たのです。先程の謙遜が言葉通りではないと思います。


「ちなみにユカリは出場した事はないのですか?」

「僕はあまり戦闘が得意ではないからね」


 そう言って手を振るユカリ。

 あれ?少しだけ意外です。

 ユカリは目立つ生徒ですから、『乙女』の戦闘も得意なのかと思っていましたが、そうではないみたいです。


 それにしても『乙女練武祭』ですか。

 これはひょっとしたら、現状を打開するきっかけになるかもしれません。


「『乙女練武祭』はいつ行われるのですか?」

「来月の頭だね」


 とすると今週ももう終わりですから……後、十日ほどですか。


(良しっ!)


「決めました。私は『乙女練武祭』に出場して、他の生徒にミノリとの仲を認めて貰います!」


 今の私の実力がどこまで通用するかは分かりませんが、それでも少なくても上位に食い込んで、誰にも文句を言われない様に示しましょう。


「出るってメンバーはどうするんだい?」

「うっ……それはこれから集めます」


 ユカリの指摘に強がる私。

 しかし私と一緒に出場してくれる生徒が居るのでしょうか。

 ただでさえ転入したてで碌に知り合いも居ませんし、その上、私は他の生徒に敬遠されています。

 しかしそんな私に声が掛かります。


「ノノが出るなら、私も出る」


 立ち上がるミノリ。


「いいのですか?」

「元々、私が原因だから。それにノノの力になりたい」


 力強く頷くミノリ。

 優勝経験のあるミノリが居てくれれば百人力です。

 これでメンバーは二人。残る一人はどうしましょうか……ちらちら。

 私はユカリに視線を移します。


「僕は遠慮しておくよ。戦力にならないし。傍から見ている分にはいいけど」

「居てくれるだけでいいのですが」

「それでも出る気は無いよ」


 頑なに拒むユカリ。

 ここまで拒否するからには何らかの理由があるのでしょう。残念ですが仕方ありません。


「……パンツ」


 私はボソッとユカリに聞こえる様に呟きます。


「何だって?」

「私は盗られた下着の事を許すつもりはありません。あーあ、こんな蟠りがある以上、どうしてもユカリとは友達以上にはなれないと思います」

「くっ卑怯な。そんな脅しに屈する僕では……分かった返そう」


 そして制服のポケットから白い下着を取り出すユカリ。


(――って、持ち歩いていたのですか!?)


 さすがにユカリの行動に引きますが、交渉では引きません。


「いえ、たとえ下着を返して頂いても私の心は晴れません。むしろその記憶を上書きするほどの何か――具体的には、私と『乙女練武祭』して頂けると助かるのですが……」


 というか返して貰っても、それを再び使用する気にはなれません。

 私はユカリを見ます。

 ユカリはしばらく葛藤しているようでしたが、やがて大きく溜息を付きます。


「仕方ない。乗りかかった船だ……と言いたい所だが、どうなっても知らないよ」

「では……?」

「ノノと同じチームで参加する」

「ありがとうございます!」


 これで一チームが揃いました。


「ミノリ姉様、ユカリ」

「……うん」

「あぁ」


 私が声を掛けると、二人からも返事が来ます。


「頑張りましょう!」


 こうして私、ミノリ、ユカリの三人で、『乙女練武祭』に参加する事が決定しました。



なんか途中gdgdでしたが、4章終了です。

何も解決していない?……じ、次章で何とかなるハズです。(震え声)

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