第二十五話
私――ノノが魔法を使えるようになってから、早いもので一年が経ちました。
初めて魔法を使った時は、魔力切れで気絶してしまいましたが、成長と共に少しずつ魔力の量も増えていったらしく、今では仮契約を30分は維持出来るようになりました。
残念ながら、他に魔法を使用するともっと短くなってしまいますが……。
しかし、それでもナナに言わせると十分な時間らしいのですが、どうなのでしょうね?
またこの一年の間で、仮契約後に幾つかの魔法を使用できるようになりました。
『タリアの乙女』が使用する魔法は二つの体系に分かれています。
一つ目は『顕現』です。
これは『タリアの娘』がもつ能力を、契約者である『タリアの乙女』に顕現させることを言います。
ここでいう能力にあたるのは、『娘』の武装や、身体能力などの『娘』が備えている能力です。
例として、ナナが使用する大鎌や、身体強化が挙げられます。
ちなみに『娘』は必ず、最低一つの固有武器を所持していて、それは『娘』ごとに異なるそうです。
二つ目は『術』の使用です。
これは本来、『娘』が備えていない能力を発現することを言います。
術を使用する際には、詠唱――『娘』への願いや指示が必要になります。
例として、治癒の術、障壁の術などがあり、どちらかというと、こちらの方が魔法っぽいですね。
基本的に術の使用については、どの『娘』にも使えない術は無いそうです。
ただし、『娘』ごとに得手・不得手があり、炎の術が得意な『娘』は水の術が苦手だったり、その逆もあったりするみたいです。
また契約者である『乙女』の資質も影響するそうで、『乙女』の魔力やセンス次第で、術は如何様にも変化するらしいです。
こうしてみると、『タリアの乙女』は結構、汎用的だと思います。
ナナに言わせると、『乙女』はそれなりに数が多く、魔法も体系化されているため十分なノウハウが蓄積化されているとか。
それにより、多くの『乙女』が一定水準以上の強さを備えており、安定して魔獣討伐を任せられるらしいです。
私が今使えるのは、武器の顕現、身体強化、障壁の術のみです。
武器の顕現と身体強化を覚えた時点から、ナナとの修行は模擬戦メインになったため、術はほとんど使えません。
障壁術に関しては、ナナに隠れてこっそり練習した成果です。
まぁ、その結果が、ノノの攻撃を避けられずに一瞬の内に終わるか、避けられてもこちらの攻撃が当たらない。といったものです。
まだまだ修行不足を実感します。
いつになったら、ナナの様に強くなれるのでしょうか?
そんなことを考えていると、
「ノノちゃん」
私の名前を呼ぶ声がします。
「カナちゃん」
私も相手の名前を呼びます。
私に声を掛けたのは明るい茶髪の少女――カナデです。
一年前までは「カナデちゃん」と呼んでいたのですが、秘密基地の一件以降、カナデの方から呼び捨てで呼ぶようお願いされた為、今では「カナちゃん」と呼んでいます。
今日は皆で遊ぶために、村の中央にある広場で待ち合わせをしていた所です。
さすがに毎日修行――ナナとの模擬戦は心が折れるため、一回休みです。
「ぼーっとして、どうかしたのかノノ?」
続けて声を掛けてくるのは、カナデと同じ茶色の髪を短く刈った少年――トールです。
トールもカナデも一年前に比べると、少ずつ大きくなっています。
「いえ、あっという間に一年経ったんだなと。少しだけ考えごとをしていただけです」
思い返せば、第二の人生もまだ5年しか経っていません。
死に掛けたりもしましたが、それでも毎日が充実していて、前世の大人5年分より長く感じます。
「そうだね、ノノちゃんはナナ先生に結構似てきたよね」
「そうだな。似てきたな」
カナデの言葉にトールが頷きます。
確かにナナとお揃いになる様、銀の髪を伸ばしていますが、そこまで似ているのでしょうか?
「お待たせ。どうしたの?何の話?」
こちらに駆け足でやって来て、会話に加わるのは一人の少女――アンリです。
「いや、ノノがナナ先生に似てきたなって話しだ」
「あー。なるほど」
トールの説明に得心がいったのか、アンリも頷きます。
「いえ、私なんかに比べたら母様の美しさは天上の芸術で、とてもじゃなくても私など足元にすら及びません。アンリもそう思いませんか?」
「いや、あたしはそういうところも先生に似ていると思うんだけどなぁ……」
若干、優しい目でこちらを見つめるアンリ。
「そういうところって、どこでしょうか?」
口に出しますが分かりません。
他の二人を見ると、トールは視線を逸らして誤魔化しているし、カナデは苦笑しています。
むぅ……何でしょうかこの疎外感は。
「私のことよりも、アンリの方が成長しているじゃないですか!特に胸!」
びしっとアンリの胸を指差します。
実はここ一年で一番成長したのはアンリです。
身長もトールより高くなり、身体の方も丸みを帯び、女の子っぽくなってきました。
具体的に……胸と胸とか胸だったり。
この間、皆で川辺の水遊びをしました。
この世界には水着がないため、川には入る時は普段来ている服か、または薄着で入ります。
となると、必然的に白いシャツが水で透けて、身体のラインが出てしまいます。
案の定、アンリの膨らみかけの胸も分かりました。
え?トールはもちろん留守番です。
「――なっ!?」
私の言葉に顔を真っ赤にして慌てるアンリ。
そしてその隣で、同じく顔を赤くしてそっぽを向くトール。……このむっつりめ。
カナデも「アンリお姉ちゃん、おっぱい大きくなってきたよねぇ」と無邪気に同意しています。
そうやって皆でギャーギャー騒いでいる内に、気付くと何故か広場にいる他の大人達もざわざわと騒がしくなっています。
「何かあったのか?」
トール達もそれに気付き騒ぐのを止め、回りの様子を窺います。
大人達の会話からは時折、『タリアの乙女』とか『ナナ様』といった単語が漏れ聞えてきます。
(もしかして魔獣が出たのでしょうか?)
最近は余り魔獣が出ていないため、そろそろ出没してもおかしくありません。
「あの――」
大人に話を聞こうと声を掛けようとした瞬間、唐突に村の広場が静まり返ります。
そしてその静寂の間隙を縫って、村の広場に一人の女性が現れます。
その女性は視線を彷徨わせ、こちらに気付くとそのまま歩み寄ってきます。
「そこの子供達。すまないが、この村に居る『タリアの乙女』の事を知らないだろうか?」
目の前の女性が声を掛けて来ます。
その女性の格好は、――ナナがよく使っているものと同じ外套を羽織っていました。
やっと魔法説明回が終わった!




