第八話
「ノノも一緒に遊ばないか?」
私にそう声を掛けてきたのはトール。
午前の授業が終わり、子供達が帰る時間帯のことです。
(初めてのお誘い来ました!)
今まで教室の中で一緒に過ごしてはいましたが、私はあまり会話はせずに黙々と勉強していたため、こうして誘われるのは初めての事です。
「そうだね。ノノも大きくなったしそろそろ良いかな」
そう追随するのはアンリ。
実はこの二人はしょっちゅう喧嘩こそするものの、なんだかんだで一緒になって遊んでいるのを良くるため、基本的に仲は良いみたいです。
子供の数が少ないのも関係していると思いますけど。
「私でいいのですか?」
私は首を傾けます。
「もちろん!」
「他に誰がいるのさ?」
トールとアンリが頷いてくれます。
そして私の答えは、
「誘ってくれてありがとう。私も行きたいです。でも一応母様に許可を貰わないといけませんから」
私も子供達の遊びに興味津々です。
しかし今まで一人で外出したことがなかったため、ナナに確認する必要があります。
それを聞いたトールは、
「分かった。じゃあ飯食ったら、広場で待っているからな。遅れるなよ!」
そう言うと「また後で」とアンリを連れて教室を出ます。
二人を見送った後、私はナナの元に向かいます。
「母様」
「なーにノノ?」
ナナは授業の後片付けをしながら返事をします。
「午後なのですけど、トール達と遊びに行っていいですか?」
するとナナは、こちらを向き笑顔で一言。
「駄目よ!」
と、にっこり。
「ありが……え?」
(え……!?今駄目って、なんで?)
まさか反対されるとは思ってもいなかったため、少し驚きます。
「あの、母様。理由を聞いても?」
「だってノノが私の知らないところで怪我したら大変だもの。他にも悪い遊びを覚えて不良になったり。しかも男の子と二人きりなんて絶対に駄目よ!もし間違って『大きくなったら結婚しよう!』とか約束しちゃって、そのままママを置いてお嫁に行っちゃったら……ママ寂しくて死んじゃうわ!そうよ。そんなことが起きないようにノノは私と結婚すれば良いわ!そうすれば……」
ナナは頬を膨らませて、まくし立てます。
出ました。ナナの親ばか。
実はこれと同じことが以前にありました。
確か……あれは私が3歳位で、言葉が完全に話せるようになった頃の話です。
いつまでもナナの事を「ママ」と呼ぶのは恥ずかしかったため、呼び方を「母様」に変えてみたのですが、その時も今と同じ反応をされました。
あの時、動揺したナナはショックのあまり無表情になり、「どうしてママって呼ばないの。ハッ!?もしかして反抗期……」と口から漏れだしました。
さすがに、あのままだとまずいと思った私は、『ある方法』でなんとか説得をして事なきを得たのですが。
「……それに私のノノは可愛いから、たまたま通り掛かった貴族に攫われてそのまま養子にされたりしたら大変。もちろんそなったらママが助けにいきますよ!どんな貴族でも草の根分けてでも見つけ出し、一族郎党根絶やしにして生まれてきた事を後悔させてあげます。ふふ……」
何か物騒な事を言っています。
さすがにそろそろ止めないと拙いと思います。
「母様っ!大丈夫です母様。決して危ない事はしないし、アンリも一緒です」
するとナナは顔を上げます。
「本当に?」
「約束します」
「ママを置いてお嫁に行ったりは?」
「しません」
「ママ以外の人と結婚は?」
「えと、将来の事はまだ分かりませんが……」
(あ、少し涙目になりました。でも可愛いです)
「母様。少しは私を信用して下さい。それに私が一番大好きなのは――」
ここで『ある方法』を発動。
若干俯いて上目遣いを意識し、少々照れ気味に、
「――母様に決まっています!」
ハッキリと断言します。
(……これをやるのは恥ずかしい!)
私の中の人的に、こういう甘えたりするのは苦手です。
しかしながら効果は抜群で、曇っていたナナの顔に光が差し太陽の様な笑顔が輝き出します。
「もちろんママが一番愛しているのもノノよ!」
ナナはそのまま抱きついて来ます。
ナナにむぎゅーとされながら、私も気恥ずかしさで顔が赤くなります。
「母様、苦しいです……」
「――はっ!ごめんなさいノノ。分かったわ。遊びに行っていらっしゃい。例え離れていても、二人の心は繋がっているから大丈夫ね……でも遅くならない内に帰ってきて欲しいかな」
「はい!」
何とかナナからOKを貰いました。
(母様、チョロいです。でもそこが可愛いです)
それにしてもナナはいい匂いがします。
今まで一緒に居たためでしょうか。何といいますか安心できる匂いです。
私は、抱き付かれる度にずっとこのままでいたいと思ってしまうため、とても危険です。
……ちなみに出かける前に、ナナに行ってらっしゃいのキスを何度もされました。