第二十二話
「今日は私達が契約した『タリア』についての話をします」
宣言するナナ。
昨日に引き続き、午後の教室で座学です。
「まず神との契約方法について、昨日の話を覚えているかしらノノ?」
「たしか神と直接契約するか、他の魔法使いから移譲・仲介されるかのどちらかですね」
「そうです、良く覚えていました」
褒めるナナ。
ついでにこちらの頭を撫でるため、気恥ずかしいです。
「『タリア』との契約については大多数が、他の『タリアの乙女』からの仲介による契約となっています。私も仲介による契約で『タリアの乙女』になったのよ」
「母様もですか」
「極稀にノノのように直接契約する者も居ます。ちなみに契約の移譲については、今までに魔法の始祖からの移譲しか存在しないわ」
「契約方法が違うと何が違うのですか?」
私は疑問をナナに尋ねます。
「残念ながら、その辺については私も良く分かっていないのよ。なにせ、直接契約する娘自体が珍しいからね」
「そうですか」
首を振るナナの言葉に頷きます。
これから魔法が使えるようになると分かることなのでしょうか?
「さて、続いては魔法について話をします」
おっと遂に魔法についてです!
わくわくしてきました。
「ノノは『タリア』との契約は済んでいるけど、実はそれだけでは魔法は使えません」
そうなのですか?
「魔法を使うためには『タリア』の他に、『タリアの娘』とも契約する必要があるのよ」
「『タリアの娘』とは何者でしょうか?」
「その名の通り、『タリア』の娘よ。正確には『タリア』が創り出した生命のことね」
説明を続けるナナ。
「構成界に居る『タリア』の下には、『タリア』自身が創り出した何人もの娘が居るわ。『タリア』は自らの力を分割し、その力を娘達にそれぞれ分け与えている。そして他の神との争いにおいて、先頭に立って戦うのはこの娘達で、『タリア』はそれを指揮するだけなの」
つまり自分は後方で応援して、戦闘は数で圧倒するタイプですね。
「もちろん娘達の一人一人の強さは、他の神には及ばないわ。でも娘達が揃い、これに親である『タリア』の指揮が加わることにより、最強の軍隊の完成よ。この軍隊には他の神でも、そうそう敵うものはいないと言われているわ」
ナナの言葉に素直に感心します。
話を聞く限り、かなり『タリア』は凄い神みたいですね。
伊達に二桁に残った神ではない模様です。
「このため、『タリア』自身はこの世界に干渉せずに、『タリアの娘』が代わりに世界への干渉を行っているのよ」
なるほど。私はナナの説明に納得します。
そのために、『タリアの娘』とも契約が必要となるのでしょう。
「さて、続いて魔法の使い方について説明します。まず『タリア』との契約により、私達と『タリア』との間を繋ぐ経路が生成されているわ。普段はこの経路は閉じていて、意識すると開くようになってるのよ」
そう云われて私は電話回線をイメージします。
こちらから電話を掛ければ、『タリア』まで繋がる感じでしょうか。
「この経路を通じて、『タリアの娘』と契約が可能になる。契約が完了すると、『タリアの娘』が私達の中に宿り、その『タリアの娘』に願いをすることで、魔法が発動する仕組みとなっているわ」
つまり魔法を使用する手順としては、以下の通りです。
①経路を開いて『タリア』と接続する。
②『タリアの娘』と契約する。
③『タリアの娘』に魔法を要請する。
「また、『タリアの娘』との契約も『仮契約』と『本契約』の二種類が存在するわ」
ふむふむ。
「仮契約は一時的な契約で、特定の期間だけ『タリアの娘』が契約者に宿り、魔法が使用できます。また仮契約が終了すれば、別の『タリアの乙女』と契約することも可能です」
何かのレンタルみたいです。
「それに対して、本契約は一度契約したら生涯続く契約となるわ。この契約により、『タリアの娘』が契約者に一生宿るため、他の『タリアの娘』とは契約は出来なくなります。しかしその反面、契約した娘との結び付きが強くなり、仮契約よりも強力な魔法の行使が可能となるわ」
こちらはレンタルに対して購入するイメージでしょうか。
レンタルとは違い、ずっと使う事で自分に馴染むため、使い勝手が良いとかそんな感じでしょうか。
「仮契約と本契約では、どの位魔法の強さが違うのですか?」
「仮契約を10とするなら、本契約は大体100位かしら?」
「10倍ですか!?」
ナナの言葉に驚きます。
単純に計算して、本契約一人に対し、仮契約十人必要ってことじゃないですか。
「この数字については私の経験から出した数字なんだけど、仮契約は限界があって10までしか届かないのに対し、本契約なら100以上の力を発揮することが出来るわ」
更に強くなるのですか!?
「そのため、本契約をして初めて一人前の『タリアの乙女』となるのよ」
成る程。
さしずめ、本契約以外は『タリアの乙女(仮)』といった所でしょうか。
……どちらかというと、私はまだ『タリアの娘』と契約していないので、『タリアの乙女(未)』でしょうか。
「ところで、『タリア』との契約を解約することは可能なのでしょうか?」
「――!」
私の疑問にびくっとするナナ。
あれ、何か変なこと言ったのでしょうか?
「……実は『タリア』と契約するには、ある条件が必要となるのよ。また契約後にその条件を破ると、『タリア』の方から契約が破棄されてしまうわ」
少し間を空けてから、ナナが淡々と答えます。
「その条件は……」
「条件は?」
「それは、えーと……なんていうか」
「?」
「そう、穢れを知らない清らかな乙女であることよ!」
言い放つナナ。
心なしか、その顔が赤くなっている気がします。
(とりあえず乙女――女性しか契約できないのは判りますが……)
「母様、穢れっていうのは何ですか?」
「え!?け、穢れっていうのは……ノノが大きくなったら分かる様になるわ」
「?」
はっきりしないナナに、私は首を傾げます。
ナナもこちらの様子を見て、これでは駄目だといった具合に首を振ります。
「良いこと?ノノが『タリアの乙女』であり続けるなら、これだけは何があっても守りなさい」
そして、
「――絶対に男の人と同じ布団で寝ては駄目よ!」
注意するナナ。
(同じ布団で寝……!?)
ナナの言葉に噴出しそうになり、堪えます。
これは、さすがに私も察しました。
それはつまり処……ノノ子供だから分かんなーい。
ナナは自分の放った言葉に、更に赤くなってしまいます。
それが移ったのか、こちらまで頬が熱くなった感じがします。
「……」
「……」
沈黙が空間を支配します。
「きょ、今日はこれまでにします。明日からは魔法の実演に入るわね」
「わ、分かりました」
こうして座学二日目は終わりました。
(なんていうか……初心なナナも可愛いですね!)




