表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第三章
42/113

第四十一話

 10という数字に特別なものを感じてしまうのは、仕方のない事だと思います。

 特に0から数え、長い期間を経てまた1ずつ増えていくのであれば尚更です。

 そして9に至り、加算によって桁が増え一の位がまた0に戻る瞬間は、新しい何かを感じさせてくれます。


 つまり、私ことノノは、つい先日に10歳になりました。

 振り返ると早いもので、大分この世界に馴染んだと思います。

 身長も130センチまで伸びました。それでも他の子に比べると、小さい方らしいです。

 髪も腰まで届きました。なかなか手入れが大変で、もう少し短くしたいとは思っているのですが、ナナが「折角ママとお揃いなのに!」と許してくれません。


 今は朝の授業が始まる前の時間です。

 私以外はまだ誰も来ていません。

 教室に出入りする顔触れも大分変わりました。

 まず、トールとアンリはもう居ません。

 この世界では15歳で成人らしいです。しかしバール村では、12歳になると一人前の大人として扱われ、見聞を広げるために村の外に出て働くことが決まっているのです。

 トールとアンリも例に漏れず、12歳になるとバール村を離れました。

 いまは二人とも隣町に居て、トールは商人の下で、アンリは食堂で給仕をしながら頑張っているそうです。

 ま、そんな習慣があるから、村の人口がどんどん減って過疎化が進んでいると思うのですが。

 ちなみに見送りの日は、二人とも目を赤く腫らしていました。

 トールは、


「俺はこの村が大好きだから、一人前になったら、必ず帰ってくるからな!」


 と、格好良いことを言ってました。私もこの村が好きなので、是非頑張って欲しいものです。

 一方アンリは、


「お父さんの馬鹿!なんであたしの本を燃やしちゃうのよ。もう絶対に帰ってきてなんて、やらないんだからっ!」


 と、終始膨れっ面で父親と言い争っていました。……まぁ、何の本かは知りませんが、どんまいです。

 私が物思いに耽っていると。教室の扉が開きます。


「おはようーノノちゃん」

「カナちゃん。おはようです」


 教室に入ってきたカナデに、朝の挨拶を返します。

 カナデも大分、大きくなりました。

 身長も140後半まで伸び、今ではナナを追い越しています。

 そして何より、目が行くのは胸です!

 私の手より大きいでしょうか、明らかに昔のアンリよりも大きいです。

 そういえばトールとカナデの家族は、比較的に身体が大きいです。これが遺伝というやつでしょうか!?

 このままいけば、センリ並に大きくなると想定されます!まさしく胸囲、いえ驚異ですね!


「ん?どうしたのー?」

「いえ、何でもないです……」


 私は自分の胸を見ます。

 ぺたーんと聞こえてきそうな位に、平らです。

 大きくなんて贅沢は言いません。しかし女の子に転生したからには、せめて人並みにと願うことは罪でしょうか?


 さて、トールとアンリが居なくなり、一時期は私とカナデだけで授業を受けていました。

 あの頃はとても寂しかったです。

 しかし今年になり、新しい子供が二人入ってきました。

 おや、カナデの後ろに人影が。ちょうど来たみたいですね。


「おっはようございまーっす!」


 元気の良い挨拶と共に、カナデのスカートがめくり上げられました。


「……キャーッ!?」


 少し遅れて、慌ててスカートを抑えるカナデ。


(……白ですね)


