第三十話
コンコン。
私はセンリの部屋の扉をノックします。
「はい」
「センリさん、お湯を沸かしました。体を拭きに下の階まで来て下さい」
「分かった。すぐ行くよ」
センリの返事を聞いて、私はドアを少しだけ開け、下の階に移動します。
そして調理場のある部屋で私はセンリを待ちます。
部屋には大きな桶にお湯が張ってあります。
この世界にはお風呂という風習がないらしく、川での水浴びや、お湯を絞った布で体を拭く事で、体の汚れを落とします。
しかし流石に元日本人としては、毎日熱いお湯に浸かりたいのが本音です。
とはいえ、今の私にはお風呂を作る技術もありません。
そこでナナに用意して頂いたのが大きな桶です。
直径は1メートル。高さは40センチ程。
本当は1メートル位の高さが欲しかったのですが、家で湧かせるお湯の量に限りがあるため、泣く泣く妥協しました。
この桶であれば、腰位までならなんとか浸かれます。
今はこんなんですけど、大きくなったら、せめてドラム缶風呂は普及させたいと思います。
ちなみに魔法でお湯を出せれば、この問題は即解決なのですが、ナナの知る限り『タリアの乙女』の術には、そういう便利系の術は少ないみたいです。
しかし術で水を出すことが可能ならば、お湯を出す事も可能だと思います。
その辺はこれからの修行で是非、身に付けたいですね。
「ノノ。お湯の支度ありがとう」
おっと、センリがやって来ましたね。
「体を拭き終わったら。声を掛ける――」
「それじゃセンリさんの服を脱がせますね!」
センリが喋り終わる前に、宣言します。
「どういう事だ?」
センリは私の言葉に眉をひそめます。
「気を使ってくれるのはありがたいが、一人で出来るため助けは不要だ」
「いえ、私がセンリさんのお背中をお流ししたいのです」
そのまましばらく睨み合います。
実は食事時にナナに宣言した「裸のお付き合い」とは背中を流す事でした。
やがて、私が断として譲らないのを悟ったのか、センリは諦めたみたいです。
「――ふっ、それならば頼もう。ただし、服は自分で脱ぐからな」
そう言うと器用に体をくねらせながら、服を脱ぎ始めます。
「ありがとうございます」
お礼を言い、私も服を脱ぎ肌着だけになります。
そして、裸体を晒したセンリの姿に、私は思わず見惚れてしまいます。
高身長にスラリと伸びた足。
健康そうな小麦色の肌。
体も引き締まっていて、かといって運動選手みたいに筋肉が付き過ぎているわけでもなく、丁度良いバランスをしています。
胸やお尻もたわわに実っており、上からボンキュッボンと魅力的な身体をしています。
(うーん。凄いです)
それに比べて、私は自分の身体を見ます。
太り過ぎでも、痩せ過ぎでもなく、とても普通です。
まぁ幼児なので仕方ありませんが、これからに期待したいです。
「それじゃ頼むよ」
センリはこちらに背中を向けて、桶の中心に座ります。
私も慌てて清潔な布をお湯で絞り、センリの背中に向かいます。
「それでは拭かせて頂きます」
「あぁ」
ごしごし。
センリの背中を拭き始めます。
「気持ちいいですか?」
「あぁ。もう少し強くても良いぞ」
言われ通り、もう少し力を加えます。
センリの身体は所々傷跡があり、歴戦のつわ者を彷彿とさせます。
「センリさんは母様とはどれ位の付き合いなのですか?」
「そうだな……ナナ殿と出会ったのは大体20年前かな」
「20年ですか!?それは小さい頃からということですか?」
「いや、私が18で『乙女』になってから、数年経ってからだな」
何だか私の想定するナナの年齢と計算が合わなくなっています。
「……ということはセンリさんは、現在40歳近くで合ってますか?」
「あぁ。私はその位で、ナナ殿はもう少し上だな」
何ですって!?
動揺で布を掴む手が震えます。
「もしかして、『乙女』が本契約をすると、身体は歳を取らないって知らなかったのか?」
「いえっ!?」
センリの言葉に驚く私。
通りでナナは見た目は14歳の少女なのに、あんなに強く、聖女のように出来た人間である訳です。
なんか色々と納得がいきました。
それにしても『タリアの乙女』は恐ろしいですね。まさか、ロリババァという属性に至る可能性を秘めているなんて!
