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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
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第八十三話

「早速ですが、今回の件についてユカリが知っていることを教えてくれませんか?」

「ふふ、せっかちだな」

「お願いします」


 私はユカリに頼みます。


「まず今回の件について、ノノの周りで起った事、気付いた事を教えてくれないか?」

「えーと、私が来た初日は特に何もなくて、変だと思ったのは二日目の朝からです。食堂で朝食を取っていると、遠巻きにされ視線を感じました。それ以降も食堂で食事をする度に、見られていたと思います」


 私とミノリが食堂に行くと一瞬ざわめきが走り、そしてじろじろと見られていたと思います。

 最初は私服の私が目立つのかと思いましたが、翌日以降も見られていたため、どうやら制服が原因ではないみたいでした。


「三日目は転入初日で、休み時間に同じ教室の生徒に話しかけても無視されました。それから昼休みに入ると上級生に校舎裏まで連れて行かれて、ミノリとの関係を聞かれました。そこにハルカが偶然通り掛かり、助けてくれました。その後はハルカと食堂に向かうとミノリが居て、気付いたらミノリとハルカが揉め始めて、昼の鐘でうやむやになっちゃいました」


 教室に私が入ると同級生の視線を感じました。そのくせ私が話しかけようとすると、逃げる様に席を立ち去って行きました。

 昼休みは4年生の先輩――緑、黄、赤の髪をした三人の先輩に、ミノリとの関係を問いただされ手を上げられそうになった所で、ハルカに助けて頂きました。そしてハルカの叱咤で三人は反省したとは思います。

 その後は食堂前でミノリとハルカが口論を始め、何故か私がミノリの手篭めにされている事になっていました。

 それからハルカが、自分の部屋に引っ越しなさいと私を誘って来て、返事をする前に鐘の音で解散しました。


「そして四日目、今日ですね。私が朝の清掃を終えて教室に入ると、私が使う分の教科書がありませんでした」


 共用で使われる教科書が無いなんて、普段はありえない事です。

 それから静まる同級生の内、数人の生徒が意地の悪い笑みをしていたため、教科書を隠されたのは確定していると思われます。


「それで今に至ると」

「はい」


 とりあえず簡単に説明するとこんな感じでしょうか。


「さて、それではノノの知らない所で何が起こったかを説明する前に、この学院の生徒について教えておこう」

「はい」


 私はユカリの話に集中します。


「この学院には生徒達の憧れの対象となる、まぁ人気のある娘が何人か存在するんだ。その中でも特に人気の高い娘が二人居る」

「それってもしかして……」


 話の流れ的にあの二人でしょう。


「そう。ノノも気付いたと思うけど『白』と『紅光の君』、すなわちミノリとハルカの二人のことさ。どちらも容姿端麗で学業の成績も良い。そして『乙女』としても格別に強い。周りの生徒が放っとかないのも無理ないさ」


 ユカリの言葉に頷きます。

 ミノリは静かで神秘的ですけど、ちゃんと周りを見てくれる優しい人です。

 そしてハルカは誰にでも物怖じせず堂々としているイメージで、頼りになる先輩という感じです。

 二人とも才色兼備で、その上性格も良いです。こうなれば人気が出ない筈がありません。


「学院の大半の生徒がこの二人には一目置いていて、更にこの二人にはそれぞれ熱心な信奉者が数十人ずつ居る。この信奉者達は昔は、『白』派と『紅光の君』派で対立をしたりもしていたが、ここ最近は落ち着いて静かになっていた」

「いた、ということはやっぱり……」

「最近は色々と活発な模様だね」


 ユカリは言います。

 なんだかここまでの説明で、どうして私が見られていたのかが大体分かりました。


「そしてここからが本筋。ここ最近で何が起きたかを説明しよう」


 ユカリの言葉に、私はごくりと唾を飲み込みます。


「まず一日目。ミノリが見知らぬ銀髪の娘を連れて大浴場に現れる。この時点ではノノの事を知っている者は居なかったが、問題はこの後だ。なんと二人は他の生徒が居るにも拘らず、秘め事を始めてしまう。しかもミノリが襲う形でだ」

