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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第三章
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第四十二話

「はー疲れた。今日はもう寝たいね」


 そう言って、机に突っ伏すコノカ。

 どうやら慣れない子供の相手をして、疲れたみたいです。

 今は午前の授業が終わり、子供達は家に帰った後です。


「子供の相手がこんなに疲れるなんて……」

「小さい子は元気ですからね」

「ノノちゃんも十分、小さいと思うけどね」

「そ、そうですか?」


 動揺しつつも返事をします。


「そうだよ。10歳にしては、やけに大人びてると思うよ。昨日、初めて会った時も本契約している『乙女』かと思ったし」


 コノカは顔だけをこちらに向けます。

 いつも眠そうで、やる気のなさを放出しているコノカですが、こういう所はけっこう鋭いです。

 伊達にコノカも『タリアの乙女』ではないみたいです。


 昨日、魔獣を見たという知らせを受け、私とナナは魔獣討伐に村を出ました。

 一年位前から私もそれなりに強くなったため、ナナとは別行動で魔獣を捜索していた所、街道で魔獣と戦う少女を発見しました。

 それがコノカです。

 私が駆けつけた時には丁度、魔獣がコノカに迫っていたため、慌てて助っ人に入りました。

 そして魔獣を討伐した後に話を聞くと、なんとバール村に新しく派遣された『乙女』というではありませんか。

 ナナと合流して話を聞いてみると、ナナも初耳だったらしく驚いていました。

 しかしコノカが取り出した辞令を見ると、本当のことだったと納得していました。


「そういえば聞きたかったんだけど、昨日名乗った時に言っていた『カッコカリ』って何?」

「カッコカリ?あー『乙女(仮)』ですか。私がまだ仮契約しかしていないって意味です」


 机から起き上がり、疑問を浮かべるコノカに、私は説明します。


「なるほど。仮契約だから『乙女(仮)』か面白い呼び方をするね」

「コノカさんの所では、仮契約している『乙女』のことを何と呼んでいたんですか?」

「んー、私が学部に居た頃も、『仮乙女』とか『準乙女』とかいろいろ呼び方があったなー」


(仮乙女って、自動車の仮免・本免みたいですね。それだと本契約した『乙女』は『本乙女』でしょうか?……なんか微妙ですね)


 心の中で、つまらないことを考えてしまいました。

 どうやら決まった呼び方はないみたいです。それより、聞き慣れない単語が耳に入りました。


「学部って何ですか?」


 文字通り捉えると学部とは、教育したり、研究したりする部署だと思います。


「え、知らないの?……あれ、ノノちゃんて今何歳だっけ?」

「先程、自分で『10歳にしては』って言っていたではないですか」

「そうだったね――ってことは入学できるじゃん!……ん?でも仮契約が出来るって、あれ?」


 私を置き去りにして、一人混乱するコノカ。

 どうか説明プリーズです。


「もう一つだけ質問いい?」


 訊ねるコノカに私は頷きます。


「ノノちゃんが契約で『乙女』になったのって最近の話?」

「いいえ、私が契約したのは4歳の時ですけど」

「――!?」


 コノカは驚き、それから腕を組んで何か考え事をしています。

 そのまま沈黙の時間が続き、私は耐えられずにコノカに声を掛けます。


「あの、どうしたのですか?」

「……あぁ、ごめんごめん。学部っていうのは学院部の略称で、『タリアの乙女』を育成する部署なんだ。生徒は皆、『タリアの乙女』で、それこそ『乙女(仮)』が本契約するまでに学院で勉強したり、鍛えたりするところなんだよね」


 さっそく『乙女(仮)』を使いこなして説明するコノカ。

 どうやら、私の想定は間違っていなかったみたいです。


「へー、そんな所があったんですね」

「それで入学するには条件が二つあって、一つ目は『タリア』と契約していること。ただし契約していなくても、入学試験で『タリア』と契約する機会があって、そこで契約できたらオーケーだよ。ま、大半は入学試験で契約して学部に入るね」


