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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第三章
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第五十八話

 私がナナの元に向かうと、ナナはコノカと話し中でした。


「コノカさん、ノノのこと頼みますよ」

「わ、分かりましたっ!」


 さすがにナナと話している間は、コノカもしっかりと目を覚ましています。

 私は二人に近づいて声を掛けます。


「母様、コノカ姉様!」

「あらノノ。他の人とは挨拶は済ませたの?」

「はい!」


 カナデ、ソウセキ、ヒイラギ、そして村の皆とは別れの挨拶は終わっています。

 後はナナだけです。


「いいことノノ。ちゃんと毎日歯を磨くのよ。それから夜更かしは身体に良くないから、程々にすること。毎日……は無理だけど、月に一回は手紙を書いて送ってね。それから……」


 他にもつらつらと注意事項を述べるナナ。

 どんな世界でも母親というものは、こうやって子供の心配をするみたいですね。


「……っと、最後に気を付けるのよ」

「はい。それでは母様、行ってきます!」

「行ってらっしゃい。ノノ」


 別れの挨拶は一言だけ。

 笑顔のまま、別れます。


「コノカさん、行きましょう!」

「ふぁー。了解」


 眠そうなコノカと一緒に村の出入り口に向かいます。

 そんな私達に「行ってらっしゃい」と村人達の声がするので、私は手を振って皆に応えてます。

 そして私は、10年間育ったバール村から旅立ちました。


--------------------------------------------------


「ナナ様とは、あんなあっさりした挨拶で良かったの?」


 村が見えなくなった地点で、コノカが言います。


「はい。母様とは十分に話しましたから」


 ナナとは星を観ながら語り合い、約束もしました。


「それに湿っぽいのは苦手なんです」


 嘘です。ヒイラギやカナデと抱き合った時は、今にも涙が出そうでした。それにナナともです。

 しかし私が泣いていたら、きっとナナが安心して私を送り出せないと、そう自分に言い聞かせて我慢をしていました。


「――そう」


 コノカは深く追求してきませんでした。

 そのまま二人で、黙々と街道を進みます。


「そういえば、この辺だったよね」

「何がですか?」

「ノノと初めて会ったのがさ……」


 コノカは周りを見渡します。

 そういえばコノカが魔獣と戦っていたのはこの辺りです。


「あの時は魔獣に追われて絶体絶命だったけど、まさか自分より小さいの娘に助けられるなんて思わなかったよ。そして村に着いたら、術を教えることになって、今はこうして村を出るのを送っているなんてね」


 思ってもみなかったよ、と言うコノカ。

 そういえばコノカと出会って、まだ二週間も経っていません。

 なんだかあっという間に、時間が過ぎた様に感じます。


「そうですね。今度は魔獣に遭遇しなければ良いですね」

「それだけは勘弁して欲しいね……ふあぁ」


 そして大きなあくびをするコノカ

 そんな中、私はあることに気付きます。


「……何か聞こえませんか?」

「話している傍から、まさか魔獣……?」


 私達は立ち止まって耳を澄ませます。


 ――。


「確かに聞こえます」


 その音は段々はっきりと聞こえる様になります。


 ――ッ!


「私にも聞こえたよ。何だか近付いていない?」

「はい」


 警戒する私とコノカ。

 もし魔獣だとしたら、退治しておく必要があります。

 そして、


「ノノーッ!!」


 聞きなれた声が私の名前を読んでいます。


「――母様っ!?」


 それはナナの声で、私達の後方からナナが追いかけてくるのが見えてきます。


「一体どうしたのでしょうか?」

「さぁ?忘れ物でも届けにきたとか」


 その間にも、ナナは凄い勢いで私達に近づいてきます。


「ノノーーーッ!」

「母様、一体どうし――」


 たのですか?という言葉を発音する前に、私は突っ込んで来たナナの勢いに負けて、押し倒されてしまいます。

 その衝撃で息が詰まる私。


(――かはっ!?何々?)

「ノノッ!」


 私の上に馬乗りになってしがみつくナナ。

 咄嗟の出来事に混乱する私。


「あの、ナナ様。ノノも苦しそうだし一旦落ち着いて……」

「コノカは黙っていて!」

「――ハイッ!」


 止めに入ったコノカを一括するナナ。そしてそのまま静かになるコノカ。

 相変わらずナナには従順です。


「母様、どうしたのですか?」

「……行かないで、ノノ」


 私の胸元に顔を押し付けるナナ。


(……え?行かないでって、え?)


 ついさっき笑顔で分かれたばかりなのに、ナナの真意が解りかねます。


「私、分かっていなかったのよ。ノノと離れるってことが、どれだけ辛い事かって!」


 ナナのくぐもった声が聞こえます。


「さっきは寂しかったけど、ノノを笑顔で送りだすことができたわ。でも、それから家に帰って何かしようとすると、ついノノの名前を呼んでしまう。ノノの姿を捜してしまう。その度に私の胸は、何とも言えない虚無感と抉り取られたような痛みが走るの」


 ぎゅっとしがみ付くナナ。


「それで気付いたの。……私はノノが居ないと駄目だって。十年間、ずっと一緒に居たのよ。ノノが赤ちゃんの頃から、大きくなるまでずっと、私はノノを見てきたわ。楽しい時も、喧嘩した時でも毎日顔を合わせて。一緒に食事をして、午前中は他の子供達と授業をしたり、午後には村を回ったり、『乙女』の修行をして、夜は一緒にお風呂に入って、同じベットで眠る。それが当たり前の生活だったのに!」


 そしてナナは顔を上げます。


「今更一人に戻れないよ。だって私とノノなのよ!だから行かないでノノ。ずっと私と一緒に居て。……じゃないと耐えられないよ」


 ナナの瞳からぽろぽろ溢れた涙が、私の頬に落ちます。

 初めて、そう初めてナナが泣くのを見ました。これまでも泣きそうな表情をしている時はありましたが、一度だって涙を流したことはありませんでした。

 そのナナが悲痛な声で私を呼びながら、泣きじゃくっています。


「……ぃです」

「ぐすっ、ノノ?」


 鼻を鳴らして聞き返すナナ。


「母様はずるいです!」

「え?」


 きょとんとするナナに私は先を続けます。


「ずるいです、今更そんな事を言うのですから!」

「そ、そんな事って。私にとっては大切な事なのよ!」

「なら、なんでもっと早く言ってくれなかったのですか!?」

「だって私はノノのママだし、ノノに心配を掛けたくなかったし……」

「私だって――」


 そう私も、


「母様に心配を掛けまいと、我慢してきたのに……」


 もう私を止めるものは無く、瞳からはぼろぼろと涙が流れています。


「うわーん!母様のばかばかー!大好きです」

「わ、私だってノノを愛しているわ」

「母様ーっ!」

「ノノーッ!」


 抱きついて来るナナを受け止めます。

 そのまま二人で堰を切った様に、泣き続けました。


 ……。


 そしてしばらくして起き上がる私達。

 もう体中の水分が無くなる位まで涙を流したと思います。

 二人共、吐き出す物は全て出しました。


「母様、星の約束を覚えていますか?」

「えぇ。勿論よ」

「寂しい時は星を観て下さい。その時は必ず、私も同じ空の下で星を観ています」

「うん」


 二人でした約束がある限り、例え寂しくても大丈夫です。


「行ってらっしゃい、ノノ」

「母様、行ってきます」


 こうして今度こそ私は、ナナの元から旅立ちました。



コノカ「……zzz」

空気読んで寝ていました。


これにて第三章終了。

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