 カナデのスカートをめくったのは一人の男の子です。

 新しく入ってきた子で、ソウセキと言います。

 実はこの子はアンリの弟で、アンリと同じ赤茶の髪をしています。

 アンリに似て活発なのはいいのですが、なかなかに悪ガキです。この年頃の男子故か、スカートめくりをしてきて、カナデはよく被害に遭っています。


「こらー!ソウセキっ!」

「あはは」


 怒るカナデに、笑うソウセキ。

 カナデも、本気で怒っている訳ではないでしょうが、全然怖くありません。

 仕方ありません。ここは私が注意します。


「ソウセキ、おはようです」

「ノノ!……おはよう」

「でも駄目ですよ!女の子のスカートをめくっては!」

「あ、……ごめんなさい」


 私が叱った途端に、下を向いて、しゅんと大人しくなるソウセキ。

 何故かこの子は私やナナの前では借りてきた猫の様になります。

 そのため私は、いまの所イタズラの被害を受けていません。


「ちゃんと反省していますか?」

「……うん」

「では謝る相手は私ではないですよ」


 私の言葉に、ソウセキはカナデに向かいます。


「……カナデ、ごめんなさい」

「もうやっちゃ駄目だよ」


 謝るソウセキに、苦笑しつつも許すカナデ。


「何でノノちゃんの言う事はしっかり聞くのかな?」


 不思議がるカナデに「さぁ?」と答えます。私にも分かりません。

 とりあえず一件落着ですね。と息をつく暇も無く、


「ののーっ!」


 開きっ放しのドアから、勢い良く何者かが突っ込んできます。

 そして、そのまま私に飛び付いてきます。

 私も慣れてもので、声を聞いた時には準備をして、そのまま受け止めます。


「ひーね、ひーはね、ののに会いたくて走ってきたんだよ!」

「まずは、朝の挨拶ですよ。ヒイラギ」


 私に抱き付きながら捲くし立てる女の子に、優しく諭します。この子の名前はヒイラギと言います。

 ソウセキと一緒に入ってきた子で、自分の事を「ひー」と呼んでいます。


「おはようございます」

「はい、おはようございます。良く出来ましたね」

「えへへー」


 私が頭を撫でると、ヒイラギは子犬みたいに喜びます。

 この子は私に凄く懐いています。

 私も好意を向けられて悪い気はしないので、ヒイラギを妹みたいに可愛がっています。


「そろそろ授業が始まるから、準備してね」

「はーい」


 返事をすると、自分の席に着くヒイラギ。

 そして、丁度タイミング良くナナが教室に入って来て、挨拶をします。


「おはようございます。みんな揃っていますね」


 教室を見渡すナナに、皆もそれぞれ返事をします。

 ナナの姿は5年経っても全然変わりません。

 銀の髪は流れるように美しく、微笑む顔は綺麗で、ずっと見ていても飽きません。


「今日は嬉しいお知らせがあります!」

「せんせー、なにー?」

「なんと、今日から新しい先生が来ます。それではお願いします」


 ナナが廊下に声を掛けると、


「あのー、本当に今日からなんですか?」


 と面倒くさそうな声だけがします。


「……みんな、ちょっと待っていてね」


 そう言い残し廊下に出るナナ。

 廊下からは、

 

「ほら私、やっぱりこういうの向いてないですし」

「誰でも最初は慣れないものよ。それにもう子供達は揃っているから」

「あー、でも。……そうだ!昨日の戦闘の疲れが出て、今日はもう駄目です。だから明日から頑張るってことで……」

「……」

「じゃ、そういうことで今日は休みま――ひっ!?」

「……」

「あ、あはは、なんか急に元気が出てきました!もう大丈夫です」

「……そう。それなら良かったわ」


(何があったんですか!?)


 きっと教室に居た子供達、皆が同じことを思ったことでしょう。

 そして戻ってくるナナ。


「さて、それでは新しい先生の登場です。みなさん拍手!」


 ナナが手を叩くと、皆もパチパチと手を叩きます。

 そして拍手の中、どこか疲れた顔をした少女が入って来ます。

 灰色の髪に、眠そうな眼。昨日街道で助けた『タリアの乙女』です。

 拍手が止むと、少女は喋り出します。


「……えーと、始めまして。今日からお世話になります。コノカ・トリエステです。どうぞよろしく」


 皆が「よろしくお願いします」と返します。


 こうして新しい生活が幕を開けました。



ちなみに「ひいいらぎ」で変換すると「ヒイラギ」になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