 コノカの言葉に耳を傾けます。

 一つ目の条件については、『乙女』を育てるのですから当たり前ですね。


「二つ目の条件は、10~12歳であること。これは先に説明した入学試験を受けるための条件でもあるね」


 確かに、それより小さすぎる子供が魔獣と戦うために修行するというのは、あまりよろしく無いと思います。……あれ?私4歳からナナの元で修行していますね。


「それから二つ目の条件には例外があって、一つ目の条件――『タリア』と契約していれば、年齢に関係なく入学することが可能なの。これは仮契約をした『乙女』を保護するための措置だね。そのため契約によって新しく『乙女』が誕生した場合、必ず組織に報告する義務があり、学部に入学するのが決まっているんだよ……」


 そして、少し間を取り


「つまりノノちゃんが今、学部に居ないことはおかしいのよ!」


 びしっと私に人差し指を突きつけるコノカ。


(な、なんですってー!?)


 コノカの仕草に釣られて、私は吃驚します。


「……あぁ喋り過ぎて疲れた。もう今日は動けない」


 そして机の上に寄り掛かるコノカ。

 ……というか誰かが同じような事を指摘していた気がします。

 あれは確か――


「そういえば、センリさんも同じ様なことを言っていましたね……」


 ぴくっとコノカの耳が動き、再びこちらを向きます。


「センリさんって、もしかして『六聖女』の、あのセンリ様?」

「はい。『鋼鉄の聖女』のセンリ・シラクサさんですけど」


 その言葉にはっとするコノカ。


「――忘れてた!すぐに取ってこないと!」


 そのまま慌てて、二階にある自分の部屋に向かうコノカ。

 一人残される私。

 ……一体、何だったのでしょう。

 コノカは動けないとか言っている割に、大事には動けるみたいです。

 それにしても、先程のコノカの言葉を反芻します。

 『乙女』のことは組織に報告する義務があるとか。となると――


(不味いですね……)


 もし私の事が組織にばれて、ナナが処罰を受けるようなことがあれば大変です!

 ナナなり、コノカなり、もう少し詳細を確認する必要がありますね。

 そのようなことを考えていると、私に声が掛かります。


「二人とも、昼食できたわよ」


 ナナが教室に入ってきました。


「あれ、コノカは?」

「何か忘れていたみたいで、今部屋に取りにいっています。それより――」


 私はコノカから聞いた話をナナに説明しました。

 すると、


「あら、心配してくれるの?ありがとうね」


 と余裕綽々に返されます。


「本当に大丈夫なのですか?」

「大丈夫よ。ほら、私『六聖女』の一人だから」


(『六聖女』凄いですね!)


 ナナはそう言いますが、私は気が気じゃないです。

 それを察知したのかナナは、付け加えます。


「それにセンリもこの事を知っている訳だしね。ほら『六聖女』の内、二人も黙認しているから大丈夫よ!」


 知らない間に巻き込まれているセンリ。

 しかし『六聖女』というのは、そこまで発言力や権限があるものなのでしょうか?


「……でも」

「えいっ」


 渋る私を、ぎゅっと抱きしめるナナ。


「今まで、私が大丈夫じゃなかったことがあった?」

「……無いです」

「それにいざとなったら、実力行使で何とかするから大丈夫よ」

「――それだけは本当に止めて下さい!!」


 間髪いれず、突っ込みます。そして、


「……分かりました。母様を信じます」


 ナナがこれだけ言うのですから、きっと大丈夫だと思います。


「ノノ、良い子ね」


 そのままぬくもりを感じていると、ドタバタとコノカが戻ってきます。

 そして開口一番、


「……何で抱き合っているのですか?」


 呆れるコノカ。


「ノノとの愛を確認しているのよ」

「……はぁ」


 ナナに曖昧な返事をするコノカ。その顔は「え、何言っているのか理解できない」みたいな顔をしています。


「そういえば、忘れ物は大丈夫なのですか?」


 このままでは話が進みませんので、私はコノカに声を掛けます。

 コノカは「忘れてました」とこちらに封筒を差し出してきます。


「実はセンリ様から、2人宛に手紙を預かってたんです」



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