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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
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第八十六話

 今、寮の部屋には私とミノリの二人っきりです。

 それぞれが自分のベッドに腰掛けています。

 先程まではユカリも居たのですが、今は一階にある小さな調理部屋に行きました。

 私とすれ違う際に「ゆっくりとお茶を入れてくるよ」と言っていたため、暫くの間は戻ってこないでしょう。……そのまま帰れば良いのに。

 ともあれユカリの居ない間にミノリと話しをしたいのですが、さて何から話せば良いでしょうか。

 私が考えていると、ミノリの方から声を掛けてきました。


「ノノは身体の具合は大丈夫?」

「あ、はい。もう平気です」

「……良かった」


 胸を撫で下ろすミノリ。

 まぁ元々仮病ですから、平気も何もないのですが。

 もしかしたら、ミノリは私を心配して様子を観に来てくれたのではないでしょうか。


「ミノリ……先輩こそ、午後の訓練はどうしたのですか?」


 私が「先輩」と呼んだ所で、ミノリの肩がビクンと跳ねます。


「……今は『乙女練武祭』前だから、自由にして良い」


 そしてどこか悲しそうなミノリ。

 表情自体はいつもと余り変わっていないのですが、何といいますか空気が悲愴です。

 それにしても『乙女練武祭』とは何でしょう?何かのお祭りみたいですが、今は他に優先することがあるため後で確認しましょう。

 とりあえずは、


「あの、ミノリ先輩の呼び方について何ですけど――」


 そして私は、知り合いの『乙女』(コノカ)から、上級生の事を「お姉様」と呼ぶと聞いたこと。

 そのせいで勘違いをしていて、それに気付いたのが昨日の昼で、だから「先輩」と呼ぶようにした旨を説明しました。


「――ですので、ごめんなさい」


 私が謝ると、ミノリはがっくりと肩を落とします。


「……そう、ただの勘違い。……やっぱり私には『お姉様』と呼ばれる資格は無いんだ」


 そしてシーツの上に指で「の」の字をなぞりながら、後ろ向きな言葉を呟くミノリ。

 傍から見ても、凄く落ち込んでいるのが分かります。


「あのー?」

「……きっとノノも私に愛想を付かせて、この部屋から出て行ってしまう……」

「聞いて下さい、ミノリ姉様!」

「――っ!?」


 「姉様」という言葉に反応し、驚いてこちらを見るミノリ。

 まるで何か信じられないものを見た様に、口がパクパクしています。


「私はどこにも引っ越すつもりはありません」

「……でも」

「でももヘチマもありません!」

「……ヘチマ?」


 何それ?と首を傾げるミノリ。

 ヘチマ自体は存在するのですが、この言い回しはこの世界では通じないみたいです。

 私は咳払いをして言い直します、


「コホン。とにかく、私はどこにも行きません。それに昨日、ミノリは言ったじゃないですか。『お姉さん』だからって、私と一緒に居たいって。あれは嘘だったのですか?」

「それは嘘じゃない!」

「良かった。あの時、私は嬉しかったんです。私だってミノリと一緒に居たいと思っています。ミノリは、私が学院に来て初めて仲良くなった人ですから。だから私はミノリが許してくれるのなら、今まで通り『ミノリ姉様』って呼んで、これからもずっと仲良くしていたいのです!」


 うじうじするミノリが気に入らなかったので、私は思うことを言いました。

 そして言った後に気付く私。


(あっ!?そういえばミノリの事を何回も呼び捨てにしてしまいました……)


 ミノリの様子を窺うと、ミノリは下を向いて肩を震わせています。

 あれ?どうしたのでしょうか?

