第二十一話
「……とまぁ、こうして、『魔法の始祖』は契約による神の干渉――『魔法』を使えるようになりました」
いつもの授業と同じように、丁寧に話をするナナ。
午後の教室。
午前中は賑やかなこの部屋も、今は私とナナしか居ません。
「魔法の始祖はこの後、自らの契約を他の人間に移譲する事になります。例え魔法が使えたとしても、やっぱり一人だと魔獣を滅ぼすのに限度があったから。魔法の始祖は、神との契約一つ一つを、他の人間一人一人に移しました。神と契約した者――『魔法使い』の誕生ね。こうして魔法使いを筆頭に、人間は魔獣への反撃を開始しました。――以上で話はお終い」
そう話を締め括るナナ。
「……終りですか」
「長い話で疲れたかしら?ノノ」
こちらを労わるナナ。
私がナナの元で修行をするに辺り、まず最初に行った事が座学です。
そうして聞かされたのが、この世界の成り立ちについてでした。
「魔法の始祖は、その後どうなったのでしょうか?」
「それは誰も知らないわ。ただ魔法を一つ残して魔獣と戦ったとか、魔法を失い消滅したとか、色々な説があるけど……」
「そうですか」
ナナの言葉に頷きます。
……ところで、もう突っ込んでもいいですよね?
まず、神様、減りすぎでしょう!
億から二桁って、最低でも9999万9901の神が死んだことになります。
気付くのが遅すぎです。一体、生き残った神様は何をしてたのでしょうか?
……やっぱり争いに夢中だったのでしょうか。だとしたら本当に悲しい性ですね。
『現界』で生き物を戦わせるのは良いのですが、それで神々の殺し合いが収まるのなら、もっと早く気付いていれば、9999万9901の神も無駄死にしなかったのでは?
自らの意思で『現界』に干渉できないですって?
ちなみにゲームが終わったら、『現界』をどうするつもりだったのでしょうか?
まさか放置?……いえ何も考えていないような気がします。
人間や魔獣を創った存在……については保留です。
神の中に裏切り者が居たのか?それとも本当に未知の存在が居たのでしょうか?
正直な所、他にも突っ込み所が沢山ありますが、全体的に神が、無計画過ぎる気がします。
いえ、前世における神話の中の神もこんな感じだったような気がしなくもないです。
どこの世界でも、こういう事はお約束なのでしょうか?
「何か、色々言いたそうな顔をしているわね」
「母様、教えて欲しいのですが――」
「はい、ノノ!」
こちらが話し終わる前に、びしっと指名するナナ。
「先程の話は、どこまで本当の話なのですか?」
突っ込みたいのを我慢して、先に確認することがあります。
そもそもこの話、どこまで信憑性があるのでしょうか?
「むかしむかし、あるところに……」と御伽話レベルであれば、まぁ多少話が変でも許せますが、世界史レベルで歴史認定されているのであれば、少しいい加減かなと思います。
「この話自体は、魔法の始祖から契約を移譲される際、魔法使いが聞いた話らしいわ。そしてその魔法使いも同じように契約を移譲したりする時、一緒に話をして……と、こうして繰り返し伝わった話で、大抵の魔法使いは知っている話ね」
ということは、伝言ゲームのように話が少しずつに変わっている可能性もあります。
「そもそもこの話が起きたのは五百年以上も前の出来事だから、その当時から生きている者くらい――それこそ神しか本当のことは分からないわ」
ナナもあまり、その辺は興味なさそうにしています。
「この話の大切な部分は、神と人間が交わした契約とその内容よ。そこに基本的な魔法の概念が存在するわ。まず――」
この後、ナナの話した内容をまとめると、以下の通りです。
Q.魔法とは何か?
A.『構成界』の神が『現界』に干渉する事により、起きる現象のことです。
Q.魔法を使うには?
A.まず魔法を使用するための前準備として、神と契約する必要があります。
また実際に魔法を使用するには、神への願いと対価が必要となります。(※)
神への願いとは、どんな魔法を、どの位の規模で、どこに発生させる、等の神への指示です。
対価として、大抵の場合は人間の内にある魔力を支払う必要があります。
※契約する神によって、願いの方法や対価は異なります。
Q.神と契約するには?
A.主に以下の2つがあります。(※)
①『構成界』に干渉できる人間であれば、神と直接契約する事が可能です。
②既に契約している魔法使いから、契約を移譲、もしくは仲介してもらうことが可能です。
※契約する神によって、契約方法は異なります。
うむ、分かりやすいです。
「さて、今日はこの辺にして少し休みましょうか?」
さすがにナナも話し疲れたみたいです。
私も疲れました。
「母様も魔法の修行の前に、こうやって勉強したのですか?」
最後に好奇心から一つだけ聞きます。
「私がこの話を聞いたのは『タリアの乙女』になってから、数年後かしらね。当時とてもお節介な娘が居てね、私に『こんなことも知らないのに、よくタリアの乙女が勤まりますわね!仕方ありませんから、私がしっかり教えてあげますわ』って煩かったの」
懐かしそうに話すナナ。
それにしても、その娘は見事なツンデレお嬢様ですね。
「で、ノノも煩く言われないように、知っておいて欲しかったのよ。それにノノもその娘に似ているから、知っておいて損はないと思ったのよ」
「まぁ、一番ノノが似ているのはママに決まっているけどね!」と続けるナナですが、耳に入りません。
……似ているってどこがでしょうか?まさかツンデレ?