「ちょ、ちょっと待って下さいっ!?何ですか秘め事って!」

「ん?性的欲求を満たすために――」

「そうではなくて!確かにミノリとは一緒にお風呂に入りましたが、あれは身体を洗われただけなのです!」


 私はユカリに事のあらましを説明します。


「しかし浴場に居合わせた生徒達は、そうは思わなかったみたいだね」

「――うっ!?」


 確かに湯に浸かる時には、他の生徒が居なくなっていたのには気付きましたが、まさか私達の事を勘違いしていたなんて。

 あの時、私が石鹸が切れていることに気付いていれば、こんな誤解を受けるなんて無かったのでは……。

 そんな後悔をする私を余所に、


「しかしだ。ということはまだノノの初めての相手は、僕が頂ける機会があるということだね。ふふっ」


 ユカリは一人悦んでいました。

 ……ぶれない人ですね。


「あの、先を続けて下さい」

「おっと失礼。それで君達が夕食を摂っている間に、ミノリが銀髪の娘を浴場で手篭めにしたという噂が全校生徒に広まったという訳さ」

「……」


 噂が広まるの早いです。

 しかしそうなると、全校生徒が私とミノリの関係を勘違いしたままとなります。


「そして二日目。朝食の場では、まだノノが何者なのか誰も知らない為、他の生徒は遠巻きに見ていることしか出来ない。まさかミノリ本人に聞くことも出来ないしね」


 ユカリの言葉に納得します。

 私が感じていた視線は、そういうものだったのですか。


「ちなみにそこでは互いに、相手に向かって『可愛い』やら『綺麗』とか褒め合っていたという話だけど」

「それも誤解です!」


 いえ、確かに『可愛い』とか『綺麗』とか口にしてましたので、真実なんですが。


「まぁそれは置いておいて、夕方になるころには『白』派の情報収集によって、ノノがミノリのルームメイトだと判明し、転入生だということも周知の事実となる。ここで『白』派は一年生に対して、ある指示をした。内容は『銀髪の転入生に手を出さないこと』と。本来は『白』派がノノに対して事実確認するまで、他の生徒は手を出さないという意味で出した指示だったけど、一年生としてはノノと係わり合いになって上級生に目を付けられるのを恐れたため、無視する形になってしまったんだろう」


 なるほど。通りで誰も私に話し掛けず、私が話し掛けたら逃げる訳です。

 しかし意外だったのが「無視すること」という内容ではなく、「手を出さないこと」という内容だったことですね。

 この時点では『白』派の生徒も感情的に動いてはいないみたいです。


「そして昼休み。『白』派の生徒がノノに事実確認をしに行って、ここからはノノの方が詳しいんじゃないかな?」


 『白』派で四年生の三人が事実確認をしに来ましたが、感情的になって私に手を上げようとした所で、ハルカに助けられた訳です。

 そしてハルカと共に食堂に向かい――


「ミノリとハルカのいざこざが始まる」

「そう。実はこの二人の間にはある確執があるんだけど、まぁそれは本人達に確認した方が良いかな」


 ユカリの言葉に頷きます。

 確かに二人の間には、何か私の知らない事がありそうでした。


「しかし問題なのは、その中でハルカがノノに対してある誘いをしたこと。ミノリの部屋から、自分の部屋に引っ越してこないかというお誘い。まぁ部屋割りを決めるのは寮長だから勝手に移ることは出来ないんだけど。逆に言えば寮長の許可を貰えば引っ越すことは可能だね。実は以前にも、ハルカの部屋に下級生が割り当てられ事があったんだけど、その娘は『紅光の君』派の圧力に耐えられなくて、寮長に頼み込んで部屋を変えて貰ったことがあったんだよ」


 その生徒には心から同情します。

 人気のある生徒と同室になり、それが原因で角が立つのであれば別の部屋に移った方が良いかもしれません。


「そしてハルカの一言に反応したのが『紅光の君』派。やって来たばかりの転入生、しかもどこの馬の骨ともわからない娘がハルカの同室に誘われるのに納得がいかなかったみたいだね。結果として君は『紅光の君』派にも目を付けられる事になったのさ」


 それって、私がミノリとハルカの対立のとばっちりを受けたって事じゃないですか!

 しかしあの時点で、私がはっきりとハルカの誘いを断っていれば、少しは結果が違ったのかもしれませんけど。


「『白』派と『紅光の君』派は、今現在で私をどうしようと考えているのですか?」

「『白』派はとりあえず静観の構えかな。先のミノリとハルカの対立の折、ミノリがノノと一緒に居たいという意思表示をしたから、今は『白』派も動揺している。その中でノノがミノリに相応しい相手かを見極める必要があるって意見が出て、とりあえず様子見をすることになっている」

「もし私が『白』派のお眼鏡に適わなかったらどうするのですか?」

「さぁ?それは分からないね。しかし少なくとも危害を加えないように、事実確認をした三人がうまく抑えてくれたみたいだよ」


 そうでうか、あの三人が抑えてくれたのですか。

 とりあえず『白』派については、今の所大丈夫そうですね。


「『紅光の君』派についても一部を除き、今すぐどうこうするつもりは無いみたいだよ。『紅光の君』派もノノが思っているより過激じゃないし、ハルカがどういう意図でノノを誘ったのかも分かっていないしね。そもそもノノはミノリとずっと一緒にいるから、何かしたらミノリに目を付けられるって事とも大きいかな」

「その一部というのは?」

「一年生の貴族で集まったグループ」

「では今朝の嫌がらせは……」

「ハルカの家は貴族で、その娘達も貴族。昔から社交界で憧れていたハルカが、自分ではなくノノを相手にしているのがお気に召さないみたいだね」

「そうですか」


 『紅光の君』派は一年生を除き、大丈夫そうですね。

 さしあたっての問題なのは、やはりこの一年生の貴族でしょう。

 その子達は私に敵意があるみたですので、早急になんらかの手を打った方が良いでしょう。


「ユカリ、ありがとうございました。お陰で助かりました」

「ふふっ、ノノのためだからね」


 これで一通りの事実確認が出来たと思います。

 さて、後はミノリと話をするだけです。



四章がなかなか終わらない。

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