第二十四話
「そういえば、母様はどんな『娘』と契約しているんですか?」
疑問に思い、聞いてみます。
「私が契約している『娘』の名前は『ラヴェンナ』よ」
「あれ?それは母様の姓である、ラヴェンナと関係ありますか?」
ナナの答えに、更に訊いてみます。
普段あまり姓は名乗らないため忘れがちですが、実はナナの名前はナナ・ラヴェンナといいます。
「『タリアの乙女』は俗世との関わりを断つために、これまで使ってきた姓を捨てるのよ。そして本契約を経て、一人前になった時に、『タリアの娘』の名を姓として名乗るようになるの」
なるほど。
ということはナナの娘である私は、今までノノ・ラヴェンナだと思っていましたが、本当はただのノノってことですね。
「まぁそれは置いておいて、今はノノの『娘』の方が優先よ」
ナナの言葉に思い出します。
そうでした。今、私は『タリアの娘』である『インペリア』と契約中なのでした。
それに賛同するように、私の内のインペリアも『うん』と頷きます。
「ノノは覚えているかしら?魔法の使用には対価が必要なことを」
「はい。一日目に聞いた魔法の概念ですね」
「そう。そして『タリア』に捧げる対価は魔力よ。魔力とは人間の内にある力のことを指していて、『構成界』に存在する『神』の力の源とも云われているわ。『神』はこの力を使い、この世界に干渉を行っているらしいわ」
ナナが魔力について説明します。
つまり神が干渉するためのエネルギーは、人間が提供する必要があるということですね。
「人間にも魔力があるのなら、それを使用して『神』のような干渉が出来ないのでしょうか?」
私はふと思ったことをナナに確認します。
わざわざ神様を中継せずとも、自分で魔法を使った方が効率が良いと思います。
「面白い発想ねノノ。だけど残念ながらそれは出来ないのよ」
こちらに感心した後、首を振るナナ。
「確かにノノの言う通り、人間が直接魔法を使えるかもしれません。でも、そもそも『神』がどうやって干渉しているか、その方法を私たちは知らないのよ。それに、例え方法を知っていたとしても、人間にそれが実行出来るかどうかは分からないわ」
「そうですか」
ナナの言葉に納得する私。
確かにそんな方法が知られていれば、神に頼る必要も無くなりますしね。
その方法は正に、神のみぞ知るってやつですね。
「なんだかノノと話していると、つい話が脱線してしまうわね」
「あ、すみません……」
ナナの言葉に項垂れる私。
「別に謝ることじゃないわ。むしろ褒めているのよ。それだけノノが賢いっていうことだから」
しゃがみ込んだナナが、私の頭に手を乗せます。
「ノノは何ていうか、少し遠慮がちなのよ。今までだって魔獣の討伐にノノを連れて行っていたのに、全然私の魔法については聞いてこなかった。その癖、魔法を使う度にとても興味深そうに見ていたわ」
ナナは、私の頭に載せた手を動かして撫でます。
どうやら興味津々だったのは、ばれていたみたいです。
「だからノノが私や魔法のことを聞いて、知ることが私は嬉しいの。私達は家族よ。家族の間に遠慮はいらないわ」
手を広げるナナ。
「……母様」
ナナの言葉に感動する私。
私もそう言って貰えて、嬉しいです。
そして、そのままナナに飛び込みます!
「ノノッ!」
「母様っ!」
ひしっと抱き合う二人。
ナナに包まれて安心しているためか、身体の力が抜けて行きます。
このまま時が止まれば良いのに――そんな事を考えていると、
『……』私の中のインペリアが退屈そうにしています。
(――ハッ!?この『娘』のことを忘れていました!)
我に返る私。
「母様、そろそろ話の続きをお願いします!」
「……もうちょっとだけノノを感じてたいの」
そして「駄目?」と訊いてきます。
もちろん「駄目です」と返すと、ナナは渋々私から離れます。
……この親ばかは一生治らないでしょう。
(インペリアごめんなさい!)
私の謝罪に『……うん』と頷くインペリア。
本当にごめんなさいです。
「えー、魔力の話に戻ります」
なんとか脱線した話に戻るナナ。
なんだか少し疲れてきました。
「実は『タリア』との経路を開いている時や、契約の間も、常に魔力を消費しているのよ」
「たしか本契約は、常に『娘』が身に宿っているのでしたね。その場合も、同じように常に魔力を消費するのですか?」
「普段は契約者の中で眠っているため、魔力の消費は発生しないのよ。勿論、必要な時には起きて貰うのだけど」
私の疑問にナナが答えます。
「それから仮契約が解除されるには、幾つか方法があります。一つ、契約者の意志で解除する方法。二つ、『タリア』との契約が破棄される事による方法。三つ、契約者の意識が途切れる事による方法。最後に、契約者の魔力が足りなくなる事による方法」
(……あれ?)
ナナの説明を聞いている内に、なんだかくらくらと眩暈がしてきます。
「……母様」
「どうしたのノノ?」
「魔力が少なくなると、どうなるのですか?」
『――!』私の中のインペリアが慌ただしくなっています。
「そうね、倦怠感を感じたり、立ち眩みがしたり、人によっては気を失う時も――」
バタン。
最後まで聞き終わらない内に、私は倒れました。
「ノノ!?」
ナナが呼ぶ声が聞えます。
(今度から魔法を使う時は、ナナとのやりとりは少し自重しよう……)
そう戒めつつ、私の意識は途切れます。
これが――後書き機能っ!?
ちなみにインペリアの固有武器はパスタマシーンです(嘘)




