第二十六話
私達は声を掛けてきた女性を見ます。
180センチはありそうな身長。
白い外套に包まれて、手は隠れていますが、スラリと長く伸びた足が確認できます。
健康そうな小麦色の肌。
中世的な顔立ちに、ショートにした紺色の髪が映えて、人目を引きます。
間違いなく美人さんですが、「綺麗」というよりは、どちらかというと「カッコ良い」といった言葉の方が合っています。
もし女子高に居たならば、間違いなくモテたでしょう。……主に女子に。
そして身に纏う外套は、紛れも無くナナと同じ外套であります。
「お姉さんは『タリアの乙女』なの?……でしょうか?」
質問をしたのはトールです。
緊張しているのか、慌てて語尾を言い直します。
「あぁ、そうだ。すまない名乗っていなかったな。私の名はセンリ・シラクサ。巡廻中の『タリアの乙女』だ」
そう言って自己紹介をする女性――センリ。
「俺はトール……です。こっちは妹の――」
「……カナデです」
トール、カナデが順番に名乗ります。
「アンリっていいます」
「私はノノです」
アンリと私も名乗ります。
「実は、この村にも『タリアの乙女』が居ると聞いたんだが、何か知らないだろうか?」
少し困った感じのセンリ。
その言葉に他の三人は、私の方を見ます。
「えぇ、知っていますが……」
「そうか!もし良ければなんだが、案内を頼めないか?」
(――うっ!?)
私の答えに、嬉しそうな笑顔を浮かべるセンリ。
その表情は眩しく、目が離せなくなりそうです。
現に、トール達三人は完全に見惚れています。
「……分かりました」
仕方なく私が答え、惚けている皆を見渡します。
「ごめんなさい。この人を案内してくるので、今日は私抜きで遊んでいて下さい」
「あっ……あぁ。一人で大丈夫か?」
「なんだったら、あたし達も一緒に行くけど」
トールやアンリの問いに「大丈夫ですよ」と答えます。
それを聞いているカナは、まだ少しぼーっとしています。
元々、この村には外からあまり人が入ってきません。
その上、センリみたいな美人に話し掛けられれば、免疫が無いため見惚れるのも仕方が無いでしょう。
「それでは案内致しますので、付いて来て下さい」
「うん、頼むよ」
先に歩き出した私に、センリが付いて来ます。
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広場から家までの道。
私は横目で、隣を歩くセンリを見ます。
横顔も凛々しく、とてもハンサムです。
先程のやり取りを見るに、意図的というより自然の内に、他の人を魅了してしまうみたいです。
「何か付いているかい?」
どうやら気付かれたみたいです。
「いえ、失礼致しました。初めて母様以外の『タリアの乙女』に会ったため、珍しくて見ていました。なんというか『乙女』は皆、綺麗なのかと思いました」
「そうか、私が綺麗かは置いといて、私の知っている『乙女』は皆、可愛いと思うよ」
私の質問に苦笑いするセンリ。
「えーとノノだったかな?それに綺麗かどうかなら、君も十分綺麗だよ」
その言葉に、不覚にも少しどきっとします。
「あ、ありがとうございます」
褒められたので素直にお礼を言います。
この人はやっぱり天然なんでしょう。
なんだか、他の女の子にも同じようなことを言っているセンリの姿が思い浮かびます。
「ところで君の母親が『乙女』なのかい?」
「はい、そうです」
センリに答えます。
「母様は凄く優しい人なんですよ。これは、私が始めて料理を習った時の話なんですけど……。私が野菜を切る時に、包丁で指を少し切ってしまいまして、すると母様は『大変!ノノの珠のような肌に傷が!』って、なんと治癒の術を使い始めたんですよ。こんな小さい傷は舐めればすぐ治るのに。なんだか怪我をした私より慌てていて、その様子が少しおかしくて。でも私の事を凄く大切にしているのが伝わってきて、私は嬉しくなってしまったのです」
――はっ!少し喋り過ぎてしまいました。
慌てて、センリの方を見ますと、
「……ぐすっ。……そうか」
少し後ろで立ち止まって、優しい顔で頷いています。
その目尻からは、少しキラリと光るものが見えます。
(えぇっ!?何で泣いているのでしょうか?)
「ノノは母親の事が大好きなんだね。それに素敵な母親だと私も思うよ」
ナナが素敵なのは同意ですが、センリは大丈夫でしょうか?
するとセンリは私の隣に追いつき、話し出します。
「いいかいノノ。『タリアの乙女』は他の人間とは違う時間を生きているんだ」
その顔はとても真剣な表情をしています。
「そのため、いつか母親と一緒に居られなくなるかもしれない。これは私からの個人的なお願いなんだが、その時が来るまでは母親のことを好きなままで居て欲しい」
こちらをじっと見つめるセンリ。
私もセンリの目を真っ直ぐに見つめて、
「はい!母様のことは、この先ずっと大好きです!」
「そうか!」
私の答えにセンリが、嬉しそうな顔をします。
センリは結構、表情豊かです。それがとても素敵に思います。
「あ、そろそろ着きます」
もう少し話したいとは思いますが、家が近づいてきたので声を掛けます。
「そうか。……ところで、君の母親の名前は何て言うのかな?」
センリの問いに私は答えます。
「ナナです」
「……え?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をするセンリ。
「私の母様の名前は、ナナ・ラヴェンナといいます」
「――っ!?」
名前を聞いて、センリの表情が一気に凍りつきます。




