表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第四章
PR
82/113

第八十話

 翌日の天気は曇り。

 そのうち雨が降ってきそうな空模様です。

 昨日の訓練の後は、ランニングのために疲れ切っていて、あまりミノリとは話を出来ませんでした。

 まさか本当に、日が暮れるまで走らされるとは思いませんでした。

 私自身、途中倒れることはありませんでしたが、かなりの体力と気力を消費しました。なんだかんだでお昼も食べれなかったし……いえ、食べてたらリバースしてたかもしれないので、結果オーライでしょうか。

 他の生徒の中には、途中で力尽きる者も居り、また夕食の時も、いつもより食堂に来る生徒の数が少なかったのは気のせいではないでしょう。

 ですのでミノリとハルカの関係については分からずじまいです。


 かろうじて確認した話が、タイの色についてです。

 この学院には一~八まで学年があります。

 そして一学年から順番に、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、桃と色が割り当てられているそうです。

 私は一年生なので、赤色のタイ。

 ハルカは青色のタイをしていたので、5年生。

 そしてミノリは、桃色のタイ。すなわち、最上級生の8年生でした。

 通りでミノリが色っぽ……大人らしく感じる訳です。


 とにかく、今の私に足りない物は情報です。かといってミノリやハルカからは聞き辛いですし、どうしたらいいのでしょうか?

 私は窓越しに曇り空を見て、はぁと溜息を付きます。


「ノノ?」

「――わっ!?」


 気付けば目の前にミノリの顔がありました。


「……そろそろ切り上げないと、授業に遅れる」

「あ、もうそんな時間ですか」


 今は朝の清掃の時間。

 ミノリと共に、校門から校舎までにある並木道の一画を掃除していました。


「これを捨てたら行きますので、先に行っていて下さい」


 私はゴミ容れを示します。


「分かった。道具は私が片付ける」


 ミノリは私の持っていた箒を取り上げます。


「ありがとうございます」

「ん」


(ミノリとは、夜に部屋に戻ったらしっかりと話をしましょう)


 そう心に決めながら、ゴミを捨てに行きます。


--------------------------------------------------


(遅れそうですー!)


 ゴミを所定の場所に捨てるまでは良かったのですが、校舎から教室に来るまでに時間が掛かってしまいました。

 原因は途中でトイレを探しに行ったからです。

 不意に催した為、手近なトイレを求めて歩き回ったのが良くありませんでした。

 見つけたトイレから教室までショートカットをしようと思ったら、途中の廊下が途切れていて通れず。已む無く来た道を引き返して教室に向かったため、時間をロスしてしまいました。

 この校舎、生徒数の割にかなり大きいので、構造を把握するのに時間が掛かりそうです。


(やっぱり誰かに校舎の案内とかして欲しいです……)


 そう思いながらも、鐘が鳴る前に教室の前まで辿り着きました。

 教室の中からは、生徒達の話し声。

 昨日みたいに、私が入ると静かになりそうですけど意を決して扉を開きます。


 ガラガラ。


 案の定、戸を引く音に教室が静まり返ります。

 そして視線。


(……私なんか気にせずに、そのままお喋りを続けてくれたらいいのに)


 まずは空いてる席に座り、荷物を置きます。

 昨日と同じく私が最後らしく、一番後ろの席しか空いていませんでした。

 そして教室の隅にある棚から、教科書を取りに行こうと他の席の横を通ると――


 「……クスクス」


 そんな笑い声が、耳に届きました。

 何を笑っているのかは気になりましたが、ナナシ先生が来る前に教科書の準備をしておく必要があります。

 私は教室の前方に向い、棚の前に立ちますが、


(教科書が……無い?)


