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白金の乙女  作者: 夢野 蔵
第二章
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第二十話

「この世界には、本当の魔法を使える者は居ないのよ」


 私――ノノがナナの下で修行するにあたり、一番最初に教えられたことです。


 これから話すのは、この世界の成り立ちについてです。


--------------------------------------------------


 私たちの住む世界、名前がないため仮に『現界』とします。

 それとは別に『構成界』なる世界が存在するそうです。


 遥か以前から、『構成界』には『神』と呼ばれる者たちが住んでいました。

 ちなみに、その頃には『現界』なるものは存在すらしていなかったそうです。


 神々は常に退屈し、互いに争い、殺し合っていました。

 そのせいで元は何億と居た神も、遂には二桁台まで減ってしまいます。


 さすがに減りすぎた神の数に、残った神々も気付きます。

 このままでは我々は滅び、後には何も残らないのではないか、と。


 元々、神々が殺しあう理由はありませんでした。

 なのに暇つぶしのために争い合うのは、神の悲しい性といえるでしょう。


 残った神々は頭を抱えました。

 神が滅びるのは困る。

 しかし神の性を止めることもできない。


 そこである神が言いました。

 私たちの代わりに、別の者に争ってもらえば良いのではないか!と。


 とはいえ『構成界』には、神々以外は誰も居ません。


 無ければ作れば良い。別の神が言い放ちます。


 まず神々は、自分達の住む『構成界』をベースにした世界を作り出しました。

 この時に創造されたのが、『現界』です。

 続いて、各々が様々な生き物を創り、『現界』に放り込みます。

 ただしすぐに争いが終わらないようにと、創られたのは神の能力を使えない生き物だけでした。


 かくしてゲームの場と駒は揃いました。

 ルールは簡単です。

 己の創造した種族が、最後まで生き残れば勝ちです。

 神は互いに殺し合うのを禁止し、ただ静観するのみです。


 長い時間を掛けた、神々の代理戦争(暇つぶし)というゲームの開始です。


 ゆっくりと争い合う『現界』の生物。

 それを眺めて退屈を紛らわす神々。

 しかし、ここで神々も想定しない出来事が起きました!


 とある生き物が台頭し始めたのです。

 それが『人間』です。

 その人間は、他の生き物よりも弱い生き物でした。

 しかし自分達よりも強い生き物を前に、数で対抗したり、道具や罠などの知恵で対抗することで勝利を納めてきました。


 その様子に『構成界』の神々も関心を抱きます。

 一体、どの神が創った生き物なのか?と。


 しかし、神々の誰も名乗りを上げませんでした。

 そんな筈はありません。

 誰かが創らない限り、『現界』に人間が存在する筈はないのですから。


 ならば誰も知らない不確定要素は取り除けば良い。そのことが神々には出来ませんでした。

 何故なら、他の神がズルをして『現界』に手出しするのを禁じるため、神々は自らの意思で『現界』に干渉できないようにルールを設けていました。

 ルールを破った神は、罰として『構成界』から滅びてしまうのです。


 そうこうしている内に、人間は家を作り、村を作り、街を作り、国を作り挙げました。

 神々は考えます。

 このままでは自分達の創った生き物が滅ぼされ、誰が創ったか判らない人間が『現界』の覇権を握ってしまうと。

 神は退屈以外に、負ける事も嫌いでした。

 どうしたら良いか?

 しかし神々の誰も答えを出せませんでした。


 そして神々が思考する中、またもや想定外の出来事が起き、事態は急変します!


 ある生き物が現れて、人間の数を減らし始めたのです。

 その生き物は、他の生き物の、一部の特徴を併せ持っていました。

 そうです。その生き物こそ『魔獣』です。


 勿論人間もやられっぱなしではありません。

 何とか対抗するものの、魔獣との力の差を埋めることはできませんでした。

 確実に減少する人間。


 神々は思いました。

 このまま人間を滅ぼしてしまえば良い。……ところで魔獣を創ったのは誰なのか?


 再び神々の誰もが答えられませんでした。


 また魔獣は人間だけでなく、他の生き物の数も減らしていきます。

 このまま魔獣に全て滅ぼされ、勝者のいないままゲームが終わるのか?

 神々が傍観する最中、ある声が聞えました。


「助けて下さい」


 声は現界から聞こえました。

 有り得ない事態に困惑する神々。

 神々は生き物を創る際、『現界』からこちらの世界――『構成界』に干渉はできないよう設計していたのです。


「誰でもいいので助けて下さい!」


 再び声がします。

 神々が声の主を捜すと、そこにいたのは一人の人間でした。


 どうするか。

 神々は悩みます。


 ある神が言いました。

 今、我らの他に、『現界』に干渉する未知の存在が居る。一つは人間を創りし存在、もう一つは魔獣を創りし存在。これまで我ら神々は互いに争ってきたが、新しく未知の存在と争い合うのも、一興ではないか?と。


 別の神が言いました。

 其れならばいっその事、人間に魔獣を滅ぼして貰うのはどうか?その上で人間には他の生き物を滅ぼさないように約束させてしまえば、ゲーム自体も続行されるであろう、と。


 他の神々もこの意見に頷きます。

 こうして全ての神は、その人間と約束――契約を交わしました。


 契約の主な内容は以下の通り。


・人間の願いと対価を受けて、神は『現界』に干渉すること。

・人間はいずれ魔獣を滅ぼすこと。

・人間は自らの手で、魔獣以外の生き物を滅ぼさないこと。


 この内容なら神々が定めし、干渉のルールに触れることもありません。

 他にも、神ごとに異なる内容を契約に盛り込む神も居ました。


 こうして全ての神と契約を交わした人間は、神の力を借り魔獣を討伐することになりました。

 後にその人間は、他の人間から『魔法の始祖』と呼ばれるようになります。



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