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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第三章
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第五十一話

「『乙女』が術を発現させるために必要な、三つの要素は何か知っている?」


 質問するコノカ。

 その問いに私は答えます。


「確か……一つ目は魔力。二つ目は詠唱。三つ目はイメージでしたね」

「正解。今日は二つ目の詠唱について説明するね」


 そして、コホンと咳払いをすると話し出します。


「まず詠唱の方法は二通りあります。一つは全詠唱フルキャスト。これは普通に文言を詠唱する方法。もう一つは省略詠唱ファストキャスト。文言を省略して詠唱する方法。この二つはノノちゃんも使ったことがあるかな?」

「はい。名称は知りませんでしたが、実際に使用したことはあります。省略詠唱は詠唱を省略できる分、早く術が発現しますが、その分威力が落ちますよね」


 全詠唱は言わずもがな。省略詠唱は咄嗟に使用したりします。


「そうだね。さて実は全詠唱より早く、しかも省略詠唱よりも威力のある詠唱方法があったりします」

「そんな詠唱があるのですか?」

「どちらかというと詠唱というより、詠唱する上での技術かな。それが詠唱待機ウェイトキャスト。詠唱する文言を途中で止めて、術の使用を待機する方法。利点としては、止めた先の文言を唱えることによって、好きなタイミングで術が使用できること。ただし待機中も魔力を消費するし、その間も魔力の制御が必要になることが欠点かな」


 つまり事前に準備することで、全詠唱の詠唱時間を縮めるということですね。


「そのため大量に魔力を消費する術や複雑な術よりも、障壁の術のように少ない魔力の術で、運用するのが理想かな」

「なるほど」

「まずは、この詠唱待機を使える様になって貰うね」

「はい!」


--------------------------------------------------


 先程のナナの上空からの攻撃。

 全詠唱では詠唱が間に合わなかったでしょう。

 省略詠唱では術の発現は間に合いますが、大鎌の一撃を受け止めきれずに障壁が破られていたでしょう。

 コノカとの特訓で覚えた詠唱待機がさっそく役に立ちました。


(それにしても、一体どうやって空から近づいたのでしょうか?)


 離れた地点から、跳躍してきたのでしょうか?

 しかしそれならば、落下時の風切り音に気付く筈です。

 それにナナは落下していたというより、宙に浮いていました。

 では空を飛ぶ術でしょうか?

 しかし、そんな術は聞いたこともありません


『うーん?』


 ウーディネもその様な術は知らないみたいです。

 とすれば、とりあえず聞いてみましょう。


「母様、先ほどのは空を飛ぶ術ですか?」


 私は数メートル離れたナナに声を掛けます。


「さぁ?どうかしら」


 惚けるナナ。

 ですよねー。もちろんナナが素直に答える筈がありません。

 もしかしたら、と期待したりしていません。……少しはしてました。


「それより、来ないのかしら?なら……こちらから行くわよ!」


 その言葉と同時、ナナが突っ込んできます!

 横振りの一撃。

 それを咄嗟にしゃがみ込んで避けます。

 頭上スレスレを掠める大鎌。

 私の動きを遅れて追いかける数本の髪が切断されますが、気にしてはいられません。


 ナナとの接近戦で気をつけるポイント。

 それは、大鎌と打ち合ってはいけないことです。

 ナナの大鎌の一撃。

 これを受けるのは可能な限り避けます。

 大鎌の一撃はとても重く、武器で受けるとこちらの体勢が崩され、返す二撃目の餌食になります。

 また鎌を振り切った直後。一見すると大鎌を振り切った姿勢で、隙のある様に見えます。

 しかし、これはナナの罠です。

 このままこちらが攻撃に転じても、ナナは攻撃をかわしつつ後方に跳躍し、更に大鎌を引いて攻撃してきます。

 とにかく接近戦でのナナは、重い・速い・巧いの三拍子揃った、最強の戦士です。

 そのため、


「――汝、力を発現し」


 こちらも距離を取りつつ、詠唱を開始します。

 こちらから攻撃をせずに回避だけに専念すれば、なんとか数分間は避けることはできます。

 私も伊達に6年間、ナナの鎌を見ていた訳ではありません!

 ブンッ――とナナは大鎌の内側だけでなく、刃の付いていない反対側で殴打してきます。

 しかしなんとか後ろに下がって避けます。


「――冷涼を用いて」


 詠唱しながらも回避に専念します。

 しかし紙一重で避けているため、服の端が切れて流されます。

 ただ避けるだけではいけません。術が途切れない様にする集中する必要があり、今の私の魔力のリソースは身体強化と術の詠唱に次ぎ込まれています。


「――極寒に至る風で」


 大鎌の柄の先が耳元を掠めます。

 かろうじて避けられましたが、今のは危なかったです。

 しかし、耐えた甲斐もあって文言は完成。

 ただ、このまま距離を取って遠距離から術で攻撃しても、ナナには避けられるだけでしょう。

 ではどうするのか?

 しばらく詠唱待機して攻撃を避け続けていると、ナナが大鎌を横に振り被りました。

 その攻撃こそ、私が待っていたものです!


(ウーディネ――今っ!)

『はいー』


 一瞬で鋼鉄の塊が顕現し、大鎌の軌道を阻みます!


「――っ!?」


 ナナも大鎌の勢いを止める事は出来ずに、ガンッ!という音と共に大剣に弾かれ、体が僅かに泳ぎます。

 現れたのは、ウーディネの固有武器である大剣。

 その大剣の先端は地面に突き刺さっており、がっちり固定されています。

 そして分厚い剣身は、見事にナナの一撃にも耐え切りました。

 今回の戦闘でウーディネと契約したのは術の相性だけでありません。この固有武器の頑丈さもウーディネを選択した理由でもあります。

 そして、


「――全てを奪え!」


 詠唱待機していた凍風の術が発現します!

 これはコノカの得意な術で、正面の数メートル先まで、零度の風で全てを凍り付かせます。

 その上この術は前方範囲攻撃で、今から後方や左右に避けても術の影響は受けます。

 そして前方に避けようにも、ウーディネの大剣が邪魔になります。

 つまりどこにも逃げ道がありません。

 流石のナナもこれを避けきることは無理でしょう!


 ナナにどうやって勝つのか?

 その答えがこれです。

 接近した状態に範囲攻撃のカウンターで、避けられない攻撃をすること。

 言っていることは簡単ですが、一撃でもナナの攻撃を貰えば術も途切れて、何も出来ないままダウンを取られていたでしょう。

 しかし――


「――障壁よ!」


 ナナが文言を詠唱します。


(――障壁の術!?しかし省略詠唱なら凍風の術で打ち破れます!)


 そのまま零度の風が、前方の空間の熱を奪い取ります。

 一秒、二秒。

 段々風が弱まり、風の止んだ先には――


 ナナが立っていました。


「まさか!?」

『うそー』


 服の端々は凍っていますが、ナナ本人にはダメージがないみたいです。

 そしてナナは動揺する私に一瞬で近づき、


(やばっ――)


 そう思った時には、既に首筋には大鎌の刃が突き立てられていました。


「まずは、一回目のダウンね」


 ナナの涼しい声が響きます。



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