第四十四話
(学部かぁ……)
まさか、こんな異世界で進路について考える時が来るとは思っていませんでした。
前世では、家から近い高校に行きましたし、大学も推薦入学でした。
就職もゼミの教授の紹介で決まりました。そう思い返すと、あまり進路で悩んだことはないような気がします。
私は今、一人で村の中を歩いています。
ナナはコノカを連れて、村長や村人に挨拶回りに行っています。
そのため私は、一人で鍛錬していたのですが、何か頭の中がもやっとして集中できず、こうして村の中をぶらぶらしています。
「ノノちゃん、どうしたの?」
「カナちゃん」
私に声を掛けたのはカナデでした。
周りを確認すると、どうやらカナデの家の近くまで来ていたみたいです。
「もしかして私に用事があったの?」
「いえ、考え事をしていたら、自然と足がこちらの方向に来ていたみたいです」
私がこの村で、ナナ以外に何か相談できるのは、同年代のカナデだけです。
そのため無意識の内に、カナデの家に向かっていたのかもしれません。
「そうだ!ノノちゃんさえ良かったら、家に寄っていきなよ」
「しかし、カナちゃんにも何か予定があるのでは?」
「大丈夫、今日の仕事はもう終わったから」
そう言って、私の腕を取るカナデ。
「それではお邪魔させて頂きます」
私は少しだけ、カナデの家に寄ることにしました。
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「それじゃお茶をいれるから、私の部屋で待っていて」
「分かりました」
カナデの家には何回か来た事があるため、迷わずに部屋に向かいます。
そして扉を開け、カナデの部屋に入ります。
カナデの部屋は綺麗に片付いていて、素朴です。
本来は女の子が好きそうな小物とがあってもおかしくありませんが、辺境にあるこの村では、あまりそういった物が手に入りません。
代わりではありませんが、この部屋には本が多いです。
この地域の歴史の本。算数の学術書。名前の知らない誰かの自伝。そういった本が無数に棚に連なっています。
カナデは、ナナの教室でも成績が良く、普段から本をよく読んでいました。
「お待たせー」
カナデが御盆にお茶を持って、部屋に入って来ます。
「しばらく振りに来ましたけれど、もしかして本の数増えましたか?」
「うん。何冊か村長さんに貸して貰っているの」
この村の村長は、以外と蔵書が多いらしいです。
カナデはお茶を啜ります。
「それで、ノノちゃんが悩み事なんて珍しいね。もしかしてナナ先生の事?」
「母様も関係しますが、実は――」
私は、センリから学部入学の誘いがあったことをカナデに話しました。
「なるほどね。ノノちゃんは学部に入学するかで、悩んでいるの?」
「いえ、まだ悩むという程では……。ただ何といいますか、このことを考えると、どこかもやっとするのです」
「うーん。私も雨の日は、畑仕事をしたくないのと同じかな?」
カナデの言葉に苦笑します。
なんとなくそれは違うと思います。
「そういえば、カナちゃんは12歳になったらどうするのか、考えているのですか?」
カナデは私の一つ上で11歳です。
つまり、来年には12歳になり、この村を出る事が決まっています。
「えーと、私はナナ先生みたいな先生になりたいって思っているんだ」
カナデは少し恥ずかしそうに言います。
「あのね。この国の人間は、他の国に比べて文字の読み書きや、算数が出来る人間が多いって本に書いてあったの」
「そうなのですか?全然、知りませんでした」
「ノノちゃんは修行に夢中だったからね」
「――うっ!」
カナデに痛い所を疲れました。
確かに『乙女』の修行ばかりで、自分でも世間知らずに育っていると思います。
カナデが言うには、どこの国にも学校があるけど、それは貴族が通うためのもの。
一般市民は市井の教室や、有識者に教えて貰うのが普通らしいです。
「もしかして、この国には『タリアの乙女』がいるからですか?」
「うん、たぶんそうだと思う。でもね、それでも『タリアの乙女』が居なくて、教室が開かれていない村は沢山あるみたいなの」
カナデの言葉に頷きます。
この村はナナが居るから良いですが、そうでない村があっても不思議ではないからです。
「だから私が大きくなったら、そういう所で子供達に勉強を教えられたらって良いかなって。そのために、この村を出たらまずは隣町にある教室の手伝いをしたいと思っているの」
そう夢を語るカナデはいつもののほほんとした印象とは異なり、なんだか格好良くて、今まで子供だと思っていたその顔は今はとても大人びて見えます。
「そう、先生ですか。カナちゃんには向いていると思います」
「そ、そうかなー。ありがとう。実は家族以外に話したのは、ノノちゃんが初めてなんだよ」
照れ隠しに頬をかくカナデ。
私が褒めると、その顔は歳相応の可愛い子供に戻りました。
「さっきのカナちゃんは素敵で、とても眩しく見えました」
私の言葉に、カナデは虚を突かれ停止しますが、
「え、えぇーー!?いやいや、そんなことないよ!」
慌てて手を振って否定します。
その顔は真っ赤に染まっており、林檎やトマトみたいです。
「私から見たら、ノノちゃんの方が眩しいと思うな」
少し落ち着くと、カナデは喋りだします。
「あのね、私が先生になりたいと思ったのも、ナナ先生やノノちゃんに憧れてたからなの」
「えーと、母様は分かりますが、私もですか?」
「うん。教室に通い始めた頃の私は、全然算数なんて分かってなかったの。でもねノノちゃんに教えて貰ったら、急に解るようになって、少しずつ問題を解くのが楽しくなってきたの。それから、ナナ先生やノノちゃんに勉強を教えて貰うとやっぱり楽しくて、私もそういう風になれたらいいなって思っていて……」
そういえば、算数など既に知っている授業の時間に、私は良くカナデに勉強を教えていました。
「それにね、ノノちゃんがナナ先生と一緒に村の外から帰ってきたくるのを、たまに見掛けるんだけど。その時のノノちゃんは、服や髪まで土や汗にまみれていてボロボロなんだけど、顔はなんだかすっごく楽しそうで、その時の顔が一番輝いていて、そんなノノちゃんが大好きなの!!」
カナデは最後まで言い切ると、自分の発言に気付いたのか、真っ赤に茹で上がった顔を押さえます。
しかしそんな事を言われると、
(こっちまで恥ずかしくなってしまうじゃないですか……)
私も、自分の顔が熱くなるのを感じます。
そして二人とも顔を赤くしたまま、静かになります。
そして、
「……ふふっ」
「……ははっ」
どちらともなく、笑い出します。
「私もカナちゃんのこと大好きですよ」
「うん。じゃ私達はこれからもずっと親友だね!」
「はいっ!」
しばらくそのまま笑っていると、「ただいま。カナ、誰かお客さんでも来ているの?」と玄関の方から声がします。
カナデの母親が帰ってきたみたいです。
私もそろそろ家に戻らないと、ナナが心配してしまいますね。
「そろそろ帰りますね。お茶ご馳走様です」
「うん。結局、私の話ばっかりで、ノノちゃんの話を聞けなかったね」
二人とも立ち上がります。
「そんなことないです。お陰でスッキリしました。ありがとうです」
「それなら良かったかな」
私は最後に、カナデと握手をしました。




