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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第二章
27/113

第二十七話

「どうかしたんですか?」

「……いや、すまない。何でもない」


 慌てて取り繕うセンリ。

 明らかにナナの名前を聞いて、一瞬固まっていました。


「もしかして、お知り合いなのでしょうか?」

「あ、あぁ。そうだな……」


 センリは歯切れの悪い返事をします。

 妖しいです。何かあったのでしょうか?


 そうこうしている内に家の前まで着きます。

 隣のセンリを見ると、「優しい……まさかな」と何か呟いています。

 とりあえず扉を開けて、帰宅の挨拶をします。


「母様、ただい――」

「ノーーノーーッ!!」


 「ま」を言い切る前にナナが飛んできて、私に抱き付きます。


「お帰りなさい!遊びに行っていたはずなのに、随分早かったわね。あ、もしかしてママに早く会いたくて、帰ってきたのかな?えへへ」

「いえ、違います」

「そんな!?」


 普段通り、テンションが高い親ばかモードのナナです。


「それより、母様にお客さんが来ています」

「誰かな?村長とか?」

「いえ」


 私は後ろを振り返ります。

 すると、私の背後でセンリはこちらを見て呆気に取られていました。


「……」

「あら珍しい、センリじゃない」


 ナナに名前を呼ばれ、はっと我に返えるセンリ。


「お久しぶりです。ナナ殿」

「久しぶりね。――っ!センリがノノと一緒に居るってことは、まさかノノを口説いたりしてないでしょうね?」

「えっ!?」


 ナナの勢いにたじろぐセンリ。

 やはりセンリは、過去にも女の子を口説いたりしていたのですか。分かります。


「大丈夫です。私は母様一筋ですから」


 私はナナに向けてサムズアップします。

 家に帰るまでに、センリにどきっとした事は内緒です。

 するとナナは「?」と顔を傾げますが、すぐに察したのか、私と同じ様に親指を立てて見せます。


(ナイス母様!)


「立ち話もなんだし、良かったらあがりなさい」

「……お邪魔します」


 明らかに困惑しているセンリ。

 そのまま、皆で教室の方に移動します。


--------------------------------------------------


 教室の中。

 ナナとセンリは空いている席に、腰掛けています。

 私はナナの膝の上に居ます。


「センリは、今も巡廻部に所属しているのかしら?」

「はい。巡廻の途中で、こちらの村に『乙女』が居ると聞いたもので寄ってみたのですが……まさかナナ殿が居るとは思ってもいなかったです」


 センリは「驚きました」と付け加えます。


「あのー、巡廻部とは何なのでしょうか?」

「巡廻部というのは、『タリアの乙女』の一部署なんだ。各地を回って魔獣を討伐したり、地方の情勢を確認して他の『乙女』と情報交換をしたりするのが主な仕事だね」


 私の質問に答えるセンリ。


「へー、他にも部署があるのですか?」

「そうだな。例えば、地方に留まり、その地の魔獣討伐を引き受ける駐在部とか、有事に備えて王都で待機している軍部。それら全てを統括する本部等がある」

「ということは母様は、駐在部に所属しいるということでしょうか?」

「正解よ。ノノ」


 私のの頭を撫でるナナ。

 どうやら組織の方の『タリアの乙女』には、公務職や会社みたいに部署が設けられているみたいです。


「……それにしても、ナナ殿は随分とお変わりになられましたね」

「それはきっと、ノノと一緒だからよ!」


 そしてナナが私に向かって、立てた親指を見せます。

 もちろん私も親指を立てて、返答します。


 センリは付いて来れないのか、乾いた笑みを浮かべています。

 それにしても、先程からセンリは借りて来た猫のようです。


「母様とセンリさんはお知り合いなのですか?」


 二人に尋ねます。


「あぁ。ナナ殿と私は『大戦』の生き残りで、共に『六聖女』として――」

「――センリ」


 センリの喋りを途中で遮るナナ。

 一瞬、空気が重くなったように感じました。

 ナナの顔からは表情が消えていて、私は初めて見るその様子に吃驚します。


(『大戦』?『六聖女』?)


「えーと、ナナ殿とは昔からの知り合いで、よくお世話になっていました」

「そうね。私が『タリアの乙女』になった後に、センリも『乙女』になったのよ」


 先程までの表情が、嘘の様な笑顔のナナ。

 どうみても何か隠しているみたいです。


「……そうなのですか」


 嘘は言ってないと思いますが、私はナナの過去を全然知らないため、気になります。


「ところでセンリ。まさか、ただの巡廻でこんな西の辺境まで来た訳じゃないわよね?」


 ナナの質問に、センリが私に視線を送ってきます。

 もしかして私が居ると話せないのでしょうか?


「ノノ、大丈夫よ。センリ、こうみえてもノノは『乙女』なのよ」


 ナナの膝から立とうとした私を、ナナが制します。


「まさか――」

「違うわ。ノノは自分で契約したのよ。勿論、まだ仮契約までだけど」


 驚きの声をあげるセンリを、ナナが制します。


「当たり前です!こんな小さな子に本契約なんて。て、そうじゃなく契約済みの『乙女』については、本部に報告する義務があるはずですよ!」

「まぁ、その件については置いておいて……」


 睨み付けるセンリを、ナナは受け流します。

 しばらくそのままの状態のセンリでしたが、ナナが話さないのを悟り、最初の質問に答えます。


「この村の東――徒歩で二週間ほどの位置にある、サキソの街をご存知ですか?」

「えぇ、かなり大きな街よね」


 私も地図で見た事がありますが、たしかに東の方にそんな街がありました。


「私は、その街の六割を飲み込んだ魔獣――『街食い』を追って来たのです」



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