 その棚には、今日の授業で使用する教科書が一冊もありませんでした。

 おかしいです。昨日、ナナシ先生が教科書を抜き取った時は、他にも一、二冊だけ同じ本が残されていたと思います。

 私は他の教科書に紛れていないか、棚の上や横に落ちてないかを確認します。

 しかし、教科書は見つかりません。

 ふと気になり、私は今日使わない教科書の冊数を数えます。

 ……29、30。計30冊あります。

 クラスの人数は、私を抜いて27名。

 基本的に科目が違っても、揃えるために教科書の冊数は同じだと考えてよいでしょう。

 つまり残り3冊の教科書が、ここには存在しなくてはいけません。


(――っ!?)


 ゆっくりと教室を見渡す私。

 何人かの生徒は、私が顔を向けると申し訳無さそうに視線を逸らします。

 しかし、先程笑い声がした辺りの数人。

 その少女達だけはニヤニヤとした表情で、こちらを見ています。

 まるで、そう人を小馬鹿にしたような笑いです。


(確定ですね)


 私は、自分の心が冷めるのを感じます。

 昨日までは無視だったのが、嫌がらせに発展したのです。間違いないでしょう。

 つまり――


(……私は、変人ではなかったんです!!)


 いえ、実は地味に気にしてたのです。私が思っているよりも、自分自身が変な娘に見えるのではないかと。

 ハルカからも変な娘呼ばわりされましたし。

 嫌がらせをするってことは、明確な悪意を持っているということです。

 もし私が変人であったならば、昨日の様子から大人しい変人と判断して、今日も関わり合いになるのを避けられて居た筈です。

 ……強がりは置いておいて。

 どうしましょうか。

 十中八九、主犯もしくは指示をしたのは笑っている少女達でしょう。

 こういう時、前世で読んだ漫画とかでは以下の様な行動を取っていたと思います。


1.途方に暮れる。

2.教科書なんて無くても平気。

3.暴れる。


 1は、そのままで居るとナナシ先生が来て、「どうしたの?……まぁ教科書がないですって!とりあえず今日の所は他の子に見せて貰いなさい」からの、見せて貰ってた娘と、授業中ずっと気まずいままで過ごさなくてはいけません。

 それにどうせ、次の日から嫌がらせの行為がエスカレートして、私自身か私の私物が対象になる恐れがあります。


 2は、教科書無くても平気ではないですね。

 確かに授業のレベル的に、教師に指名された場合でも、つつがなく問いには答える事が出来るでしょう。

 しかし「教科書のここからここまでを読みなさい」と当てられた場合、教科書を持っていない事が露呈してしまいます。

 そうじゃなくても、結果的に1と同じになりそうです。


 3は、これ以上の嫌がらせを止めさせるのに、最もスピードのある解決方法だと思われます。

 私を怒らせるのが危険だと解らせれば、これ以上の嫌がらせは無くなると思います。

 それに誰がやったのか目星はついていますし、たとえ犯人ではなくても見て見ぬ振りをした時点で同罪です。

 問題は騒ぎを起こした私が、それこそ昨日の4年生ではありませんが、反省房送りになるかもしれない点です。


(……3ですね。反省房がどんな所かは知りませんが、覚悟は出来ています。それに、身に降りかかる火の粉は払わねばなりますまい)


 今なら相手も油断していますし、不意を突くのも簡単でしょう。

 そう私が心に決めた瞬間――


「おはよごうざいます」


 ナナシ先生が来てしまいました。

 ……少し遅かったようです。

 こうなると例え暴れたとしても、本契約をした『乙女』であるナナシ先生に取り押さえられてしまうのがオチでしょう。

 すると残る選択肢は1か2か。


「ノノさん、どうしたの?」

「……」


 私は……。


「すみませんが、気分が優れないので寮に戻らせて頂けないでしょうか?」

「え?どうしたの、大丈夫?」


 ナナシ先生は、心配そうに顔を曇らせています。


「誰か一緒について行った方が良いかしら?」

「いいえ、一人で戻れますのでお気遣い無く」


 そのまま荷物を回収すると、私は教室を出ます。

 途中、犯人と思われる少女達の顔が目に入りましたが、見なかった事にしました。


 私は廊下の窓から、空を見ます。

 いつの間にか、ポツリポツリと雨が振り出していました。



欝だ……飲もう(酒を)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