第二十三話
私達は今、家の裏庭に出ています。
庭には小さな畑があり、トマトやキュウリといった、育てるのに難しくない野菜が植えてあります。
これを育てているのはナナです。私も最近は水やりとか手伝っています。
「さてノノ、まずは『タリア』との経路を開いてみましょうか」
「はい!」
ナナの言葉に返事をする私。
二日間の講義を終えて、やっと魔法の使い方を学びます。
「ノノも感じているかもしれないけど、意識を自らの内に向けると、何か蓋のようなものがあるのを感じるはずよ」
確かに『タリア』と契約してから、胸の奥に、何か扉みたいなものを感じます。
これが何か分かっていなかったため、「触らぬ神に祟りなし」とあまり意識していませんでしたが、これがナナの言う経路なのでしょう。
「……どう、感じた?」
「はい、扉みたいなのがあります」
「そしたら、その扉を開くようイメージしてみて」
ナナの言葉に頷き、私は目を閉じます。
……集中して扉を強く意識します。
そしてそのまま――
(……開放)
その瞬間、私の意識が引っ張られます!
開いた扉から、そのまま奥の方まで吸い込まれ、一気に開けた空間に出ます。
もちろん、私自身の肉体と意識は裏庭にあり、ナナの目の前に居ます。
それとは別に、新しい感覚器官が備わったみたいに、それがどこか別の次元と繋がっているのを感じます。
「おぉ!」
思わず声が漏れてしまいます。
「最初の内は変に感じるかも知れないけれど、その内に慣れるから大丈夫よ」
「なんだかフワフワします」
身体もなんだか変な感じがします。
これに近い感覚といえば、お酒に軽く酔った感じでしょうか。
「もし眩暈や疲れを感じたのなら、開いた扉を閉めるイメージをすれば、すぐに経路は閉じられるわ」
「はい。大丈夫です」
「とりあえず少し慣れるまで、そのままの状態で話しを聞いて頂戴ね」
続けて説明するナナ。
「特に問題なければ、これから『タリアの娘』と契約を交わします。これは人によって方法が異なるのだけど、こちらが契約したい意志を示す事により、『タリアの娘』の方から応えてくれるわ」
確かに私が繋がった空間には、私以外にも、別の何かの存在を感じます。
そしてこころなしか、その何かがこちらを見ている様な気もします。
「例えば、どんな方法で契約の意志を示すのですか?」
「そうね、自己紹介を始める子も居れば、歌い出す子も居るわ。とにかく『タリアの娘』に自身の存在をアピールする人が多いわね。無論、必ずしも『タリアの娘』が応える訳ではないから、契約できない子も居るけれど」
「歌うのですか?」
「歌うイメージかしらね、その子は本当に歌っていたけれど」
ナナの答えを聞いて考えます。
流石に、歌とともに契約するというのは……ちょっとカッコいいかも知れませんね!
とりあえず私も試してみましょうか。
「それでは私も仮契約をしてみます」
「頑張ってね!ノノの好きな方法を試してみて良いのよ」
ナナの言葉に頷き、私は集中します。
そして、
(……えーと、始めましてノノと申します。初めて仮契約の申し込みをします。まだまだ至らない娘ですが、よろしくお願い致します)
そう心の中で呟きます。
無難に自己紹介をしましたが、なんだかSNSとかの、あまり面白味のないコメント欄みたいになってしまいました。
しかしそんな私の意に対して、経路ごしの空間からはすぐに反応が返ってきます。
『――インペリア』
(……インペリア?)
そう声がしたと思ったその瞬間!
経路を逆流して、私の中に、別の意識が流れ込んでくるのを感じます。
「ひゃっ!……んんっ!」
「――!?」
突然の出来事で漏れた私の声。そしてそれに反応するナナ。
自分でも変な声を出したとは思いましたが、それを恥ずかしがる暇も無くどんどん入って来ます。
そして、
「……はぁ、はぁ」
ようやく終わったみたいです。
「大丈夫、ノノ?どうやら契約が出来たみたいね」
「だと思いますけど……」
ナナに自信なさげに答えます。
確かに私の中に、別の人格が宿ったみたいです。
試しに、
(こんにちは)
と呼び掛けると、『……うん』と頷いてるのが伝わってきます。
どうやら、無口な『娘』のようです。
「どんな『娘』と契約したのかしら?」
「ちょっと待って下さい。えーと……」
そう言って、自分の中の『タリアの娘』を知ろうとします。
すると、彼女の考え、知識、そういった物が少しずつ伝わってきます。
「彼女の名前は『インペリア』。得意なのは……持久戦だそうです」
「インペリアね。私も始めて聞いた『娘』かしら」
そう言って腕を組むナナ。
(持久戦が得意って、地味だけど頼もしそうですね)
私の感想に、インペリアが『うん』と頷いてるのが伝わってきます。
「――それにしても、ノノ」
「何でしょう?」
「……ママ、ちょっとだけノノの声にドキドキしちゃった」
そして頬を染めるナナ。
「――うっ!母様、忘れて下さい!」
あー、もうっ!恥ずかしい所を見られてしまいました。
なんか私の中のインペリアも『うんうん』頷いていますし。