「ちなみに私はノノが『乙女』だと聞いて、小さいのにしっかりしているから、既に本契約を済ませているのかと勘違いをしたものだ」
「……そ、そんなことはありませんよ」
誤魔化す私。
私の中身がただの幼女じゃないと、ばれるのは避けたいたいです。
とはいえ私の中身を加味した年齢(32歳)よりも、センリの方が年上なのに驚いています。
「あの、センリさんにお願いがあります」
私は慌てて話題を変えます。
「何かな?」
「もし宜しければ、食事は私たちと一緒にしませんか?」
私の手が止まります。
「訳を聞いてもいいかい?」
「先程、お食事をお持ちした時に、少し寂しそうでしたので。それに食事は皆で一緒に食べた方が美味しいと思います」
「……そうか」
「それに、もし食べ辛いのであれば、私が食べさせるのも構いません。ですからお願いします」
私は頭を下げます。
「いや、それには及ばない」
私の頭を何かが撫でます。
あれ、何が?と疑問に思い頭を上げると、
「腕っ!?」
「実は私の契約した『娘』――シラクサの腕を顕現させているんだ」
センリの肘から先に、西洋鎧の篭手みたい物が生えています。
そしてその腕は淡く輝いています。
「まぁ、そんな大層な理由が有る訳ではないんだ。やはり手が使えた方が、何かと便利でね。しかしこの腕で外で食事をすると、どうしてもじろじろと見られてしまう。それが嫌で、なるべく部屋で一人で食べるようにしていただけんなんだ」
センリはばつが悪そうに、人差し指で頬を掻いています。
何というか、シュールといいますか。
確かに、その腕だと目立ちます。それにセンリ自身がカッコ良いため、余計に。
「だからノノにそう言って貰えて、嬉しいよ」
センリは少し照れくさそうに言います。
その顔を見て、私も決意します。
「センリさんが腕の事を教えてくれたので、私も自分のことを教えます」
私はシャツを脱ぎ、上半身をセンリに見せます。
「――っ、その傷は!?」
「これは一年前に魔獣に付けられた傷で、私が『タリアの乙女』になるきっかけとなったものです」
私のお腹の上の傷を見てセンリは痛ましい顔をします。
「母様には心配を掛けましたが、この傷跡は私が友達を助けようとしてできた勲章です。ですから恥ずかしいとは思いません!」
センリは私の言葉を真剣に聞いています。
「これでセンリさんとはお相子です。センリさんは私に気を使わないで欲しいと思っているのでしょう。なので私は気を使いません。ですから、センリさんも私に気を使わないでくれると嬉しいです」
私の言葉にセンリは驚いています。
私も、つい衝動的に動いてしまった自分に吃驚しています。
やがて、センリは頷き口を開きます。
「ノノ、布を貸しなさい」
私は言われるまま、センリに布を渡します。
「丁度良い。せっかくだから、ノノの背中も拭いてやろう」
「え!?」
「私に気を使うなと言ったのはノノだろ。それに一緒にやらないとお湯が勿体無いだろう」
センリは意地悪そうな顔をしています。
「……分かりました。お願いします」
私も桶に入り、センリに背中を向けます。
「明日からは私も一緒に食事をするからと、ナナ殿に伝えてくれ」
私の背中にセンリが話し掛けます。
その言葉に私も嬉しくなります。
「はい。――ひゃっ!!」
返事をした私の背中にセンリの手が触れています。
その感触がこそばゆかったため、思わず声が出てしまいました。
「ん?ノノは背中が弱いのか。……ではここはどうかな?」
「うひゃっ!ちょ、センリさんそこは脇腹で――ひゃっ。やめて!」
「おっと、私達は気を使わない仲なのだろう」
「それとこれとは話が違――うひゃひゃっ!」
その後も、色々な箇所を触られました
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「――!!」
「――!?」
階下から、はしゃぐような楽しそうな声が響いてくる。
「……はぁ。私もノノといちゃいちゃしたい」
自室で一人寂しく、ナナは思った。
私も脇腹が弱いです。
ノノ「大きいですね(胸が)」
センリ「女性で私より大きい人には会ったことがないな(身長が)」
ノノ「ありえない!?(もっと大きい、ぱいおつがあるハズ!)」
……とかやりたかった。