 するとミノリは無言で立ち上がり、私の傍まで来ます。

 そして――


「ノノッ!」


 ミノリが私を抱き締めます。


「……ありがとう。私もノノと一緒に居たい。そして前みたいに『姉様』って呼んで欲しい」


 ミノリの声が、私の頭上からします。

 私もミノリの背に腕を回して、抱き返します。


「はい。これからよろしくお願いします、ミノリ姉様」

「……うん。よろしく」


 そして私の髪に、一滴、二滴と雫が垂れます。

 私はミノリを安心させるために、その背中を優しくポンポンと軽く叩きます。


(何だかこうしていると――)


「……ぐすっ、ノノの方がお姉さんみたい」


 同じことを思ったのか、ミノリが続きを口にします。

 それを聞いて思います。

 ミノリ頼りになる姉というよりは、放っておけない姉という感じがします。

 優しくて素直で、それでいて誰かが見ていないと一人で抱え込んで暴走してしまいそうです。

 私が「姉様」と呼ぶもう一人の人間とは大違いです。あっちは放って置いたら寝ているので、それはそれで心配ですが。

 案外『白』派の子達も、ミノリのそういう所が好きで見守っているのではないでしょうか。


「そうかもしれませんね」

「……むぅ」


 ミノリが抱くのを緩めて、互いの顔が見えるようになります。

 そして脹れるミノリ。もう涙は止まったみたいです。

 そんな様子が少し可笑しくて、私はえへへと笑います。

 ミノリも私を見て、若干不満気だった表情が微笑に変わっています。


 ガチャ。


 そこにお茶を持って戻ってくるユカリ。


「ややっ、二人で抱き合ってナニを始めるつもりだい?僕も混ぜるんだ!」


 開口一番に、この様です。

 ……早く自分の部屋に帰ればいいのに、そう心の底から思いました。


「……ところでどうしてユカリが居る?」


 私から離れたミノリが、ふと気付いたのか聞いてきます。


「えーとユカリは……」

「何を隠そう僕とノノは近い将来、恋人になる関係なんだよ」


 ユカリは私の右手を取り、自信満々に答えます。

 お茶の乗ったお盆は、いつの間にか机の上に置かれてました。


「……ノノ?」

「違います、違います。ただの友達です!」


 ユカリの訝しそうな顔に、私は慌てて否定します。


「……友達は選んだほうがいい」


 それでも怪訝そうな目つきのミノリ。

 やっぱりミノリから見ても、ユカリは変た……独特な娘のようです。


「おっと、ミノリさんも久しぶりなのに言いますね。それでも友達以上、恋人未満の僕達の仲を、ただのルームメイトに口出しされたくはないですね」


 煽るユカリ。

 そのまま私を引き寄せようとしますが、


「私はノノの『お姉さん』だから、口出しする権利はある」


 反対の手をミノリが掴み、阻止します。


「――なっ!?僕が居ない間にそんな仲に!なんてうらやましい!」


 動揺するユカリ。

 それを見て、少し得意気になるミノリ。


「それでも、僕の方がノノとの付き合いは長いですよ。ノノが学院にやってくる前からの知り合いだからね」

「――っ、ノノ?」

「まぁ、嘘ではないですけど……」


 しかしそれでも精々、半日位といったところでしょうが。


「……私の方がノノと一緒にいる時間が多い」

「――くっ、僕はノノと同じ宿の部屋に入ったことがある!」

「……私は毎日、ノノと同じ部屋で寝ている」


 そして張り合い始めるミノリとユカリ。

 どちらかとゆうと、ミノリの方が優勢みたいです。

 それから若干、私が置いてけぼりになっているのは気のせいではないでしょう。


「なかなかやるね。これならどうかな?僕はノノの下着を持っている!」

「――ぶっ!?」


 ユカリの爆弾発言に噴出す私。

 やっぱりユカリは、あの時の下着をまだ持っているのですか!?

 しかしミノリは動じず、むしろその顔には余裕を持ったまま静かに告げます。


「……私はノノの身体を洗ったことがある」

「しまった!そうだったんだ!!」


 膝を着いて、崩れ落ちるユカリ。そして勝ち誇るミノリ。

 勝負は決したみたいですが、もう何が何やら。

 早く話しの続きを進めたいと思いました。



ミノリとユカリの名前が紛らわしいです。

誰がこんな名前を付けたんだ!……私だったorz

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